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11.どういう事ですか

11.どういう事ですか


 リズは額を押さえ、眉間に酔ったしわを指で伸ばしながら俯いていた。その指はしきりに、頭の中身を探るように落ち着かなく動いている。

「えー……、どこだったっけー……?」

 必死に考えるのは、主人を送った場所の心当たりだ。移送の魔法は普通送り先を決めて行うのだが、咄嗟の事だったので彼女はそれを意識せず魔法を行使したのだ。元々頻繁に使う魔法ではないので、使ったリズ自身も勝手が分かっていなかった。

「早く思い出してくださいよ。動くに動けません」

 クーラーボックスの中から、ロジオンのせっつく声が上がる。その上に腰掛けていたたリズは、負い目と責任感から言い訳をこぼした。

「そんな事言われても、仕方ないでしょ。あいつを見て思い浮かぶ場所なんて、それこそ……あ」

 そこでリズは指を鳴らした。

「どうしました?」

「思い出したのよ、あいつの送り先!」

「本当ですか!?」

 ロジオンの入ったクーラーボックスががたんと揺れる。リズは腰が跳ねる事を不愉快に思い、思いきり腰に体重をかけて箱を押さえた。

「ええ。あいつ今自分が吸血鬼なの忘れてるでしょ?だから、行けない場所って多いと思うの。それであたし思ったの」

 こう言った後、彼女は続きを言い渋った。自分の言おうとしている事が無責任な思い付きと気付いたからで、彼女はとぎれとぎれにこう続けた。

「き、教会、なんてどう、かなぁって……」


 主人は身を起こし、全身の木屑や埃をぱっぱと払いのけると、黙って辺りを見回した。教会の内装は質素ながらも整然としており、そのせいか人の出入りをほとんど感じさせなかった。採光を兼ねたステンドグラスと窓とを除いて照明の類はなく、色ガラス越しの光がたたえた水のように静かに教会の中を照らしている。梁の隅や椅子の下の所々には蜘蛛の巣が張っており、入り口から司祭の立つ壇までをつなぐ赤いカーペットの上には、うっすらと埃が積もっていた。

「何とも陰気だ。そして居心地が悪い」

 主人はわざと声を張り上げて独り言を言った。たった一人でがらんどうの教会の中を見渡せるのが、彼にとっては面白くなく、落ち着かない。それはからっぽの空間に寒々しさを感じたのと、何より言葉にできない感覚のせいだった。そのせいで、この場所が自分にとって良くない所だと、主人にはすぐに理解できた。

「実に不愉快だ。早く帰るか」

 彼は言いながら出口に向かって歩き出した。離れた所に落ちていた帽子を掴んで頭にかぶり直し、カーペットに向かって闊歩する。その途中、彼の耳がこんな声をとらえた。

「お……、……ちか……!?」

 カーペットの上に乗りかけた主人の足が止まる。

「……?」

 声のした方向に主人は視線を向ける。声は教会の奥まった部分にある、懺悔室の扉から上がっていた。好奇心から、主人はそこへ足を向けた。近づくにつれ、声が次第に鮮明に聞こえるようになる。

「……しなぁ、これっぽっちが……だぞ?」

 またも声。先ほどとは別のものだ。

 主人が懺悔室の扉を開く。神父が罪を聞く側の部屋にすでに椅子はなく、壁の小窓の柵もない。かかっているカーテンも経年劣化で黄色くくすみ、ぼろ切れ同然だ。そのぼろ切れの裂け目から見える部屋にも誰もおらず、主人は声が屋外からしている事に気付いた。二人の男が言い合っているようだ。小窓から壁の向こう側を睨み、主人は耳をすませる。

「頼むよ、これだけしか……」

「金を用意すると言ったのはお前だろ。取引は無効だ」

「ま、待ってくれ!明後日、いや明日にでも金は……」

「くどい」

 がちゃ、と軽い金属同士のかち合う音が上がる。

「わ、分かった分かったよ。だからそいつをしまってくれ!」

 男の焦る様子に、主人は声の言う「そいつ」が何か気になった。外につながる扉はあるのだが、部屋と部屋とを隔てる懺悔室の壁に扉はない。なので、彼は小窓から向こう側に出ようとした。

