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教室に入ってきた女性教師は、迷いなく教卓まで歩いていき、チョークを取ると黒板にさらさらと名前を書いた。そしてこちらを振り返り、自己紹介を始める。
「初めまして、今年1年間Sクラスの皆さんの担任を務めさせていただくノエル・ファレットです。魔法属性は灯です。1年間よろしくお願いしますね」
そういってペコリと頭を下げた。灯属性は炎と風の複合属性にあたる属性だったか?
……実は俺、おっとり可愛から個人的にこの人のこと好きだったりする。所詮はモブなのだが、俺的にはゲームの登場人物の中では最推しだったと言っても過言ではない。ボインだし。……病院で寝たきりだったとはいえ俺もお年頃だったんだもの。
(柚希、今何かおかしなことを考えなかったかしら?)
女の勘、怖い。別に年頃の男子らしく担任のことえっちな目で見ただけだし。……俺、憑依してから10年間で精神年齢成長してない気がするけど。
「それでは、クラスの親交を深めるという意味も込めて自己紹介しましょうか。一番右の席からお願いしますね」
ノエルの指示に従って、一人ずつ自己紹介をしていく。そうしていくうちに見覚えのある人間が立ち上がった。といっても、俺が一方的に知ってるだけで面識はない。
「セイラン・ヴィルフォード・エレメンツだ。身分としては第3王子だが、学園内では一生徒として平等な立場にある。どうか気兼ねなく接してほしい」
茶色い髪をした男が凛とした声で話し出す。確かセイランの属性は土だったかな。おおらかで人格者として有名な人物で、ゲーム内でも元孤児だから貴族の生活に不慣れなヒロインをサポートしてくれていた。
……セイランの次に立ち上がるのもまた、見覚えのある人物だ。
「ダリル・バークライトだ! 無駄なことは言わねぇ。……俺は強いやつが好きだ! それは腕前だけじゃねえ、自分だけの武器があるやつってことだ! この場にいる全員は知識という武器を持ってるからこのSクラスにいる! つまり、俺はお前らが好きだ! 一年間よろしく!!」
この暑苦しい赤髪は現騎士団長の息子。見ての通りの熱血キャラだ。この学園の学園長と同じく身分を気にしないという考え方を持っている人物で、ゲームでは希少な光属性を持っているヒロインに幾度となく絡みに行っていた。学園長といい、騎士団の関係者は実力主義が多いな。あ、察してると思うが属性は炎。
ダリルが座ると、すぐに次の生徒が立ち上がった。こいつも見覚えがある。
「俺はリオ・フェンリース! 商人の息子で、平民だからお貴族様の作法は微妙だから堅苦しいことはわかんないけど、この学園では気にしなくていいって聞いてる。仲良くしような〜!」
飄々と言ってのけたのは緑色の髪をした少年。自己紹介の通りリオは平民の出身で、ゲーム内ではヒロインの一番の理解者だった。セイランだってサポートしてくれるし、ダリルも壁を作らずに絡んでくれる。でも、ヒロインの苦労を理解してくれるのはリオ一人だったのだ。
ここまでの三人は界隈では【ポジティブ組】と言われてた、ヒロインに好意的だった面々。攻略対象は全5人で、残りの二人は【ネガティブ組】と言われたヒロインに最初は冷たかった奴ら。ジュリの兄で一学年上のルドルフもここの所属。理由は論理的で冷たいから。そしてもう一人は……
「俺様は規定の年齢を迎えないと入学できなかったお前らと違って飛び級を許された大天才の、ネイ・シャルディスだ! お前ら、俺様の足を引っ張んなよ!!」
……というわけで、魔法分野の天才で三つ年下の黒髪くんだ。魔法属性は無属性。自己紹介から分かるようにネイは過剰な自信家で、天上天下唯我独尊という言葉が服着て歩いてるとすら感じる性格してる。ゲーム内ではヒロインのことを馬鹿にしまくるクソガキだった。これが【ネガティブ組】の理由である。
