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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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015話 ゴブリン・チーフ

祭壇へ駆け寄るアレフたちの前に、洞窟の闇を揺るがす影が立ち塞がった。

全身を黒鉄の鎧で覆い、腕には骨を模した巨大な剣。その剣身に刻まれた古い紋様からは、呪詛のような瘴気が滴り落ちている。


支配者――ゴブリン・チーフ。

その背後、粗末な石で築かれた祭壇には縄で縛られた少女が転がされ、震える体を必死に縮めていた。


「……親玉か」


アレフの低い呟きに、右腕に装着した《憤怒の手甲ラース》が黒々と燃え上がる。


《暴食の魔剣グラトニー》が唸り声を上げ、愉快そうに嗤った。


《……ほう、あれはただの獣ではない。呪いを喰い、群れを縛る支配の王。なかなかのご馳走だ》


その言葉通り、チーフの眼光には獣を超えた冷たい理性が宿っていた。

彼は低く唸り声を上げ、人語を交えた。


「人間……貴様ら、群れを荒らす者。娘は我らの贄……ここで死すのだ」


――ただの怪物ではない。

知性と支配力を持った魔の王。それを理解した瞬間、アレフたちの背筋を冷たいものが走った。


「任せて……僕が助ける!」


幼いハーフエルフの魔導士ライカが胸に抱えた《魔導神書グリモワール》を開き、震える声で宣言する。

ページは自ら光を帯び、無数の呪文が刻まれていく。


「我が竜気、灼けよ――!」


竜人の姫シノが竜気を解放する。蒼白の炎が爪先に燃え、竜爪が鋼をも砕く刃と化した。


直後、洞窟を震わせる雄叫び。

ゴブリン・チーフが大地を踏み鳴らし、突進する。


「グルォォオオオオッ!!」


振り下ろされた大剣が石床を砕き、衝撃波が闇を裂いた。

洞窟の天井から砂礫が降り注ぎ、崩落の予兆が響き渡る。


「やらせるかッ!」


アレフが黒炎を纏わせた魔剣を振り抜き、衝撃波を両断。灼熱と漆黒の火花が迸り、岩壁を赤黒く照らした。


「――《氷槍の雨・アイシクルランス》!」


ライカの詠唱。天井から無数の氷槍が降り注ぎ、チーフを釘付けにする。


「竜爪・裂斬ッ!」


シノが跳躍し、蒼炎の爪で肩を裂いた。黒い血が飛び散り、焦げた臭気が洞窟を満たす。


「小娘……!」


チーフが低く呟き、氷を砕き散らす。怒号と共に大剣を振り回すと、石壁ごと吹き飛ぶ衝撃波が走った。


「ぐっ……!」


シノは岩に叩きつけられ、血を吐きながらも竜気で致命傷を防ぐ。

巨体が迫り、大剣が振り下ろされる――


「――《パーフェクト・レシーブ》!!」


銀の閃光。ジェームスの銀のトレイが刃を受け止め、全身で衝撃を逸らす。

火花が散り、足元の岩盤が砕けた。


「この程度の力で、我が御主人様の前を通れると思われては困りますな」


「……よくやった、ジェームス!」


アレフが叫ぶ。黒炎が爆ぜる。


「喰らえ――《黒焔斬》ッ!」


暴食の魔剣が吼え、漆黒の斬撃が胸を裂いた。だがチーフは怯まず、突進を続ける。


大剣と魔剣がぶつかり合い、轟音が洞窟を揺るがす。


「くっ……重いッ!」


アレフの膝が沈み、チーフの膝蹴りを受けて宙を舞った。


「アレフ様!」


シノとジェームスが叫ぶ。


「……まだだ!」


黒炎がアレフを包み、宙で体勢を立て直す。


「グラトニー――喰らえッ!」


魔剣が大剣に食らいつき、呪力を喰い荒らした。


「竜爆炎――ドラゴン・メガフレイム!!」


シノの咆哮。蒼炎が巨体を焼き尽くす。


「――《雷霆・ライトニングボルト》!」


ライカの稲妻が砂塵を裂き、肩口を貫いた。


「今だ!」


黒炎が最高潮に達する。


「黒炎渦――終焉の一閃ッ!!」


漆黒の渦が放たれ、チーフを一刀両断した。


断末魔が洞窟に木霊し……やがて静寂が訪れる。


――だが、戦いは終わりではなかった。


崩れ落ちるチーフの巨体から、なおも呪詛が滲み出ていた。

黒い霧が少女へと伸び、命を奪わんと絡みつく。


「くっ……!」


アレフが駆け出す。だが間に合わぬと悟った瞬間、グラトニーが嗤った。


《ならば、我らが喰らってやろう》


憤怒の黒炎が渦を巻き、暴食の刃が呪詛の霧を呑み尽くす。

耳障りな悲鳴が響き、霧は消滅した。


「……終わったのか」


ジェームスが深く息を吐く。


祭壇に駆け寄ったシノが縄を引き裂き、娘を抱き上げた。


「もう大丈夫。怖い思いをさせたな」


少女の小さな手が震えながらもシノの腕に縋りつき、涙を零す。


アレフはその姿を見て、黒炎を静かに収めた。

胸に熱いものが込み上げる。


《ふん……よくやった、と言いたいところだが。呪いの味は期待外れだ》


グラトニーが不満げにぼやく。


「……贄としての恐怖も、支配者の呪いも、俺たちが断った。それで十分だ」


アレフは心の中で呟いた。


仲間たちの呼吸が一つに重なり、荒れ果てた洞窟に確かな静寂が広がっていた。

それは死闘の果てに得た、かけがえのない勝利の証だった。

次回タイトル:016話 呪いの首飾り

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