 ぼろ切れを押しのけ、頭と両手とを窓から通す。両肩をねじこむと何とかそのまま向こう側に出ようと身を乗り出した。ここまで出せれば出られると主人が思ったのも束の間、腰がつかえてしまい彼はバランスを崩した。足が浮いて頭が下がり、慌てて下に手を伸ばす。

「おっとと……!」

 主人の手が床に触れ、持ち上がった足のかかとが窓より上の壁を叩く。無遠慮ながたん、という音が上がると、壁の向こうの空気が一気に変わった。

「おい、誰かいるぞ!」

「チッ、浮浪者でもいたのか!」

 二人の声が緊張し、扉のノブが回る。主人が顔を上げると、開いた扉の向こうには、二人の男がいた。

 片方はどこにでもいる太った中年だが、その顔色は異様に悪い。青白いのと顔の堀りが深いのとが合わさり、不健康な印象を見ている側に強く与えてくる。手にはくしゃくしゃなドル紙幣が数枚握られている。もう片方の男はサングラスをかけており、背が高い。スーツ姿で、手にはトランクケースと、拳銃とが握られていた。

 主人は腰で窓からぶら下がったまま、彼らを見上げた。

「痛た、ちょうどいい、ぜひ助けてほしい」

 二人が眉をひそめる。彼等からすれば、黒い外套を着た美男子が、窓から抜け出そうとして失敗しているようにしか見えなかった。腰がつかえて出るに出られない様は、誰が見ても間抜けな姿だ。

「なんだ貴様、遊んでいるのか?」

 銃を構えた男が主人に尋ねる。

「失敬な、遊びで困る事などあるまい。楽しむというのは優位に立ってこその感覚だぞ。その点で言えば、私は今真剣だ」

「何言ってんだこいつ?」

 中年が声を荒げた。主人は自分の状況が彼らに理解されていない事にむくれる。

「私は困っているんだ、それが分からんのか!?」

「アホなのには違いないな。……聞いたか?」

 スーツの方が手にした銃を主人に向ける。しかし、主人は銃を脅威と感じていなかった。

 主人やその親が領主として対外的な生活をしていた頃、戦人は鎧を着こみ剣を取っていた。人の世に銃が出た頃には、主人はすでに城にこもる生活に慣れており、銃など一目も見たことがなかったのである。

 主人は怪訝な顔をして男を見上げた。

「何をだ?お前達が何かを言い合っているのは聞こえたが、何の話か……」

 主人の声は、銃声に遮られた。主人の体が窓を起点に大きく跳ねる。 

 ぶらんぶらんと彼の体が振られ、やがて動かなくなる。それきり、何も言わなくなった。

 窓からぶら下がった男が動かないのを見て、スーツの男が銃を下げる。

「静かになったな」

「お、おい、いいのか、なあ?」

 中年が動揺して聞くと、スーツは胡乱げな目を彼に向けた。

「お前は何を俺から買う気だ?」

「そ、それは……」

 しどろもどろになる中年が、銃と撃たれた男とを見比べる。撃たれた男は動かず、銃口からは細く昇る煙が何度もくねってはよじれる。それが中年の不安な感情を強く煽った。中年の思考を見透かしたように、スーツが鼻で笑う。

「明日まで待ってやる。それまでにあと100ドルは集めておけ」

「え、あ、もちろんだ!だから頼む、薬を……」

 そこまで中年が言った時、主人の体が大きく跳ねた。

「何だ、痛いぞ!何が起きた!?」

 額を押さえてわめくのは、他ならぬ主人だった。スーツと中年が、驚いて彼を見る。撃たれたはずの男は、目を白黒させてあちこちに目を巡らせている。二人の男からすれば信じられない光景だった。スーツが動転して銃を再び主人に向ける。