以上の四名にヒロイン、そしてモブ15人がSクラスのメンバーだ。……本来なら。はい、この世界では何故かジュリとヒロインのクラスが逆転してるのでね。この教室にヒロインはいません。不思議だね。
*〜*
それからも順調に自己紹介は進んだ。ジュリも前の面々に倣うように名前とクラスに向けての一言を言って着席。俺が見ていた限りではジュリに悪感情を持った人間はいないと思う。俺は生前人と関わる機会が少なかったからジュリより人の顔色を伺うのに自信がないけど、多分。そうこうしてるうちに、最後の一人の自己紹介が終わった。
「はい、皆さん自己紹介ありがとうございました。それでは、今後の流れについて説明しますね。まずは皆さんが1番気になっているであろう魔法適性の検査を行う、魔法学ですが……一週間後に行うこととなっています。その日を逃せば教会に出向いて検査を行うことになりますので、必ず登校してください」
その日は表に出ないほうがいいな。元々魂に宿る属性を検査とか本気で原理がわからないが、万が一にもジュリの属性と俺の属性両方が出たら面倒だ。灯属性のような複合属性として扱われるならともかく、一人の人間が二つの属性を持ってると見られると非常にまずいだろう。
(柚希、わたくしは何属性になるのかしらね? やっぱりお兄様と同じ水かしら……)
そう、実は昨年判明したルドルフの属性は水だった。ゲーム通りだから俺は知ってたが。それとジュリ、残念ながら君はルドルフと正反対の炎属性だよ。言わないけど。
……と、ここで攻略対象の魔法属性について触れておこうか。基本的に攻略対象たちの魔法属性は髪色と性格がリンクしている。茶髪でおおらかなセイランは土属性、赤髪で熱血のダリルは炎属性、緑髪で飄々としているリオは風属性、青髪で冷静なルドルフは水属性といった具合だ。無属性のネイは性格は特に無属性らしさとかないが、髪色は黒である。ゲーム内に闇属性の攻略キャラが登場しないからこその采配だろう。
ちなみに、この世界に魔法属性と容姿や性格の関連性があるわけではないので悪しからず。単純に攻略対象キャラをわかりやすくしたいというゲーム制作人のメタ的な理由だと思われる。その証拠に、ダリルと同じ炎属性のジュリは金髪だし、光属性のヒロインもピンク髪だ。
「……それでは話は以上です。これからの時間は帰宅やクラスで交流を深めるなど、好きに過ごしてください」
そう言葉を残してノエルが立ち去る。……やっば、何も聞いてなった。まあ、ジュリは聞いてただろうし、俺の学校のことではないし、いいか。いいということにしよう、うん。
それはそれとして、生徒だけを残したところでほぼ全員が初対面だ。当然、会話が弾むようなことはなく教室内を沈黙が包む。すると、沈黙を破るようにしてセイランが話しかけてきた。
「少しいいかな、ネフェルティーナ公爵令嬢」
いや、王子相手にNOと言える人間はいないと思いますが。ちなみに、俺は王子相手じゃなくても言えません。残念ながらNOと言えない日本人(元)なので。で、肝心の話しかけられたジュリはというと……ここ10年くらいで身につけた社交の礼儀をフル活用して一切の失礼なく返答をした。立ち上がって綺麗なカーテシー付きで。
「ええ、セイラン殿下。改めまして、お話の機会をいただきとても光栄です。ネフェルティーナ公爵家長女、ジュリエッタ・ネフェルティーナですわ。今日より一年間、同級の者としてよろしくお願いいたします」
「そんなに畏まらないでくれ、ネフェルティーナ公爵令嬢。殿下などという敬称も不要だ。我々は同じ教室で学ぶ仲間なのだから」
「では、セイラン様とお呼びさせていただきますわね。セイラン様も、私のことは家名ではなくジュリエッタとお呼びくださいませ?」
「了解した。ジュリエッタ嬢」
セイランは、満足そうに頷いた。




