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 さて、なぜセイランが急にジュリに話しかけてきたかと言うと……単純にクラスの人間全員に挨拶をするつもりなようだ。一番がジュリだったのは単純に席が近かったから。まあ、みんなに聞こえるように話し始めたのは沈黙で気まずいクラスの雰囲気の払拭の意味もあるのだろうが。そこら辺、ゲームで描かれた通りの人格者だと思う。

 そんなことを考えながらセイランを観察していたらジュリに声をかけられた。


(柚希……わたくし、ちゃんと挨拶できてましたわよね!? 王族の方に失礼なこととか……!!)


 堂々としているように見えて不安だったらしい。俺は安心させられるようにジュリに声をかける。


(心配しなくても、完璧な淑女だったよ。そもそも、ここは学園なんだからセイランもちょっとした失礼で目くじら立てないと思うけど。本人だって一生徒として接してくれって言ってるんだしさ)

(ありがとうございます。ですが、セイラン様ですわ!! 王族の方を呼び捨てだなんて不敬ですわよ!? そもそも、セイラン様が良いとおっしゃられても気を遣うのは貴族として当然ですわ!!)


 そういう貴族のあれこれは10年間ジュリの中で暮らしててもやっぱりピンとこない。それにしても呼び方か、俺にとってはゲームの一登場人物だけどジュリ達この世界の人間にとっては正真正銘の王子様だもんな。俺が直接話す機会はないと思うが、気をつけよう。それはそれとして心の中では変わらず呼び捨てにするけど。あと、ジュリと脳内会話してる時。……他人に聞こえない時まで礼儀正しくなる必要はない、よな?

 そのままセイランとジュリが話していると、今度はリオが話しかけてきた。


「なになに、楽しそうにお話ししちゃって二人は知り合いなの?」

「いや、初対面だよ。クラスの全員に声をかけようと思っていてね、最初に彼女に声をかけただけさ」

「ふうん?? じゃあ、王子様は庶民の俺とも仲良くしてくれるわけ?」

「もちろんだよ、リオ・フェンリースくん」


 リオの問いかけに、セイランが笑って答える。しかし周囲のクラスメイトは王族に不敬に話しかけたリオを冷めた目で見つめていた。俺はジュリと目を共有してるからジュリ自身の表情が確認できないが、ジュリは周囲の貴族と違って目に見えて悪感情は示していないように感じる。……気になるから聞いてみよう。


(ジュリはリオのことどう思うの?)

(どう……とは? 初対面ですもの、人柄なんて分かりませんわよ?)

(周りの生徒はよく思ってないみたいだけど?)

(確かに殿下に対する態度としては多少不敬ですが、柚希と対して変わりませんもの。そこまで毛嫌いするほどではありませんわ)


 おっと、俺も元庶民だからジュリに耐性があった。明らかにゲームより不敬に対する苛立ちが小さくなってるというか。ゲーム内ではヒロインの自分に対する不敬にもキレてたよね?? 学園は身分の壁を取り払った平等社会なのにも関わらず。


「お、あっという間に仲良くなってんじゃねえか! 俺も混ぜろ!!」


 と、今度はダリルが声をかけてきた。……ここにネイも加わったら実兄であるルドルフも入れて攻略対象全員と交流ができることになる。クラスの反転といい、ジュリがヒロインに成り代わってるみたいなことになってるんだが。


「3人とも、勉強以外に得意なこととかあるか!? 俺、何かに秀でたやつのこともっと知りてぇ!!」


 ダリルが興味津々というように3人に問いかける。それぞれが考え込むように顎に手を当てて、やがてリオが一番に口を開いた。


「俺は計算が得意だな。実家が商家だから、幼少期から仕込まれているんだ。特に金の計算ならクラスの誰にも負けない自信がある」


 ダリルが納得したように頷く。リオに続いて、今度はセイランが口を開いた。


「私はピアノだろうか? 王族の嗜みとして習ったのがきっかけだが、趣味で時間を見つけては弾いているんだ。弾いていると心が落ち着いてね」


 残るはジュリだ。ジュリは思いつかないのか、一向に口を開こうとしない。


(柚希、わたくしの得意なことってなんですの?)


