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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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025話 捨てられた声、拾い上げる者

鋭い眼光の奔流が途絶えた瞬間、アレフの脳裏には膨大な声が雪崩れ込んできた。


「まだ大丈夫だ……だから、捨てないでくれ……」


「これくらいの傷、壊れたうちに入らない……だから、まだ戦える……」


「使い方を工夫すれば、きっと役に立てるんだ……どうか……どうかもう一度だけ……」


それは悲鳴でもあり、祈りでもあった。

誰にも届かず、誰にも顧みられない、無数の残滓の叫び。

かつて人に仕え、共に戦い、あるいは日常を支えてきた道具たちの声だ。だが、傷つき、汚れ、時代遅れとなった彼らは無慈悲に捨てられ、ここへと流れ着いた。


「必要ない……? 俺は、まだ……」


「せめて最後まで使って欲しかった……」


次々と押し寄せる思念に胸が締めつけられる。

そして、その最後に――漆黒の甲冑の騎士、その魂の叫びが響いた。


『そうだ、俺たちはまだ……いつの日か、俺たちを必要としてくれる者が現れるかもしれない……! クソッ! ダンジョンに縛られてさえいなければ……!』


その声を聞いた瞬間、アレフは剣を振り下ろす手を止めた。

目の前のデュラハンはただの敵ではない。この場を支配する“呪いの根源”こそが、全てを縛り付けている。


「……なるほどな」


アレフの瞳に静かな決意が宿る。

彼が標的としたのは、デュラハンではなく――背後で脈動するダンジョンコアだった。


「お前を壊せば、こいつらは……解放される」


アレフは躊躇なく駆けた。

デュラハンの首が驚愕に見開かれる。だが、その鎧姿は止めに入ることができない。呪いの束縛が、その動きを縛り付けていたのだ。


 ――バキィンッ!!


渾身の一撃がコアを砕いた瞬間、まばゆい光が広がり、空間全体が大きく揺らぐ。


ゴミの山が、一瞬にして霧散していく。

後には、ただの瓦礫と、古いという理由だけで捨てられたもの、欠けた程度でまだ使えるもの、使い手に恵まれなかっただけのものなど、未だ未練に縛られたものだけが、この世界に留まっていた。


それは――「価値を見出だされた末に無用の烙印を押されたもの」と、「価値を見出だされないまま打ち捨てられながらも、未だ希望を抱いているもの」との分別が行われた証だった。


