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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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020話 鍛え直されし戦斧――ミノタウロスの証

鉱山を抜け出し、冷たい外気を浴びた瞬間、一行は同時に胸の奥から大きな息を吐き出した。

長い時間こもっていた岩肌の匂いと淀んだ空気が肺から押し出され、代わりに夜風の澄んだ冷気が全身を包む。頬を撫でる風が心地よく、彼らはようやく生還を実感した。


「ふぅ……やっと戻ってこれたな」


アレフが背筋を伸ばし、蒼天に浮かぶ月を仰ぎ見る。その背後で振り返れば、暗く口を開けた鉱山の入口が静かに沈黙していた。あれほど暴れ狂っていた魔物の気配は、もうどこにも残っていない。


「魔鉱石が手に入って良かったね、アスタロスさん」


ライカが荷袋を掲げると、中から淡く妖しい紫光がもれた。戦いの証でもあり、今後を切り拓く希望の石。


「フン! 俺様がいなきゃ絶対詰んでたけどな!」


胸を張るアスタロスに、アレフがすかさず怒鳴る。


「武器もないのに無茶し過ぎなんだよ! 牛野郎!」


しかし当の本人は気にも留めず、豪快に歯を見せて笑った。


「ガッハッハ! もっと褒めてもいいぞ!」


「褒めてねぇよッ!!」


夜空に響く声と笑い。呆れと安堵が入り混じるその空気は、ようやく訪れた平和の象徴だった。


数時間後。


街へと戻った彼らの足は、自然と鍛冶屋のある外れへと向かっていた。

軒を低く構えた工房の中からは、リズムを刻む力強い槌音と鉄を焼く匂いが溢れ出し、通りすがりの人々が思わず振り返るほどの熱気を放っている。


「おう、戻ったのか!」


炉の前で槌を振るっていた大柄な影が顔を上げた。赤々と燃える炎に照らされ、豊かな赤髭が汗に濡れて輝いている。鍛冶師のドワーフは分厚い腕で額を拭いながら、鋭い視線で彼らを迎えた。


「どうやら、無事に魔鉱石を手に入れたようだな」


「ガッハッハ! 俺様にかかれば、どんな依頼も楽勝だぜ!」


胸を張るアスタロスに、ドワーフは深くため息を吐いたものの、その口元にはかすかな笑みが浮かんでいた。


「フン……相変わらず威勢のいいチビ牛娘じゃわい。さすがはミノタウロスだ」


その一言に、場が静まり返る。

アレフは思わずドワーフを凝視した。


「……こいつがミノタウロスだってことに気付いていたのか……」


「まぁの」


ドワーフは片眉を吊り上げ、顎でアスタロスの首元を指す。


「ワシは武器だけでなく魔道具も扱う。お前が下げておるそのネックレス……あれはミノタウロスの力を抑える封印具じゃ。見りゃわかるわい」


張り詰めた空気が仲間たちを包み込む。万が一、正体を広められれば、彼らの立場は危うい。


「それで……俺たちのことをギルドに報告するのか?」


アレフの問いに、ドワーフは鼻を鳴らした。


「フン。ワシら職人の作る武具は確かに一級品だ。だが、それを真に活かせる者は数えるほどしかおらん。……人間だろうが魔物だろうが、使い手次第よ。余すことなく引き出せる奴にこそ、武器を託す価値があるんじゃ」


その言葉に緊張が解け、全員が小さく息を吐く。

ドワーフの視線はアスタロスに向き直った。


「チビ牛娘! てめえの武器を見せてみろ」


「チビ牛娘じゃねえけどな!……これだ」


アスタロスは腰から戦斧を下ろした。

刃は欠け、柄には深い傷が刻まれている。それでも、長い戦いを共にした相棒の重みは変わらずそこにあった。


「こいつぁ……いい代物だ」


ドワーフの目が光を帯びる。指先で刃を撫で、柄を握り締める。


「だが、今のままじゃお前には扱い切れん」


「……」


アスタロスは一瞬、悔しげに唇を噛む。

しかし、ドワーフの次の言葉は力強かった。


「よし、任せろ。お前の“相棒”を蘇らせてやる!」


炉に薪がくべられ、赤々とした炎が天井にまで届かんばかりに燃え上がる。

鉄を焼く匂いが鼻腔を突き、工房全体が熱に包まれる中、ドワーフの槌が唸りを上げた。


トンッ! ガァンッ!


鉄を打ち据えるたび、火花が散り、紫の閃光が一瞬走る。


「……おい、おっさん。何を混ぜ込んでやがる?」


アスタロスが額の汗を拭いながら尋ねる。


「魔鉱石さ。お前らが命懸けで掘り出した代物をな」


ドワーフは笑い、炎の中に淡い紫光を宿らせた鉄を叩き込む。


「こいつを刃に織り込めば……ただの斧じゃなく、使い手の成長に合わせて進化する“生きた武器”になる」


仲間たちは固唾を呑んで見守った。

ジェームスが低く呟く。


「……見事な技術ですな。まさしく彼に相応しい」


長い時間が流れた。

最後の一槌が振り下ろされ、炉の中から姿を現したのは――かつての斧よりも一回り重厚でありながら、不思議と禍々しさが失われた戦斧。

光を浴びるたび、刃は紫の輝きを宿し、生き物のように脈動している。


「“グロウ・アックス”だ。受け取れ、アスタロス!」


差し出された斧を前に、アスタロスは一瞬手を止める。

あまりにも重厚に見えるその姿が、過去の敗北を思い起こさせたからだ。

しかし彼は、深く息を吸い込み、意を決して両手で掴んだ。


「……軽い!? だが、決して威力が落ちてるわけじゃねぇ!」


試しに一振りする。

ブォンッ――空気が裂ける音と共に、刃の軌跡に紫の残光が尾を引いた。


「体に馴染む……いや、今まで以上に俺様の腕の延長だ!」


戦斧を構える姿は、まるで新たに誕生した戦士のごとく。仲間たちも思わず笑みを浮かべる。


「良かったじゃねぇか。これでさらに下僕として働けるな」


アレフが皮肉を投げるが――


「おうよ! 誰が相手でもぶっ潰してやる。俺様に任せときな! ガッハッハ!」


アスタロスは豪快に笑い、戦斧を肩に担ぐ。

皮肉を理解できないその単純さに、アレフは舌打ちしながらも、どこか安心したように彼を見つめていた。

炎に照らされるその姿は、確かに“戦士”としての新たな始まりを告げていた。

次回タイトル:021話 呪具を求めて

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