 困り果てて俺に聞くんかい。いや、そりゃあジュリが小さい頃からずっと中にいた俺はお前が得意なこととか知ってるけどさ。


(お前が得意なのはアレだろ、乗馬。俺は見てるだけでも怖いのに颯爽と乗れるのマジで意味分かんないけど)

「わたくしは乗馬が得意ですわ。幼少の頃からの趣味でして、馬に乗って風を感じるのが気持ち良いですの」


 俺の意見を聞いた瞬間に精査することなく言葉にしやがった。お前の俺への信頼厚すぎない?? 嬉しいけどね、自分で判断することも覚えてほしい。いつまでも俺がジュリにアレコレ口出ししてやるわけにはいかないのだから。ジュリが大人になれば貴族社会のしがらみも増えて、俺には理解できないことも増える。さっきのセイランに対する俺の態度がいい例だろう。そうなった時に物事を判断できるのはこの世界で生まれ育ったジュリだけなのだから。

 と、3人がそれぞれ自分の特技を答えたところで、今度はリオの方がダリルに質問を返した。


「そういうダリルくんは何が得意なわけ? これだけ人に聞いておいて、自分は得意なことがないとか言わないよね??」

「俺は勿論、剣術が得意だ! 現騎士団長である父上から直々に習ったもので、筋があるって褒められたんだぜ!?」


 ダリルがあからさまに胸を張った。こいつ、ゲーム内でも自分の剣術に誇りを持ってたもんな。確か共通ルートで登場するスチルも剣術関連だった気がする。

 と、ダリルは次のターゲットを見つけたというようにどこかに走り去ると、すぐに一人の人間の腕を引いて戻ってきた。このSクラスの中でも特に目立つ、ダリルの興味を惹きそうな人間といえば当然……


「ネイも得意なこと教えてくれ!!」

「はあ? お前ら、何やってるんだ? というか、そんなくだらないことに俺様を引きずってくるな! 俺の時間はな、お前ら凡人と違って貴重なんだ!!」


 天才、ネイである。特例で飛び級入学を許されるような人物だ、強いものが大好きなダリルにとってはクラス内で最も好きな人種だろう。ダリルはダリルで性格とか二の次で何かに秀でた強い人間を好むから。


「あ、もしかしてネイくんには人に言えるような特技がないとか? ごめんね〜、それなのにこんなこと聞かれて困っちゃうよね〜!」


 リオが全力でネイを煽り始めた。こいつは商人の息子だけあって人の動かし方も心えているというかなんというか……基本的に、クソガキ相手に煽りというのは効果覿面だ。


「舐めんな!! 俺にだって特技はある!! 俺はな、魔法が得意なんだよ!!」


 吠えるようにネイが言った。その言葉に首を傾げたのはセイランだ。なぜなら、


「魔法属性が判明するのは一週間後の魔法学だろう? 君は自分の魔法属性がわかっているどころか、すでに魔法が得意と言える程に使えるのかい?」

「はあ……俺は魔法を使えないながらに魔法理論の新説を提唱した天才だぞ? その功績を認められて、特別に入学前に魔法適性検査を受けさせてもらえたんだよ。学園に入学するまでは内密にしとくことを条件にな」


 こいつ、クソガキだけど真面目に天才ではあるんだよなぁ。なまじ凄いやつだけに周りの人間はコイツを矯正できないし、周りに自分よりすごい人間がいないからコイツの態度はデカくなるしの悪循環。もしかして、コイツが学園に飛び級入学を許されたのって天才だからとかじゃなくて年上の生徒との関わりからそう言ったものを身につけることを期待されたんじゃ? 特にゲーム内では語られなかったけどそんな気がしてきた……。


(ジュリ、少し変わってもいい?)

(構いませんけど、急にどうしたんですの?)


 前の世界では妹の、この世界ではジュリの兄をしていた身として言いたいことがある。それをジュリに告げることはせずに俺は主人格を切り替えた。

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