「お、お前何で……」

「え、何?何が飛んだか見えたのか?蠅だか蜂だか知らないが、いきなり私にぶつかった!おのれ、蜂にはろくなのがいない!」

 饒舌な主人に反して、スーツと中年が顔を見合わせる。拳銃が向けられているというのに、主人は怯えた様子を微塵も見せない。二人にはそれが何より不可解だった。まさか相手が銃を知らない事など、彼らが知る由もない。何より、今の主人の状態が二人には信じられない。

「ああそうだ、見たなら是非教えてほしい!何を話したかは知らんが……」

 銃声。再び主人の体が大きく揺れ、沈黙が降りた。慣性で窓枠からぶら下がったまま降られる主人を、スーツと中年が固唾を呑んで見る。

 再び、頭が上がった。

「まただ!どこだ!蜂はどこだ!」

 わめく主人を見て、二人の顔は青ざめた。

 上がる絶叫。響くこだま。彼等に釣られて主人も驚く。

「何だ何だ!一体どうした、どんな蜂だ!」

 未だ腰を窓から引き抜けずにいる主人が、慌ててもがく。その様子がさらに二人の恐怖を駆り立て、悲鳴をさらに大きくした。

 ついに二人とも持っていたものを投げ出し、そこから逃げ出した。落とされた鞄が開き、紙切れが舞う。

「あ、待て!抜いて行け!お願い、待って!」

 主人が引き留めようと声を張り上げるが、それは聞かれなかった。悲鳴は遠ざかり、やがて聞こえなくなる。完全において行かれてしまい、主人は恨めし気に彼等の消えた方を睨む。

「何だ勝手に騒いで消えるとは。礼節を知らない奴等だ」

 額に穴を二つ開けた男は、そう言ってふん、と鼻を鳴らした。


 あきらが校舎を出ると、そこで待ち構えていたリズと目が合った。

「あ……」

「ハァイ。少しいいかしら?」

 気さくに話しかけられる事に戸惑いながら、あきらは黙って頷いた。

「そう、良かった。じゃあ、ここから離れましょ」

 リズはそう言って踵を返し、大きなクーラーボックスを後ろ手に引いていった。あきらはその後を追って歩く。彼女は箱に目を落とし、それに疑問を持った。が、以前の主人とのやり取りを思い出すと中身にも見当がついた。クーラーボックスのふたの境目からは、か細く水がこぼれ落ちている。

「あの、これ……」

「ああ、ロジオンよ。気にしないで頂戴」

 リズが当たり前のように言うと、箱の内側からコツコツと叩かれる音が聞こえてきた。あきらはこちらの声が聞かれていると分かり、なぜかほっとする。

 と、あきらの背後で一人の男が足を止めた。

「あれアキラ、その人誰だい?」

 あきらが振り返ると、そこにはジェームズがいた。あきらからすれば、ノートの貸し借りで終わった相手だ。その彼がまた自分に声をかけてきたというのが意外で戸惑った。

「あ、ええと……」

「初めまして、あきらの友達よ」

 あきらが返答に困っていると、リズがジェームズににっこりと笑った。

 ジェームズは目を丸くしてリズを見る。銀髪で黒い肌の女など、彼にとっても見慣れない存在だ。彼は驚いた顔のまま、あきらに目を向けた。

「……変わった友達だね」

「そ、そう?」

 あきらが戸惑った声で尋ねると、リズが首を傾げてみせる。

「何か?」

「いえ、別に。それより、何かご用?」

 ジェームズの問いに、リズは思い出したように頷いた。

「ええ。近くに教会がないか、知らない?」

「教会、ですか?」

 あきらとジェームズが首をひねる。

「そうよ。ちょっとね、知り合いがいるかもしれないの」

 事情を知らないジェームズの手前、リズは詳細をぼかす。しかし、あきらは誰のことなのかすぐに分かった。なまじ自分の目で消えたのを見ただけに気になっていたのもある。

「あの人今どこに?」

「さあ……?あたしにも、心当たりがあるってだけで確証はないのよ」

「え、じゃあ今から迎えに行くんですか?」

「もちろんよ。あなた、あいつが何か分かっているでしょ?」

 あきらは答えなかった。理由はわざわざ口に出すまでもない。

 主人は吸血鬼で、今は教会にいるかもしれない。それはつまり、主人にとって良くない事が起こるのをあきらに危惧させた。吸血鬼についてよく知らない彼女でも、吸血鬼の弱点は指折り数える事ができる。そのどれもが、命に関わるものだ。加えて、教会にはそれに関わるものがいくつもある。