そして、デュラハンの首が重力に従い落ちる。

それを自らの手で受け止めた甲冑が、静かに片膝をついた。


「……解き放たれた、のか……」


その声音は、先ほどまでの呪詛に満ちた響きとは違い、どこか安堵を帯びていた。

デュラハンの瞳孔が揺れ、アレフを見据える。


「人の子よ……貴様が我らを救ったのか」


「……救ったつもりなんてねぇよ。ただ、もう見てられなかっただけだ」


アレフは肩をすくめながらも、しっかりと剣を握り直す。


デュラハンは静かに立ち上がり、大剣を地に突き立てる。


「ならば……俺はこのまま去ろう。ダンジョンに縛られし存在ではなくなった。俺はただ、行き場のない亡霊に戻るだけだ」


背を向け、ゆっくりと歩み出す。

その姿は孤独そのもので、長い戦いを終えた戦士の背中だった。


だが――その時。


「待て」


アレフの低い声が響く。


デュラハンの足が止まる。

振り返らずとも、鋭い視線が背中に突き刺さるのを感じた。


「お前……まだ誰かに必要とされたいんだろう?」


アレフは一歩踏み出す。

剣先は向けられていない。ただ、言葉そのものが鋭い刃のようにデュラハンの胸を貫く。


「なら、俺が使ってやる」


静寂。

やがて、カン、と大剣の切っ先が石床を叩く音が響いた。

デュラハンがゆっくりと振り返り、首を手にしたまま、その空洞の兜を傾ける。


「……貴様は、俺のような呪われた存在を恐れぬのか」


「呪い? んなもん恐れてたら、呪われた神器を集めて最強になってやろうなんて考えねぇよ」


アレフは腰の魔剣グラトニーを軽く叩いた。

刃が不気味に鳴き、まるで「そうだ」とでも言うかのように震えた。


その答えに、デュラハンはしばし黙し――そして、重々しい笑い声を洩らした。


「……クハハ……面白い。ならば、我は貴様が最強になるための手足となろう」


鎧に包まれた巨躯が、アレフの前に跪く。

頭部を胸に抱えたまま、深々と忠誠の意を示す姿は異様でありながらも、どこか神聖な儀式のようでもあった。


こうして――かつて“ゴミ捨て場の怨念”として縛られていた首無しの騎士デュラハンは、アレフの仲間として、新たな道を歩むことになった。


アレフに従うことを選んだデュラハンは、静かに鎧を鳴らしながら一同の前に立った。


「おいおい……まさか本当に、あのデュラハンを仲間にするとか言わねぇよな?」


アスタロスは渋い顔をアレフに向ける。


「言ったさ。こいつにはまだ、戦う理由も生きる意味も残ってる」


「……意外だな。確かに待ちわびていたが、まさか本当に“必要とされる”日が来るとは思わなかった。俺は、ただの捨てられた残骸に過ぎんというのに」


どこか悲しげな瞳。


「妾はそうは思わんがの……主の剣筋はとても力強かった。仲間になってくれれば心強い」


「ちょ、ちょっと待て! 首を投げて威圧とかしてきたヤツだぞ!? そんなのと同じ寝床にいるとか、俺はゴメンだ!」


デュラハンは首を手に持ち、ギロリと睨む。


「不満か?」


「ひっ!? やめろやめろ! その眼で睨むなって!」


仲間たちの間に小さな笑いが広がる。


「でもね……アスタロスさん、デュラハンさんも“捨てられたもの”の一人なんだよ。僕たちが見過ごしたら、きっと彼はずっと苦しんでたと思う。だから……ね?」


ライカが潤んだ瞳でアスタロスを見上げる。


「うぐっ……! そ、そう言われると否定できねぇじゃねぇか……」


ライカの無垢な眼差しの前では、かつて屈強な猛牛の戦士であったアスタロスでさえ屈するしかなかった。


「それによ。いい加減、歩いての移動は疲れるだろ? そこでだ...…馬車を買おうと思うんだが、どうだ?」


「私は賛成ですぞ。お嬢様たちを何日も歩かせるというのは、紳士らしからぬ振る舞いですからな」


ジェームスはエレガントに一礼してみせる。


「それについては妾も賛成じゃが……今の所持金では荷台くらいしか買えんのではないか?」


シノは、金庫番でもあるジェームスに目をやる。


そんなシノの心配を払拭するように、アレフはデュラハンの隣に並ぶ“首無しの馬”を指差した。


アレフの考えを察したジェームスが感嘆の声をあげる。


「確かに、今の我々の所持金では、荷台は買えても馬まで買えませんからな。そこまで見通しての決断……お見それしました。さすがはアレフ様ですな」


アレフの考えを察したジェームスが誇らしげに言う。


「……おい。まさか我の馬を“交通手段”にするつもりじゃないだろうな?」


「いや……だって、お前さっき“手足になる”って言ったよな? えっ……?何……? あれって冗談だったの?」


「ぐっ……!?ぐぬぬ……」


デュラハンの拳が強く握られる。

彼の感情にラースが一瞬ピクリと反応した。


「ぶはははは! そいつはいい! 馬車ならぬ“デュラ車”ってやつだな!」


「こら……よさぬか、アスタロス」


シノが止めるも……


「……きさま、首を飛ばされたいのか?」


デュラハンは首を持った手をアスタロスに向けた。


「す、すいませんでしたあぁぁっ!!」


その場に呆れた笑いが広がる。


「でも、あの馬って……生きてるの? 死んでるの? どっち? なんか生首ないし、ちょっと怖いんだけど……」


ライカが不安を露にするも……


「ふむ……死霊馬か、呪骸馬か。いずれにせよ、維持費ゼロ、燃料ゼロ。エコ性能は最強じゃの」


「そうだろ? 後は荷台さえ買えば完璧だ。これで俺たちも一流パーティーっぽく見えるんじゃないか?」


「おお、なんという合理的な発想。やはりアレフ様……!」


「おい。待て。俺の馬は戦いのための存在だ。荷物を載せるための道具では――」


「移動しながら、寝たり酒飲んだり出来んのか……最高じゃねぇか!」


「どうやら……本当に首を飛ばされたいらしいな」


「ひいいいいいッ!?」


幼い少女の不安はすぐに消え去った。


こうして、焚き火の周りに笑いと悲鳴が響き渡る夜を過ごす一同であった。


「……ふふ。なんだかんだで、いい仲間が増えたね」


「うむ。そうじゃの」



その後――ダンジョンに残った“捨てられたものたち”の多くは冒険者ギルドによって整理され、まだ使えるものは安価で新人冒険者たちに提供されることとなった。

それを知ったデュラハンは、少しだけ安堵したように呟いた。


「感謝する、我が主よ……これで、あいつらも救われたことだろう」

次回タイトル:026話 名を得し首無しの騎士

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