表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/22

001話 始まり

この作品は、

第一部【錬金術師アルジェの災難、受難、苦難の行く末】

の続編ではありますが、登場人物、世界観など、物語背景が一部を除いて変わってしまうため、「別の作品」としてお読みいただいても、不都合のないよう仕上げてあります。

剣と魔法の世界――セルフィリア。

光と闇が交錯し、人と魔が覇を競うこの大地には、もう一つの力が存在していた。


それは“呪い”。

魔力とは異質の負の理であり、穢れにも似たエネルギー“呪力”。

治癒の魔法や薬では解けず、祈りや聖水でも脆弱な呪いしか祓えず、ただ受け入れるしかない宿命の力。


その呪いに愛された少年がいた。

──アレフ・カース。


見た目だけなら、どこにでもいる冒険者の少年だった。

炎のように鮮やかな赤毛は、陽光を浴びるたびに燃え盛る炎のような輝きを放ち、その色合いは彼の内に眠る情熱を象徴しているかのようだ。

つむじ付近で無邪気に跳ねる毛先は、火花のように散り、まるで彼の未来を照らす導火線のようにも見える。


しかしその燃える髪とは対照的に、彼の瞳は澄んだ空の色をしていた。

雲一つない青空をそのまま閉じ込めたような瞳は、まっすぐで誠実な心を隠しきれずにいる。


身長は平均よりやや低め。だが、三年の冒険者生活で鍛え上げられた体には、細身ながらもしなやかな筋肉が宿っていた。

父から譲り受けたミスリルのハーフアーマーには、かつてカース家が誇った紋章が刻まれている。肩当ては簡素で、両腕を覆うのは使い込まれた革のガントレットだけ。だがそれは、彼が歩んできた苦難の道の証でもあった。


彼を知る者はほとんどいない。

いや、知っていたとしても――それは「運のない冒険者」としての笑い話にすぎない。



王都ルクレシア

昼下がりの冒険者ギルドは、いつもと変わらぬ喧騒に包まれていた。


受付嬢が書類を捌き、酔いどれの剣士が大声で仲間を呼び、テーブルでは次の依頼について口論する声が飛び交う。

その片隅。アレフは椅子に深く腰を沈め、掲示板を見上げていた。


「……また薬草採取かよ……」


呟きはため息に溶け、誰の耳にも届かない。

三年間、冒険者として活動してきたが、彼はいまだに最下級の『F』ランク。

受けられる依頼は、薬草採取や荷物運びといった雑用ばかり。剣を振る機会など、数えるほどしかなかった。


理由は明白だった。



遡ること百五十年前。

当時のカース家当主アルフレッドは、一人の魔女を追ってダンジョンに踏み入った。


魔女の狙いは――“呪われた神器”。

アルフレッドは深層で彼女を追い詰めたが、その刹那、不幸を呼ぶ呪いを受けてしまう。神器は奪われ、ダンジョンは崩壊。溢れ出した魔物たちが街や村を蹂躙し、数多の命を奪った。