「早く行きましょう。教会は確か……」

 あきらが場所を尋ねるようにジェームズに目を向ける。ジェームズは事情が分からないなりに、素直に応じた。

「町はずれに使われてないのがあるよ。でもそこ、麻薬の取引があるって噂があるんだ。だから、気を付けて」

「ありがと。あきら、行きましょう」

 リズが早足で先を行きながら、あきらに言う。

「え、あの」

「ほら案内、お願いね」

 有無を言わせずどんどん進むリズの様子に、あきらは同行せざるを得なかった。

 

「やれやれ、ひどい目にあった」

 窓から体を抜いた主人は、一人でそう愚痴をこぼした。

 前後に横にと細い腰をくねらせ、具合を見る。

「よっ、はっ。ようし、痛くない」

 痛みの残っていない事に満足し、主人は両手で背中を押さえて背筋を伸ばした。

「ん、ん。しかし何だな。結局出ようとした窓から引っ込むしかなかったとは、何だか負けた気分だ」

 教会の中を見回し、彼はそう一人ごちた。依然教会に人の気配はない。このままいてもする事がないので、彼は逃げ出した二人のいた教会の裏手へと回る事にした。壁沿いのすぐ近くに裏口があったので、外に出るのは簡単だった。

 かぶった帽子の唾の下に、不意打ちのように陽光が差し込む。

「おっとと」

 すぐさま主人は帽子を傾け、日を遮った。もちろん、日に焼けるのを危惧してだ。

「冬が近いらしいが、気をつけないとな。蜂もまだ飛んでいるし」

 彼は早足で教会の裏手に回ると、すぐに懺悔室の入口の前に着いた。そこは教会のすぐ裏で、人目につかない位置になっている。狭いその一帯にはごみが散在しており、主人は散らかされたものに目を落とした。積み重なったチョコレートの包み紙や空き缶等に混じって、しわくちゃのドル札がいくつかと、口を開いたトランクケースとが地面に転がっていた。先ほど主人が目撃した二人が置いて行ったものだ。主人は身を折り、トランクの中から零れ落ちているものを一つつまみ上げた。

「何だ、こりゃあ?」

 小さなビニール袋に詰まっているのは、白い粉末だった。見る限り小麦粉のようで、主人からすれば何の面白みもない。

「……取引、か?小麦粉を?……分からん」

 主人は眉根をひそめ首を傾げた。つまんだものから手を離し、顔を上げる。

「つまらんなぁ。分からんからつまらん」

 文句を言ってそこを出ようとすると、彼の後ろから足音が上がった。主人が足を止めて後ろを見る。

 そこには、警官が二人いた。揃って渋面を主人に向けていたが、主人本人にとってはささいな事だった。

「ちょうど良かった、これは何だ?ぜひ聞きたい」

 二人の警官はその言葉に目を丸くした。主人の呑気な態度を前にして、警官の一人がもう一人にこう尋ねる。

「今時は、売人もヤクを吸うのか?」

 もう一人は、これに答えかねるという風に首をひねった。


 信号が赤に変わり、リズが横断歩道の前でバイクを止める。きゅ、というブレーキの音の後、エンジンが不満を訴えるようにドルドルと静かに唸る。

「どう、いた?」

 リズは後ろで自分にしがみついているあきらに尋ねるが、そのあきらは「いいえ」と返事を返した。未だ見つからぬ主人に苛立ちながら、リズは何度目かのその答えに相槌を打つ。

