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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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007話 魔法都市ガイア

王都を出発して数日ーー

長い街道を抜け、視界の先に広がったのは、高くそびえる城壁と、空を突くような魔導塔。


魔法都市ガイア――世界有数の魔術の都。空中を漂う魔導ランプや、頭上を飛ぶ魔法生物たちが、街全体を幻想的に彩っていた。


「わぁ……!」


ライカがローブのフードを深くかぶったまま、きらきらと目を輝かせる。

その瞳は、好奇心でいっぱいだった。


門をくぐった瞬間、彼女は完全に景色に夢中になったらしい。

露店に並ぶ色とりどりの魔法石、宙に浮くガラス細工、見たことのない魔道具。


「ねぇねぇ! あれなに!? ……あっ、あっちも!」


「おい、はぐれるぞ」


アレフの注意も聞かず、ライカはぴょこんと人混みに飛び込む。


「お、お嬢様! お待ちを!」


ジェームスが慌てて追いかけ、何とか腕をつかんだ。


その小さな手には、ビー玉くらいの光る石が握られている。

淡いピンク色に輝くその石を、ライカはうれしそうにアレフに差し出した。


「無駄遣いする余裕なんてないぞ……」


ライカは小首を傾げ、うるんだ瞳でアレフを見つめる。


「お兄……ちゃん」


アレフの心臓がトクンと跳ねた。


「……ここ、今回だけだからな」


そう言って、アレフは少し顔を横に向けた。

頬に熱が集まっていくのがわかる。


「みてみてっ! きっとすっごい魔法の石だよ!」


「……いや、それただの飾り用の光る石だぞ」


ぱちぱちと瞬きをしたライカは、頬をぷくっと膨らませた。


「……でもかわいいから、いーもん!」


そう言って胸元に大事そうにしまい込む彼女に、アレフは思わず小さく笑った。


その後、アレフたちが向かった先ーー

魔法都市ガイアの中心部。

ひときわ大きな建物――冒険者ギルドは、昼間から人の声と活気に包まれていた。

冒険者たちが依頼票の張り出された掲示板の前で口論をし、受付嬢の前には討伐報告の列ができている。


「……やっぱり人が多いな」


アレフは肩をすくめつつも、掲示板へと歩み寄る。

ライカはと言えば、ローブのフードを目深にかぶったまま、きょろきょろと辺りを見回していた。


「ねぇねぇ、いっぱい字が書いてあるね! これ、みんな魔法の名前なの?」


「違う、依頼の内容だ。……まぁ、似たようなもんかもしれんが」


アレフは依頼票をざっと眺める。魔物の討伐、物資の護衛、魔草の採取……どれもよくある内容ばかりだ。

その中に、一つだけ気になる文言が目に留まった。


――《山岳奥の洞窟にて、希少魔石の採取》


アレフは小さく唸り、依頼票を剥がそうとしたその時。


「やめときな、小僧」


背後から低い声が飛んだ。振り返ると、分厚い腕を組んだ大柄な男が立っていた。筋骨隆々のベテラン冒険者といった風貌だ。


「……理由を聞いても?」


「二つある」


男は指を二本立てる。


「まず一つ、あの山岳は《邪竜》と噂される(ドラゴン)の巣がある。滅多に姿は見せねぇが、運が悪けりゃ鉢合わせだ。そうなりゃ、上級冒険者でも命はねぇ」


「邪竜……」


アレフの眉がわずかに動いた。


「二つ目は……その洞窟の奥に眠るっていう魔導書だ」


「魔導書……!」


ライカがぴくんと反応する。フードの奥から、好奇心いっぱいの目がのぞいた。


男は顎をさすり、声を潜める。


「噂じゃ、その本に触れた者は魔力を根こそぎ吸い取られちまうって話だ。下手すりゃ、二度と魔法が使えなくなる」


「……なるほど」


アレフは依頼票を手に取るのをやめ、静かに掲示板を見上げた。

一方のライカは、子どもらしい無邪気さで口を開く。


「でもでも! 魔力がなくなっちゃったら、アレフおにーちゃんが、僕をだっこしてくれるんでしょ?」


「……いや、それは別問題だ」


思わず真顔で返すアレフに、ジェームスが堪えきれず咳払いで笑いをごまかした。


しかしアレフの胸の内には、魔導書の言葉が深く残っていた。

魔力を吸い取る――それは、グラトニーと似た気配を感じさせる。


アレフはそっと、腰に吊した魔剣へ視線を落とした。

黒い鞘に封じられたそれは、まるで嗤うように、かすかに脈動していた。


男からの忠告を聞き、アレフたちは依頼書をそのまま掲示板へ戻した。

ギルドのざわめきを背に、三人は外の石畳へと出る。


「……それで、どうするおつもりですかな?」


ジェームスが低く問う。

アレフは空を仰ぎ、しばし黙した後に答えた。


「行くにきまってる。魔導書の噂が事実なら、呪いかもしれない。そして、それが本当に呪われた魔導書だったなら……絶対に手に入れる!」


「また無茶を……」


ジェームスは額に手をやり、深い溜め息をついた。

一方で、ライカは満面の笑みを浮かべて跳ねる。


「やった! ダンジョン探検だね! きっとキラキラの宝物とか、いっぱいあるよ!」


「遊びじゃないぞ」


「わかってるもん。でも……アレフおにーちゃんと一緒なら、こわくない!」


アレフは小さく苦笑し、ふと腰の魔剣に視線を落とした。

鞘の奥から、くぐもった鼓動のような気配が伝わる。

――魔力を吸い取る魔導書。

その言葉に、グラトニーが反応している気がしてならなかった。


***


彼らはギルドを離れ、街の広場を抜けて市場へ向かった。

ガイアの市場は魔法都市らしく、珍しい魔具や触媒が並び、商人たちが声を張り上げて客を呼び込んでいる。

香辛料の匂い、魔石のきらめき、鍛冶屋の槌音――すべてが賑やかに交じり合い、旅の支度にはうってつけの場所だった。


「食料は三日分でいいか」


アレフは干し肉と硬パンを選び、革袋に詰める。


「念のため、解毒薬と回復ポーションも買っておきましょう」


ジェームスが真面目な顔で薬師の店へ足を向ける。


ライカはといえば、露店の魔具屋で足を止め、煌びやかな杖に見入っていた。


「ねぇねぇ! これ、光るんだよ! 夜に便利そう!」


「遊び道具に金を使うな」


「ぶー……」


小さなやり取りの中にも、次第に緊張が混じっていく。

山岳奥の洞窟、邪竜の巣、そして曰く付きの魔導書――。

市場での支度を終えたアレフは、真剣な表情で二人に告げた。


「……準備は整った。明日の朝、出発する」


ジェームスは黙って頷き、ライカは元気よく手を挙げた。

その対照的な反応を見て、アレフはわずかに口元をほころばせる。


だがその胸の奥底には、確かな緊張が渦巻いていた。

呪われた魔導書――それが、己の持つ《七つの大罪》と何かしらの因縁を持つのではないかという予感と共に。

次回タイトル:008話 邪竜

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