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 俺はジュリと入れ替わって、足を一歩前に踏み出した。さっきまで黙り込んでいたジュリが突然前に出たことにセイランたち3人が驚いているのが分かる。ネイだけはこちらを馬鹿にしたように笑う。


「なあ、ネイ」

(ちょっと柚希、わたくしの身体で粗雑な言葉を使うのはやめてちょうだい!)


 ……それはごめん。確かにジュリが俺の口調で話したら、おかしなことに気づいたからジュリの演技をすることにした。とはいえ、俺はいわゆるお嬢様言葉なんて使ったことなんてないからギャグみたいなことになりそうだが。


「コホン……えーっと、ネイ、くん?」


 で、いいのか?? ネイは侯爵家だから公爵家の人間のジュリが敬称として『様』を使う必要はないはず。ジュリからも指摘が入らないし、大丈夫だろうと判断して言葉を続けることにした。


「ネイくんは確かにすごいと思う……ですわ。けれど、どんな才能も、」それを認めてくれる人間がいて初めて価値があるもの……ですわ。だから、今のように周囲の人間を遠ざけてしまうのはよくないこと……ですわ」

(柚希……「ですわ」は語尾ではありませんのよ? それではただ喋り方のおかしな人に見えますわ)

(ごめん。やっぱ俺にお嬢様言葉は無理だわ)


 いやマジで。人間には得手不得手があるのだ。


(意外ですわね。柚希はなんでもできると思ってましたわ)

(できないことの方が多いぞ?貴族社会関連とか、からっきしだし)


 あと、女特有のあれそれな。前世が男の俺はどうしてもそういう細やかな機微というのはわからない。昔、妹に聞いた陰湿なイジメだとか空気を読むだとか怖いと思う。……あれ、そう考えるとわかりやすい形でヒロインをイジメてたゲームのジュリエッタも正々堂々としてたのか?いや、あれは単純にお馬鹿なだけだったな。


「……何言ってんだよ!! 大人はみんな俺がすごけりゃ文句なんか言わない!! お前が周囲の人間を気にするのは、お前が凡人なだけろ!!」


 そう言ってネイは走り去ってしまう。でも、その表情は図星を刺されて焦っているように見えた。俺が黙ってその背中を見つめていたらセイランに話しかけられる。待て、流石に王子様相手に俺が話をするのはまずい。絶対失礼なこと言う。ジュリに迷惑をかけるのは避けないと。という訳で、大慌てでジュリと入れ替わった。ジュリにいきなり入れ替わるなと文句を言われた気がするが無視しておく。


 「ジュリエッタ嬢、君は凄いね。いくら年下で自分より身分が低いとはいえ、初対面であそこまで言えるなんて。本来なら私が王族として才能ある彼を諭さなければならなかったのに、君に押し付けてしまった」


 そう、セイランが頭を下げた。ホント、身分を気にしないと言いながら自分は王族としての責任を全うしようとするの凄いよな。


(柚希、貴方がお返しなさい。ネイくんを諭したのはわたくしではなく柚希の方ですもの)

(いや、俺はさっきの通りお嬢様言葉できないから無理)

(では、伝えたいことをお言いなさい。わたくしが代わりにお伝えしますわ)


 うへぇ……。別に伝えたいこととかないのになぁ。ただ、人の兄としてああいう態度とってる年下を放って置けなかっただけだ。とはいえ、それをジュリがいうのは変だし……。


(じゃあ、「自分がすべきと思ったことをしただけ」って伝えてくれるか?)


 俺がそう言うと、ジュリは頭を下げるセイランに声をかける。


「わたくしはわたくしが言うべきだと思ったことをお伝えしただけですわ。ですから、セイラン様が頭をお下げになる理由なんてありませんの。どうか頭をあげてくださいませ?」


 俺が言ったことをすごい装飾して伝えてるのを見ると、お嬢様ってすげえと思う。一方で、ジュリの言葉を聞いたセイランは頭をあげた。表情を見るに、一応納得したらしい。これ以上面倒にならなくて良かった。

 なお、この後でポジティブ組に褒めちぎられたジュリが居心地悪そうだったことを明記しておく。


*〜*


 あれから一週間、今日はいよいよ魔法属性検査の日。結局、入学初日以来ネイと話をすることは叶わなかった。もっとも、俺が何度も表に出るわけにはいかないから、何度もネイと話すことはどの道できなかったけどさ。

 とにかく、今日の俺の仕事はひたすら息を殺すことだ。なんせこの魔法属性検査では魂に宿る属性を見る。万が一にもジュリが二つの属性……つまり、二つの魂を持っていることがバレたら厄介だ。できるかできないかはともかくとして隠れる努力はしないといけない。

 ……というわけで、一人で頑張ってくれ。ジュリ。


(わたくし嫌ですわ!! 代わりに柚希が検査を受けてちょうだい!! なぜ指に針など刺さなければいけないんですの!?)


 検査が近くなったことで恐怖がぶり返したらしい。昨日の夜まではどんな属性が出るのかってウキウキしてたのに。


(だから、言ってるだろ? 俺がジュリの中にいるのがバレたらやばいんだって!! むしろ俺は今日、可能な限り隠れてなきゃいけないんだよ! それに、俺が検査受けたらほぼ確実にジュリが持ってるはずない属性が出るだろ!?)


 俺はジュリが持っているのが炎属性であることをゲームで見て知っているが、対外的にジュリが持つ可能性がある属性は5つ。父親の属性である炎属性の他に、母親の属性でありルドルフにも受け継がれた属性である水属性、炎と水の複合属性である霧属性、希少属性である光属性と闇属性だ。仮に俺が検査を受けて尚且つ2つの魂に気づかれなかったと仮定して俺がこの5つ以外の属性を持ってたらヤバイ。具体的にいうと母親の不貞を疑われると思う。

 そう懇切丁寧に説明してやるが、ジュリはなおもイヤイヤ言っている。もうこれは放っておいた方がいいと察したので、俺は無視してどうにか自分の存在を隠す方法の模索に入った。とりあえず、検査中は何も考えないように虚無にでもなっておこうかな。

 そんなことを考えていると、入学式で諸々の説明をしていた女性教師が前に立つ。どうやら彼女はこの学年の教師のまとめ役であり魔法学の教師らしい。こういう場で前に出るのも納得である。


「入学式でも説明しましたが、改めて魔法属性検査について説明します。方法は簡単、血液を一滴、盃に入れられた聖水に垂らすだけ。そうすれば水面に自分の持つ属性が現れます。また、Sクラスにはすでに魔法属性が判明しているシャルディスくんが在籍しているため、属性の確認は彼に担当してもらいます。私は記録の担当をいたしますので、検査の指示はシャルディスくんに従ってください」


 それだけ言うと、女性教師はさっさと筆記用らしき机に向かってしまう。当たり前だがネイはあらかじめこの流れを聞かされていたようで淡々とクラスメイトの名前を呼んでいく。ここ一週間、避けられまくったせいで気づかなかったが若干不遜な態度が消えているような気がする。


「ジュリエッタ・ネフェルティーナ、前へ」


 名前を呼ばれたジュリがビクリと肩を跳ねさせる。本気で指に針を刺す刺すのが怖いらしい。一方、俺はというと……今から虚無になるべく全力で何も考えないようにしている。いや、考えないようにって思うほど考えちゃうな?? やべ、どうしよ。

 しかしながら、残念なことにときは待ってくれないもので、いよいよ検査の瞬間は来た。後はもう出たとこ勝負だ。……言い訳考えとこ。

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