表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/22

012話 冒険者試験

ガイアの街並みは、久方ぶりに見る者の目を奪った。

空を貫く高層の魔塔、漂う魔力の粒子、そして活気あふれる魔術師や冒険者たちの往来――まさに魔都と呼ぶにふさわしい光景である。

だがアレフは、その喧騒の中で油断なく視線を巡らせていた。


(ライカはハーフエルフ。シノは竜姫。正体が露見すれば、面倒ごとでは済まない……)


心中で呟きつつ、彼は二人を連れ、ギルドの重厚な扉を押し開ける。


「冒険者登録をご希望ですか?」


受付嬢がにこやかに声をかける。


「ああ。こいつら二人を、新米として登録してやりたい」


アレフの目配せに応え、ライカとシノは一歩前に出る。


「……えっと、その……よろしくお願いします……」


ライカはエルフ耳を隠すようにフードを深く被り、俯きがちに声を絞り出した。


「わ、妾も……よろしく頼むのじゃ!」


胸を張るシノもまた、竜角を隠すためにフードを目深に被っている。

また、竜尾は大きさを自在に変えられるとのことだった。


受付嬢は微笑を崩さぬまま、帳面を開いた。


「かしこまりました。まずは試験を受けていただきます。」


アレフの眉がわずかに動いた。

――このままでは、二人の正体があまりに露骨に出てしまう。


その時。

腰の魔剣グラトニーが、彼の意識に低く囁く。


《……魔導神書を使え》


宿に戻ると、ライカは机の上に分厚い魔導神書を置いた。

表紙の紋章が淡く光り、彼女の指先を誘うように震えている。


「……僕とシノを人間の姿に見せる魔法がないか調べてみるね?」


ライカは小さな声で呟き、恐る恐るページを開いた。


「!?」


そこには何も書かれていなかった。


「え? ……真っ白……?」


「なんじゃと? ……一文字もないじゃと?」


シノも覗き込み、眉を寄せる。


部屋に張りつめた沈黙が落ちる。


アレフは腕を組み、グラトニーはただ無言で見守っていた。


その時


――【汝が欲する魔の奇跡は、何だ?】


荘厳な声がライカの脳裏を震わせた。

肩を震わせた彼女は、思わず息を呑む。


「ぼ、僕の……欲しい魔法……?」


――【思い描け。汝の心の奥底にある願いを】


ライカは唇を噛み、隣に立つシノの横顔を見つめた。

竜の血を宿す、気高きその姿。


(……僕……シノと一緒に……冒険したい……!)


(でも、このままじゃ……シノが竜人だってバレちゃう……!)


ライカは小さな拳を握りしめた。

そして心の奥底から、強く願う。


「僕が欲しいのは……“人間の姿を纏う幻影魔法”!」


瞬間、真っ白だった神書に黒と金の光が奔り、古代文字が次々と刻まれていく。

やがて一つの呪文が鮮烈に浮かび上がった。


――【幻影魔法ファントム・ヴェール


ライカの胸に、温かな光が宿る。


「……出た……! 本当に……!」


「おおっ! これで人間に化けられるのじゃな!」


シノが飛び跳ね、ライカの手をぎゅっと握った。


その様子を眺めながら、グラトニーが低く告げる。


「……これが“契約の証”。グリモワールは、真に必要とする魔を授ける。

お前は選ばれたのだ……ライカ」


アレフも目を細め、二人を見やった。


「……よし。これで試験は問題ないな。あとは――実力を示すだけだ」


***


ギルド訓練場――


石畳の広場を取り囲むように観覧席が設けられ、そこには数十名の冒険者や職員たちが詰めかけていた。


「これより新人候補――ライカ、シノによる模擬戦を行う!」


試験官の男が声を張る。


「相手は『E』ランク相当の模擬魔獣。倒せば合格、力尽きれば不合格とする!」


観客席からは嘲笑が漏れる。


「おいおい……子供じゃねえか」


「すぐ泣き出すのがオチだろうよ」


ライカは人間の幼女の幻影姿。

シノも華奢な少女の姿を纏っている。

外見だけなら、冒険者とは程遠い。


だがアレフやジェームス、そして《暴食の魔剣グラトニー》は静かに見守っていた。

――この二人の力が、常識を覆すことを知っているからだ。


「出ろ!」


試験官が号令をかけると同時に、訓練場の鉄格子が開かれる。

中から赤黒く光を帯びた巨大ネズミ――《ジャイアントラット》が数頭現れた。

牙を剥き、涎を垂らし、低く唸り声をあげる。


「おいおい……あのジャイアントラットなんて、子供と同じくらいの大きさだぞ」


「ありゃ食われるな」


ざわめく観客の声を背に、ライカは小さな胸に手を当て深呼吸した。


「……精霊さん。僕を守って。お願い――」


彼女の願いに応えるように魔導神書(グリモワール)が淡く輝き、翠光がライカを包む。

風の精霊が舞い上がり、突風を叩きつけた。


《ジャイアントラット》が体勢を崩す。


「なっ……精霊魔法だと!?」


「嘘だろ、あんな年で……!」


冒険者たちの目が見開かれる。


「今です、シノさん!」


ライカが叫ぶと同時に、シノが一歩前に出る。

彼女は幻影でただの少女に見えるが、纏う気迫は別格だった。


「竜の血が――滾る!」


瞬間、彼女の周囲に紅蓮の竜気が爆ぜた。幻影の奥から、竜姫としての本質が漏れ出す。訓練場全体を震わせる圧力に、観客席の冒険者たちが思わず息を呑んだ。


「な、なんだ今の威圧……?」


「新人ってレベルじゃねえぞ!」


シノの足が石畳を砕きながら地を蹴り、《ジャイアントラット》の首を拳で打ち抜く。轟音とともに、巨体が宙を舞い、壁に叩きつけられた。

その力は人間離れを超え、まさに竜の暴威。


「はぁああッ!」


竜気を纏った蹴りが二頭目を粉砕。

歓声とも悲鳴ともつかぬ叫びが訓練場を揺るがす。



「なんだあの娘は……!?」


「怪物だ!」


試験官でさえ息を呑み、互いに囁き合う。


「……見たか。あの幼女の精霊術と、あの娘の拳技。規格外だ」


「新人どころか、高ランク候補の器だぞ」


その時、残る一頭が血走った眼でライカへ飛びかかった。


「ライカ、危ない!」


アレフが思わず叫ぶ。


だがライカは震えながらも、両手を突き出した。


「……こないでぇッ!」


地面から氷槍が突き上がり、魔獣を串刺しにする。

絶叫をあげ、血を撒き散らしながら崩れ落ちた。


……静寂


次の瞬間、訓練場を包んだのは轟音のような喝采だった。


「う、嘘だろ……!」


「ありゃとんでもねぇ新人が現れたもんだ!」


「ギルドは大当たりだぞ!」


アレフは静かに口元を吊り上げる。

その瞳は、シノとライカを見据えていた。


「……やはり化けるな、この二人。これから先――どれだけ俺たちの未来を切り開いてくれるか、楽しみだ」


腰のグラトニーが低く笑う。


《……だが残りの大罪シリーズを相手にするには、まだ力が足りん》


シノは額の汗を拭い、ライカの手をぎゅっと握る。


「ライカ、よくやった」


「うん……でも、僕まだ足がガクガクだよぉ……」


二人を見つめる観客の視線は、もはや冷笑でも懐疑でもない。

――ただ純粋な畏怖と、そして期待に満ちていた。

次回タイトル:013話 誇りと不安を胸に

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