⑤
入学式。異世界でも変わらず人生の節目となり得るイベントだ。
特に今日は妹のように大事に思ってるジュリの入学式なのである。俺はジュリの目を通して外の世界を見るからジュリ自身を見ることは叶わない。それでも楽しみなのは楽しみなのだ。元々、生前は学校なんて無縁だったから俺個人としてもワクワクなのもある。
俺がソワソワしている横で、表に出ているジュリは緊張状態だったようで、俺に話しかけてきた。
(緊張しますわね、柚希。こんなに緊張するのは初めてですわ)
(俺は別に。式に参席するのはジュリの方だし)
(少しは緊張を共有してほしいですわ!! この式が終わったら社交界も解禁になる、貴族にとっては最大の晴れ舞台ですのよ!?)
と、言われましても。この10年間一緒に教育を受けてきたとはいえ、元々は庶民育ちの一般ピーポーなのだ。社交界とか貴族の体面とかの重要性は今ひとつわからない。なんて言い合いながら、俺たちは馬車で学園に向かった。
*〜*
入学式は学園長の挨拶から始まる。学園長は昔に騎士団長を務めたこともあるような厳格な人らしく、この学園そのものも貴族の身分差の壁をなくした完全実力主義として有名だ。実際、ゲーム内のヒロインも、男爵家の養子になっただけの孤児でありながら学内制度による差別とかもなかった。……ジュリエッタ個人にいじめられてはいたが。まあ、それも贔屓とかなしに処罰されたし。
「新入生諸君、ようこそ王立エレメンティア学園へ。我が校は初代エレメンツ国王、レクス・ヴィルフォード・エレメンツによって創立された由緒正しき学び舎である。我が校では貴族子女である其方らに貴族として相応しい作法や、魔法の扱いを叩き込む。これまで諸君は貴族として甘えた生活をしてきたのだろうが、この学園にそんなものはない。使用人もなく、己の力のみで学ぶ場所だ。精進するように。以上」
……予想を裏切らないというか、なんというか。この世代って攻略対象にもなってる第3王子とかいるのにここまで言えるのすごいと思う。
と、学園長挨拶が終わったら今度は学内についての説明だ。舞台の上に女性教師上がる。彼女が長々と話したことを要約すると、まずこの学園には学生寮があり、希望者は利用することができる。これは事前に告知されていた。利用するのは主に王都に屋敷を構えることができない地方の下級貴族だとか。ゲームのヒロインも寮暮らしだったな……。第二に、授業について。授業は二種類で必修科目と選択科目に分かれていているらしい。必須は魔法学と礼儀作法関係のみでこれはクラス単位での履修。残りは好きな授業を好きなだけ受けていいんだとか。そして、最後に魔法属性診断について。家庭教師にも言われていたように、学園に入学したら魔法属性の検査がある。魔法学の第一回で検査を行うそうだ。方法は指を針で刺して聖水? のようなものに垂らすらしいのだが……。ジュリがゴネている。
(柚希!? わたくし、自分の指を刺すなんて嫌ですわ!? 代わりにやってくださいませ!?)
(アホか。魂によって属性が変わるんだから、俺がやったら俺の属性が写って怪しまれるだろ。むしろ俺が干渉しないように極限まで影を薄くしないといけねえんだよ)
でも、とジュリがゴネ続ける。なんとか魔法学の初回授業までにジュリを説得しないといけない。が、それは今じゃなくていいからひとまず壇上の教師に意識を向け直す。一応、一通りの説明は終わったようで、次はクラス発表らしい。
当然、クラスの分け方も身分別とかではない。入学前に知力テスト的なのを行い、その結果でクラスを決める。ひとクラス20人ずつのS、A、B、C、D、Eの6クラスで、ゲーム内のジュリエッタは最低クラスのEクラスだった。ちなみに、ヒロイン自身と、ヒロインと同学年の攻略対象は最高クラスのSクラス。まあ、こっちのジュリは俺が授業受けさせたし、テスト前に勉強教えたからゲーム内よりは頭がいいと思うのだが……。
そういえば、俺も授業を一緒に家庭教師の授業を受けているからこの世界の知識を身につけているが、ジュリに勉強を教えることはしても代わりにテストを受けたりはしなかった。こういうのは本人の力で頑張らないと意味ないしね。
「それでは、クラスの発表を行います。Sクラスから順に名を呼びますので、起立してください」
そう言って、女性教師が一人一人の名前を呼んでいく。その中には当然、同い年の攻略対象の名前もあった。ちなみにまだヒロインの名前は呼ばれていない。
「試験11位、ジュリエッタ・ネフェルティーナ」
パードゥン?? ジュリがSクラス? マジで? いや、そりゃあジュリは真面目に勉強してた。勿論テストで不正なんてしてない。それは俺が誰よりも知ってるんだが……。うん、ここは純粋にジュリの努力を賞賛だな。
(頑張ったな、ジュリ)
(これがわたくしの実力ですわ! ……と、言いたいところですけれど柚希の力も大きいですわ。柚希、家庭教師より教えるのが上手いんですもの)
……ジュリがお世辞を使えるようになってる!! 普通に考えて俺が本職より教えるのが上手いわけはないのだが、そう言ってくれる気持ちが嬉しい。照れるけど。
なんてジュリとじゃれあってるうちにSクラスの生徒全員が呼ばれて着席を促された。……え、ヒロイン呼ばれてなくない?? 同学年の攻略対象たちは呼ばれてたけど、ヒロインだけ呼ばれてなかった。ええ……? ジュリがSクラスになった影響でAクラス落ちしちゃったとか? でも、ヒロインって成績いい方じゃなかったっけ??
ところが、Aクラスの生徒全員が呼ばれてもヒロインの名前は呼ばれない。それからB、C、D、と順に呼ばれていくがヒロインは呼ばれない。そして、Eクラスの生徒が呼ばれ始めた時……
「試験102位、ルミナ・エルフェリア」
……まさかの最低クラスですか。ジュリとヒロインのクラスが入れ替わるのは予想外だ。それにしても妙だ。ジュリが入った影響で一つ下のAクラスに落ちたとかならともかく、最下位に落ちるのは流石におかしくないか? まあ、ジュリの中に俺という異物が存在することによるバタフライエフェクトだということなのだろうか……。と、考え事をしている間にEクラスの生徒全員も呼ばれ終える。Eクラスの生徒も着席して、入学式は終了。クラス順に教室へと移動するようだ。
……今、ヒロインに睨まれた気がしたのだが気のせいだろう、多分。
*〜*
教師の案内で教室に行くと、そこはゲームの画面越しに見た背景そのものだった。ちなみに、この学園は身分による差別がない分成績による優遇制度はある。優遇とは言っても、精々が食堂で選べるメニューが少し増えるとか、教室の装飾が豪華とかその程度。当然ながら受けられる教育には差がない。また、クラスは学年が変わるごとに再編成される。基準となるのは年3回あるテストだそうだ。ゲームはヒロインが一年生のうちの1年間しかなかったので俺は二年生以降のクラス分けは知らないが。知ってることは、悪役令嬢であるジュリエッタ・ネフェルティーナは破滅し、二年生に進級できないという事実だけである。
そこに、Sクラスの担任である女性教師が入ってきた。彼女は元孤児であるヒロインをよく気にかけていた心優しい人だ。そんな人がジュリの近くにいてくれる。また少し、ジュリの不幸が遠のいた気がした。