それ以来、人々は魔女を《災厄の魔女》と呼ぶようになる。

そして、“不幸体質”の呪いはアルフレッドの血に刻まれ、以後、代々最初に生まれた子へと受け継がれていった。


――アレフで五代目。


依頼に向かえば橋は崩れ、薬草を摘めば毒蛇に囲まれ、魔物退治では崖から落ちる。

努力はすべて不幸で掻き消され、結果は常に「最悪」。


当然、仲間などいない。

笑われ、避けられ、見下される日々。

かつて大貴族として名を馳せたカース家の名も、父の代でついに潰えた。


それでもアレフは剣を手放さなかった。

理由は一つ。

――《災厄の魔女》をこの手で倒すため。

呪いを断ち切り、すべてを終わらせるため。


泥を啜ろうと、地を這おうと、その誓いだけは揺るがなかった。


そんな彼にも、一つだけ異質な資質があった。

呪いの副産物ともいえる、常人離れした膨大な呪力。


母親の体内に生を受けた時からその身に《呪い》を宿していたアレフは、彼が本来有しているはずの《魔力》が《呪力》に変質してしまっていたのだった。


だが現実は、それを活かす場を与えてはくれない。


一人の少年が現れるまでは……



「おい、アレフ。ちょっと話がある」


その日、彼に声をかけたのは、Dランクパーティ《雷神の鉄槌》のリーダー、バロックだった。

背に分厚い戦斧を担ぎ、岩のような体格をした武骨な男。


「ダンジョン探索に行きたいんだろ? 特別に手伝わせてやる。ただし……荷物持ちとしてな」


アレフの心臓が、一瞬だけ跳ねた。

単独では許可されないダンジョン探索。

それだけでも十分すぎる誘いだった。


迷う理由は――どこにもなかった。


数日後。

彼らは王都近郊のダンジョンに足を踏み入れていた。


湿り気を帯びた空気が肌にまとわりつき、石畳には苔がびっしりと生えている。

苛立つような滴り落ちる水音。

剣を握る手に汗が滲む。


《雷神の鉄槌》は、先日見つけた隠し通路へとアレフを案内した。


「……なんだ、この空気……」


低い唸り声が、遠くから響く。

石壁に反響して、耳にじわじわと迫ってくる。


通路の奥に現れたのは――マンティコア。

獅子の胴体に蝙蝠の翼、蠍の尾に鋭い毒針。

赤い瞳が光り、殺意を乗せてアレフを射抜いた。


背筋に氷柱が突き立つ。


「アレフ。お前が囮になれ!」


「……え?」


問い返す暇もなく、背中を押された。

足元から石畳が消え、視界がぐらりと揺れる。

次の瞬間、獣の吐息が頬を舐めた。


「ま、待っ……!?」


恐怖が肺を締めつける。

足は凍りつき、剣を握る手が震える。


後方から仲間たちの声が響いた。


「やった、宝箱はここだ! 急げ!」


──宝箱……?

まさか……俺を囮に……?


「……くそ……」


唇を噛む。

怒りが喉を焼き、悔しさが心臓を握り潰す。


次の瞬間、仲間たちは宝箱の光に包まれーー消えた。


ーー転移罠。


残されたのはアレフと、唸り声を上げるマンティコア。


「……そういうことかよ……」


自嘲と怒りを押し殺し、剣を構える。

胸の奥で、別の熱が燃え上がる。


――強くなりたい。


――呪いごと、この世界を殴り返すほどに。


――もう二度と、誰にも利用されないように。


「……力が……欲しい……!」


その刹那、空間が裂けた。

黒い縦筋が走り、裏側から冷たい風が吹き込む。


「ようやく呼んだね。呪いの器」


裂け目から現れたのは、銀髪の少年。

無機質な瞳に底知れぬ冷たさを宿し、歩みは静かでありながら世界を圧する気配を纏っていた。


「僕はベータ。君の中には、底なしの呪力がある。その“飢え”を満たすにふさわしいモノを――預けに来た」


彼の手にあったのは、漆黒の大剣。

禍々しい牙の意匠を持つ柄。

鞘から溢れ出す黒い靄が、生き物のように蠢いている。


「これは《暴食の魔剣グラトニー》……“七つの大罪シリーズ”の一振り。呪力を喰らい、主に力を与える。ただし、代償は――喰われる覚悟だ」


危険だ。理屈では理解できる。

だが、視線を剣から外せなかった。

黒い靄は呼吸のように揺れ、鼓動と同調する。

背筋を撫でる寒気すら、奇妙に心地よい。


アレフは――その柄を掴んだ。


『──契約は成された』


頭蓋を叩く声。

次の瞬間、膨大な呪力が引き抜かれ、全身を灼けた鉄で貫かれるような痛みが駆け巡る。


「……ッァ……ぐ……ッ!」


視界が赤く染まり、耳鳴りが爆ぜる。

だが、その中に確かにあった。

底なしの力の奔流が。


「……いいね。君は……よく馴染む」


ベータの笑みと同時に、マンティコアが跳躍した。

翼が空気を裂き、大地が衝撃で割れる。


「喰らえ――ッ!」


振り抜いた一撃が、石畳と共に空間を裂いた。

閃光のような衝撃が走り、獣の左腕を肩口から吹き飛ばす。


「ギィィアアアアア!!」


尾の毒針が迫る。

アレフは左手でそれを掴み――否、喰らった。


「……呪いか? そんなもん……効かねぇよ」


体内に走った猛毒が、瞬く間に魔剣へと吸い込まれていく。

次の瞬間、渾身の突きが獣の胸を貫いた。


──ズドォン!!


血飛沫と衝撃が洞窟を揺るがし、マンティコアは絶命した。


荒い息を吐くアレフ。

手の中の魔剣が、満腹に嗤っていた。


「……これが、“力”か……」


呪いを喰らい、呪いで強くなる剣。

その出会いが少年の運命を狂わせることを――この時、まだ誰も知らなかった。


呪いの器。

呪いを喰らう剣。

そして、“七つの大罪神器”を巡る冒険譚の幕が、今ここに開かれた。

次回:001話 呪われた神器ー七つの大罪を求めて

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