「そう。全く、どこにいるんだか」

 こん、こん。

 サイドカーの座席に無理やり突っ込まれたクーラーボックスの内側からノックが上がる。物言いたげなその音に、リズは渋面を浮かべて音の出所を睨んだ。

「分かってるってば。せっつかないでよ」

 こんこん、こんこん

「何よ、言いたい事があるなら言いなさいよ」

 こんこん、こんこん

「……アンタ、そんなに嫌味だったっけ?」

 リズが不機嫌になって尋ねるが、ロジオンは答えなかった。彼女の知る限り、ロジオンはこうしたあてつけがましい真似をする性格ではない。何より彼は彼女を恐れているから、自分から率先して喧嘩を売る事などない。

 ロジオンの行動の意図が見えないでいるリズに、あきらがふと思い至る。

「もしかして、喋れないんじゃ……」

 こん

 あきらの推測を肯定するように、ノックが一度返ってきた。

 前方の信号が青に変わり、リズがバイクを発車させる。サイドカーに突っ込まれたクーラーボックスが傾き、ふたの隙間が広がる。

 そこから先は一瞬だった。内側からふたが強い力で押し出され、その口が開く。溜まっていた水が一気に吐き出され、ずぶぬれになったロジオンが姿を現した。

「ぶはあっ!」

 辺りに水をまき散らし、ロジオンが濡れた顔や髪を両手で一気に拭った。体のあちこちに付いた濡れ新聞紙を一枚一枚はがしていく。

「あー、ようやく自由になれた。氷が溶けて、喋るのも不自由で……」

 した、と言いかけてロジオンは隣の二人の様子に気付き手を止めた。彼女等のかぶるヘルメットの表面には水が飛び散っており、着ている服は共にずぶぬれで肌に張り付いていた。

「……あのね」

 リズがハンドルを握ったまま、胡乱げな目を彼に向けた。走行中のバイクの上で、ロジオンがバランスを崩し、自分の入っていたクーラーボックスをかぶるようにして座席に座る。

 箱を持ち上げ、ロジオンは恐る恐る顔をのぞかせて申し訳なさそうに言った。

「……すいませんでした」

 リズは答えなかった。ハンドルを離さず、自分の後ろにちらりと目を向ける。

「ごめんね、こんなんで」

「い、いえ……」

 あきらはこう言ったが、向かい風で体が冷えてきた。ポケットの中のハンカチまでもがずぶぬれになり、両手もふさがっているので拭くに拭けない。

「へくしっ」

「あらら」

「す、すいません……」

 箱をかぶったままロジオンが縮み上がって謝った。そんな彼に、リズが嫌味っぽく聞く。

「ていうか、何で開けたのよ?あなた息してないのに」

「いや勝手に壊れたんです。安物じゃないですかこれ」

「そりゃそうよ、そんなのしかないんだし。どこの世界に、人間入れる高い箱があるのよ」

「一応ありますよ。絶対入りませんけども」

「?……ああ、あなた野ざらしだったんだっけ」

「ええ。ですから、貴重な体験でした」

 二人の会話を、あきらは理解できないまま黙って聞く。バイクは進み、やがて駐車したパトカーの前に差し掛かった。そこでリズがバイクを止める。

「っとと。どうされました?」

「ちょっと聞いてみる。あいつの格好は目立つし、保護されてるかも」

「あなたがそれを言いますか」

 本心からロジオンが呆れるが、リズは全く意に介さずパトカーを覗き込んだ。警官が座っているのに気付くと、彼女はパトカーの窓ガラスを軽くノックした。その窓がすぐに開く。

「ちょっといいかしら?人を探してるんだけど」

 リズが訪ねると、話しかけられたその警官は目を丸くして彼女を見た。

「こりゃ驚いた、ストームじゃないか」

「はい?」

 警官の言葉に、リズは首をひねる。有名なアメリカンコミックのキャラクターなど、彼女は知る由もなかった。

「ああ失礼、ファンでして。それで、御用は?」

「知り合いを探しているの。真っ黒な格好でとんがり帽子をかぶってるんだけど」

「んー?……ああ、そういえば」

 警官は無線機を取ってこう言った。

「こちらウェスト2、ヤクの売人を知る連中が出ました、どうぞ」

「……は?」

ロジオンがいないと筆が進みません。


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