013話 誇りと不安を胸に
ギルドの訓練場に、試験終了を告げる鐘の音が高らかに響き渡った。
舞い上がっていた土煙がようやく静まり、試験官が中央へと歩み出る。
「――これにて、試験を終了する!」
張り詰めた沈黙が訪れ、受験者たちは固唾を呑んで結果を待った。
やがて試験官は巻物を広げ、一人ずつ名を読み上げていく。
「……ライカ。合格だ」
「っ……!」
小さな体を震わせていたライカの瞳が、ぱっと輝きを宿した。
「シノ。合格だ」
「ふふ……当然よの」
胸を張るシノの姿は、竜姫としての風格を隠しきれない。
「両名とも、冒険者として十分な実力を示した。よって正式に、冒険者ギルドへの加入を認める!」
その瞬間、周囲の冒険者たちの間にざわめきが広がった。
「おい……あの子供と女が合格だと?」
「試験官も節穴かと思ったが……」
「いや、俺は見てた。あの幼女の詠唱速度、常識外れだった。それに……あの女の竜のごとき力……」
驚愕と羨望、嫉妬が入り混じった視線が二人に注がれる。
ライカは緊張の面持ちでアレフの袖をつまみ、小声で囁いた。
「……アレフお兄ちゃん、本当に、僕……冒険者に……」
「お前の力で勝ち取ったんだ。胸を張れ、ライカ」
その言葉に、ライカの頬が赤く染まる。
一方でシノは、周囲のざわめきをあえて挑発するかのように唇を吊り上げた。
「ふん。妾を侮るから恥をかくのだ。力は示した。まだ文句を言う者がいるなら……今すぐ再び叩き伏せてやろうか?」
「ひっ……」
先ほどまで不満を口にしていた冒険者が、慌てて視線を逸らす。
ジェームスがわざとらしく咳払いをし、場を和ませるように口を開いた。
「お嬢様方。威圧はそのあたりで。ここは新たな門出を祝う場ですぞ」
試験官は微笑を浮かべ、二人に認定証を差し出す。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。これよりは仲間として、共に戦っていこう」
ざわついていた空気が次第に拍手へと変わり、場を包み込んだ。
ライカは小さな胸を押さえて深呼吸し、シノは誇らしげに腕を組む。
アレフは二人の姿を見つめ、心の奥で確信していた。
――この先、彼女たちは必ず大きな力となる、と。
***
合格発表を終えたギルドは、再び熱気に包まれていた。
酒場さながらの賑わいの中、新人二人の話題で持ちきりだ。
「……さて。合格したからには最初の依頼を選ばねばならぬな」
シノが腕を組み、依頼掲示板を睨みつける。竜姫らしい堂々たる姿のまま。
「ああ。“E”ランクのままじゃ、国が管理するダンジョンには立ち入れないからな」
各国には、それぞれ国が所有するダンジョンが複数ある。
その中には、アレフが探し求める呪われた神器《七つの大罪シリーズ》が眠る場所もあった。
ライカは必死に背伸びをし、小柄な体で掲示板の紙を読もうとする。
「えっと……おっきい字で書いてあるのしか見えません……」
「ふむ、では妾が読んでやろう。『近郊の森での薬草採取』、『駆け出し冒険者向け・下水道清掃』、『東の街道に出没するゴブリン討伐』……」
「……下水はいやです」
ライカの即答に、アレフが苦笑をもらす。
「なら、薬草採取か?」
「むぅ……それでは冒険者としての力を示すには、あまりに地味すぎるの」
シノが首を振る。
「お嬢様方。腕慣らしとしてはゴブリン退治が妥当かと。東の街道なら危険も限られておりますしな」
ジェームスが落ち着いた声で助言する。
ライカはためらった末、小さく拳を握りしめて頷いた。
「……が、がんばります! 魔法で、皆をちゃんと支えられるように……!」
アレフは二人を見回し、口元に笑みを浮かべる。
「よし、決まりだな。俺たちの最初の依頼は――ゴブリン討伐だ」
宣言の声に、周囲の冒険者たちがちらりと視線を向ける。
「おい、あの新人たち、いきなり討伐依頼か……」
「だが見ただろ、試験の力を……」
「ははっ、ゴブリン程度じゃ物足りねぇかもしれんぞ」
羨望と興味の入り混じる視線の中、シノは胸を張り、ライカは不安を抱えつつも瞳を輝かせる。
カウンター越しに試験官が依頼票を差し出した。
「依頼受注を確認した。期限は三日以内、報酬は銀貨十枚だ。……頼んだぞ、新人たち」
「任せるがよい。我が竜気をもって必ず討ち果たそうぞ!」
「ぼ、僕も……魔法でがんばります!」
ギルドの扉が開かれ、陽光が差し込む。
その光の中へと踏み出す二人の背を、アレフとジェームスが頼もしげに追った。
――新米冒険者としての第一歩が、ここから始まった。
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