表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/25

011話 魔導神書グリモワール

薄暗い広間の中央に、禍々しい気配を纏った一冊の書。

黒革の装丁は深淵を切り取ったかのように光を吸い込み、その表面には古代の呪文が蠢くように刻まれている。

それこそ、このダンジョンの最奥に封じられていた伝説の魔導書――《魔導神書(グリモワール)》。


その周囲を覆うのは、粘液の塊。

脈動を繰り返す異形は、炎を噴き、水を渦巻かせ、岩を砕き、雷を奔らせる。

ありとあらゆる属性を内包し、周囲の魔力を貪欲に吸収する存在――《エレメント・スライム》が、呼吸をするように膨張と収縮を続けていた。


『注意しろ。物理は通じぬ。あれは魔導そのものから生まれた魔物。半端な刃では形すら揺るがせん』


相棒の魔剣グラトニーが冷ややかに告げ、その声がアレフの脳裏を震わせる。


「待たせたな《ラース》……お前の力を存分に解放しろ!」


アレフは左手の憤怒の手甲を握りしめる。漆黒の金属が感情に呼応し、黒々と燃え上がった炎が魔剣の刃を覆った。灼ける匂いが広間の湿った空気と混じり合い、熱気が決意を後押しする。


『ラース。こやつは魔力そのものの器。呪力は皆無。私では喰えん。だが――お前の炎なら、道を切り開ける』


グラトニーの冷静な声が脳裏を響く。


「そういうことだ。遠慮なく、燃やし尽くしてやれ!」


黒炎が爆ぜ、グラトニーの刀身は獰猛な咆哮を上げるかのように揺らめいた。


「――黒炎斬ッ!」


振り下ろされた刃から迸る黒炎がスライムを裂き、粘体を灼き焦がす。

だが、焼け爛れた箇所は即座に魔導書から魔力を吸い上げ、目に見える速度で再生していく。


「ちっ、再生が早い……!」


苛立ちを覗かせるアレフ。その背後で紅の気配が噴き上がる。


シノの小柄な身体を、まるで竜が顕現したかのような竜気が包み込んだ。

彼女の髪が逆立ち、瞳が金に染まる。


「フフッ、今度は妾の炎を喰らうがいいっ!!」


シノが一歩前へと踏み出す。

彼女の全身から迸る竜気が、空気を震わ、背後には幻影めいた竜翼が広がった。

竜気は空間を押し潰すような圧を帯び、ダンジョンの壁を軋ませる。


「竜炎よ――我が喉奥より奔流となれッ!!

ーー竜爆炎ドラゴン・メガフレイムッ!!」


轟音とともに、竜姫の吐息は業火へと変わる。

紅蓮の奔流がスライムを呑み込み、内部をも灼き尽くす。粘液は沸騰し、悲鳴めいた震動を上げた。


――だが


「――あぁぁぁぁ……!」


床下から噴き上がる新たな粘液。焼け残りが魔導書に呼応し、無数の触手となって四方八方から襲い掛かってきた。


粘液の触手が天井や壁から叩きつけるように振り下ろされ、床を砕く連撃が仲間を襲う。

一撃一撃が鉄塊を叩き潰すかのような衝撃。


「お嬢様方に触れさせるわけには参りません。」


優雅な声音と共に、一歩進み出るジェームス。

手にした銀のナイフとフォークは、舞踏のような連撃で触手を切り裂いていく。


「武闘執事道――テーブルマナー編。最終レッスン!

《連激ーメイン・ディッシュ》!!」


銀色の旋風が広間を駆け、触手を千切っていく。

ジェームスの舞う姿はまさしく貴族の晩餐を彩る舞踏。だが優雅さとは裏腹に、その一撃ごとが肉を裂く死の連撃だった。


だが、再生の連鎖は止まらず、やがて巨大な槍のような触手が仲間を貫かんと迫る。


「きゃあっ……!」


ライカが押し潰されかけた瞬間――


「エレガント・レシーブ!」


銀のトレイが火花を散らし、ジェームスが庇う。衝撃に体勢を崩しながらも、彼は幼い少女を守り抜いた。


《ハーフエルフの娘! 魔導書に触れろ! 奴の源はそこだ!》


その隙を逃さず、グラトニーが吠える。


「え、えっと……っ、こ、これに触ればいいの!?」


幼い手が魔導書に伸びる。

次の瞬間、魔導書の頁が禍々しく光り、ライカの体から魔力を吸い取り始めた。

魂を抉るかのような吸収が始まり、声が脳裏を響かせた。


『我は始まりの魔の奇跡ーー魔導神書(グリモワール)。我を満たせ。さすれば、汝を認めよう』


ライカの脳裏に魔導書の声が響く。


「きゃああっ……! ま、魔力が……熱い、痛い……!」


「ライカっ!」


膝を折り、涙を浮かべるライカに仲間が駆け寄ろうとする。


だが――グラトニーが冷たく告げた。


《止めるな。試されているのだ。……あの幼子の器を、信じよ》


アレフは歯を食いしばり踏みとどまった。


ライカは必死に涙目で叫ぶ。


「……っ、大丈夫……! 負けない……! 僕は、みんなの役に立つんだからぁぁぁっ!」


幼い叫びが、眠れる血脈を呼び覚ます。

吸われる魔力が光の奔流へと変わり、意志と心を混じえた輝きが器を満たす。

やがて、魔導書の頁がひとりでに閉じ、光が静まった。


同時に、スライムの触手が一斉に痙攣し、崩壊を始める。

巨体は泥となり、蒸気と焦げ臭さを残して溶け落ちた。


静寂が訪れる。


ライカはその場に崩れ落ちたが、腕には魔導神書グリモワールが抱かれていた。


「えへへ……やったよ……僕……」


ライカはへたり込みながら小さく笑った。

疲れ切った顔に浮かぶ無邪気な笑み。その幼さに宿る決意が眩しい。


「……ああ、よくやったな」


アレフが微笑み、安堵と誇らしさを滲ませる。


「うむ。幼きながら、なかなかの胆力よ」


シノは腕を組み、誇らしげに鼻を鳴らした。


「お見事でございます、ライカ様」


ジェームスは深々と一礼し、心からの敬意を示した。


光を帯びた魔導神書を抱くその姿は――仲間たちに、新たな希望と揺るぎない絆を刻み込んでいた。

次回タイトル:012話 冒険者試験

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