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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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014話 救出依頼

東の街道を歩き始めてから半日が過ぎた頃、アレフたちはただならぬ異変に気が付いた。

草むらの奥から不気味なざわめきが聞こえる荒れ道。

鼻を突く血の匂いを辿ると、壊れた荷馬車と共に、一人の男が地に倒れている。


「だ、誰か……! た、助けてくれ……!」


男は血まみれで必死に手を伸ばした。


ライカが駆け寄ろうとするのを、アレフが片手で制した。


「怪我人だ。油断はするな」


男はかすれ声で言葉を絞り出す。


「ゴブリンどもが……お、俺の積み荷を奪い、娘をさらっていった……! どうか、どうか娘を取り返してくれぇ!」


必死の訴えに、ライカは胸を押さえて息を呑む。


「娘さんが……! アレフお兄ちゃん、助けてあげないと!」


その時、腰に下げていた魔剣グラトニーが不気味に震え、声を発した。


『血に混じって呪力の匂いがする。この荷馬車からだ……』


「呪い……?」


アレフの目が鋭く細められる。

彼は荷台を一瞥した。覆い布の下から漏れる黒い靄が、確かに視えた。


「なるほど……お前、普通の行商人じゃないな」


男の顔が引き攣る。


「な、何を……」


「闇商人だろう。呪具や禁制品を売りさばいていたはずだ」


アレフは冷ややかに告げると、剣の柄に手をかけた。


男は青ざめ、必死に弁解する。


「ま、待ってくれ! 娘は、本当に無関係なんだ! あの子だけは……!」


アレフは短く息を吐き、剣から手を離す。


「……分かった。娘は助けてやる。だが積み荷は没収する。それが条件だ」


男は苦渋に満ちた顔をしながらも、深々と頭を垂れた。


「……構わん。娘さえ無事なら、それでいい……!」


シノが腕を組み、金色の瞳を光らせる。


「ふん。己の罪を棚に上げ、娘の命を盾にするとはな……だが、その娘に罪はあるまい。必ず救い出そう」


ジェームスは冷静に戦場を見渡し、周囲を観察していた。


「足跡は西の森へ続いておりますな。恐らく巣は洞窟。……ゴブリン共の溜まり場、厄介でございますぞ」


「だが行くしかない」


アレフが顎を上げると、仲間たちは頷き合った。


夕暮れの光が沈みゆく中、一行は街道の外れ、森の奥へと足を踏み入れていく。

木々の影に血の跡が点々と続いていた。

行商人の娘は、縄で縛られ、ゴブリンたちに乱暴に引きずられていったらしい。


「……遅ければ遅いほど、娘の命は危うい」


アレフの声は低く、刃のように鋭かった。


グラトニーが唸る。


《ゴブリンどもは、我以上に飢えている……急いだ方がいいだろう》


ライカは小さな身体を震わせたが、瞳には強い光を宿す。


「……早くたすけないと。あの子、死んじゃう……!」


シノも真剣な顔で頷いた。


「竜の血を継ぐ者として……目の前の命を見捨てはせん」


***


鬱蒼とした森を抜けた先に、岩肌をえぐるように口を開けた洞窟が現れた。

血の跡はそこへ続いている。奥からは湿った風と、鼻を突く獣臭が漂っていた。


「……ここだな」


アレフの声が低く響いたその時、ジェームスの眉が僅かに動いた。


森の闇の奥、枯れ枝を踏むわずかな音。

獣の気配とも違う……誰かがつけてきている……


ジェームスは視線を逸らさず、あたかも何も気づいていないかのように口を開いた。


「どうやら、何者かにつけられているようですな」


その言葉に重ねるように、低く囁く。


「ああ……後ろに気配があるな。だが、今は放っておけ。娘の救出が先だ」


アレフは一瞬だけ視線を横に流し、すぐに洞窟へと目を戻した。


「……承知しました。」


短く、それだけを返す。


「神殿の手の者かもしれんの……」


シノの喉がかすかに鳴った。


「かもな……だが後でいい」


アレフはきっぱりと言った。


「敵はゴブリンだけではないかもしれん。だが、娘が“食われる”のは今この時だ」


その瞬間、洞窟の奥から少女の悲鳴が短く響いた。


時間がない。


「作戦通りに動くぞ」


アレフの号令に仲間たちは頷き、息を呑んで洞窟へと踏み込む。


苔むした岩壁、滴る地下水。奥から焚き火の赤い明かりが揺らめき、獣臭が充満していた。

十数体のゴブリンが群れ、中央には縛られた娘が岩の台座に押しつけられている。

布で口を塞がれ、恐怖で涙を流していた。


「ギギギィィィ!!」


咆哮と共に小鬼どもが飛びかかり、ジェームスに棍棒が振り下ろされる。

だがジェームスは一歩も引かず、すっと銀のトレイを構えた。


「エレガント・サーブ編…鉄壁

ーー《パーフェクト・レシーブ》!」


甲高い金属音が洞窟に響き、棍棒の衝撃は完璧に受け流される。

逆に反動でゴブリンの腕が痺れ、武器を取り落としそうになった。


「いきなり襲いかかってくるとは、いささか礼儀に欠けますな。これでは皆様に教育的指導をお願い他ありませんな!」


その隙に、ジェームスは懐から小瓶を取り出し、戦場に霧状の香水を散布する。

芳醇な香りが洞窟全体を満たし、血の臭気すら上書きしていく。


「補助編ーー《ブースト・フレグランス》!」


瞬間、仲間たちの体に目に見えぬ煌めきが走る。


アレフは魔剣を握る力が増し、筋肉が熱を帯びる。斬撃の重みが倍増し、振るうたびに石壁すら削る勢いとなった。


ライカは胸の奥に宿る魔力が研ぎ澄まされる。


シノもまた、身体が羽根のように軽くなり、一足飛びで敵の死角に回り込む敏捷さを得た。


ジェームス自身も動きに切れを増し、迫るゴブリンを華麗にいなす。

香水の効果を纏った仲間たちは、それぞれが本来の限界を超えた輝きを放っていた。


戦場に漂う香りは、恐怖ではなく優雅さを与え、仲間たちの士気を高めていった。



シノの竜気が閃光となってほとばしる。


「竜雷閃ッ!」


紫電が岩壁をえぐり、数匹のゴブリンがまとめて吹き飛んだ。


ライカは必死にグリモワールを構え、娘へと魔法を放つ。


「……光よ、《護りの盾》!」


淡い光が娘を包み込み、近づいたゴブリンの腕を弾き返す。


その時、洞窟奥の岩陰から、一際巨大な影が立ち上がった。

異様に肥大化したゴブリン・チーフ。赤黒い呪符を両腕に巻き、瘴気を撒き散らす。


「ギャアアアァッ!!」


咆哮と共に呪符が燃え上がり、血塗られた祭壇に娘を縛りつけようとする。


《……あれは血呪!》


グラトニーが鋭く叫ぶ。


《娘を生贄に、怪物へ進化するつもりか!》


アレフの瞳が鋭く光った。


「絶対に……させるかよ」


怒りの黒炎がグラトニーを包み、洞窟の空気が灼ける。


仲間たちは一斉に武器を構えた。

――娘を救うため、命懸けの戦いが始まる。

次回タイトル:015話 ゴブリン・チーフ

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