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ジュリエッタと主導権を交代して俺が授業を受ける。ということで俺は魔法の教師が来るという屋敷の一室に着いたのだが……。
(騙されましたわ! 柚希が授業を受けてもわたくしの感覚は遮断できませんのね!?)
ジュリが俺の狙いに気付いたようで騒ぎ立てる。そう、俺が主導権で授業を受けると言い出した理由は一つじゃない。勿論、俺が教師に教わってみたかった事もあるのだが……俺たちは強制的に五感が共有されてる関係上、授業を受けるのは俺でもジュリエッタも強制的に授業を受けさせることができるのだ。
(いや、ジュリの人生だし俺が口出しする気はなかったんだけどさ? 勉強を意味がないからって逃げ回るのに時間を消費しても無駄なだけだし、なら俺が授業を受けるって体験しつつ、ジュリにも強制受講させた方がいいかと思って)
(余計なお世話ですわ!)
(そうだけどさ、まあ勉強って無駄じゃないと思うし。ジュリは父親の選択肢を広げるだけって言うけど……その父親から逃げたくなった時に逃げる方法を考えるのにも、逃げた先で生活を送るのにも知識は武器になると思うよ。勉強は自分自身の選択肢だって広げられるんだ)
ゲームに出て来るジュリ……ジュリエッタ・ネフェルティーナは勉強が苦手で、成績優秀なヒロインに対する嫉妬も込みでいじめていたような気がする。勿論、それ以外でも様々な理由はあったのだろう。そもそも公爵令嬢が男爵令嬢をいじめたことは、残念ながら貴族社会ではさして問題がなかったのだと思う。ただ、その相手が最終的に聖女に選ばれたことで地位が逆転してしまったから問題に発展してしまったのだろう。……ゲームによると、神殿は王室と双璧をなす権力を持つ。そして、神殿に所属する聖女は王族における姫君の地位に当たるらしい。当然、姫と公爵令嬢だと前者の方が偉く、悪役令嬢のジュリエッタ・ネフェルティーナは罪に問われることになったのだ。
話を戻すが、ジュリが将来破滅する理由の一端には勉強が苦手だったこともあるのだ。多少生意気なところがあるとは言っても、今はまだ基本的に純粋な少女であるジュリが破滅すると分かっていて放置するのは嫌なのだ。妹よりも年下の女の子を見捨てるのは寝覚が悪いのもある。
そう考えながらジュリを諌めていると、定刻になったようで教師が授業を開始する。
「ではジュリエッタお嬢様、前回の授業の復習からいたしましょう」
そう言って教師は語り出した。
「この世には無数の魔法属性が存在致します。その属性を大きく分けると3種類。まずは五大属性と呼ばれる風、炎、水、土、無の5属性ですね。次に、五大属性が掛け合わされた複合属性です。こちらは複合属性同士で掛け合わさる事もあるため正確な種類数が不明です。この世に存在する属性の大多数はここに分類されますね。最後に、希少属性……こちらは二種類、光と闇のみです。全体数は圧倒的に少なく、10年に一度と言われています」
この辺は俺がゲームをプレイしてた時に知った内容と変わらない。確か、五大属性を持っているのは高貴な人間だとゲームの中で説明されていた気がする。ジュリは五大属性の一つである炎属性だった。
「属性は、魂に刻まれています。そのため、血縁による遺伝などはございませんが……魂の性質により両親と同じ、または複合などの近い属性が生まれます」
何だそれ。魂の性質なんて知らないぞ?? というか、属性が魂で決まるというのも初耳だ。
「魂の性質って何ですか?」
「魂は自分と似た特性の魂に惹かれるのです。したがって、両親の魂と同じ属性の魂が惹きつけられます。しかし、例外となる属性があり、それが希少属性です。光と闇は絶対数が少ないため性質が違う魂の元に生まれる……と、言われています。ちなみに、属性は学園入学後の検査で判明します」
やはり乙女ゲームとは世界の一部分を切り取っただけのようで、俺が知らないことも多い。知らない事を知る楽しさですっかりジュリの事を忘れて授業に集中していたらジュリに話しかけられた。
(柚希? 本当にこんな授業を聞いて何か意味があるのかしら?)
(あるある。知識があれば逃亡先で教職とかもつけるし)
無駄な知識なんてないのだ。ほぼ寝たきりだった俺ですら知識を株という金稼ぎで活かせたのだから、健康体のジュリならもっと多くの活かし方があるだろう。なんて考えている間も授業は進む。その間ずっと何も言わなかったあたり、ジュリも真剣に授業を受けてたんだといいな。
*〜*
授業を受け終えてジュリに主導権を交代する。ジュリは今日、もう何も予定がないらしく、おやつにするべく庭園へと向かった。庭園のバラを見ながらのティータイムがジュリのマイブームらしい。
「あら、ジュリエッタ。どこに向かうのかしら?」
庭園に向かう道中で女性に話しかけられた。侍女とは違って豪華な服を着ていて、貴族の女性だということがわかる。何となく誰だか予想はつくが、一応ジュリに聞いておいた。
(ジュリ、この人誰? ジュリのお母さん?)
(……ええ)
ジュリは俺に対してそれだけ答えると、母親に返答するために口を開く。
「わたくしは庭園に向かうのですわ、お母様」
「そう。お勉強は済んだのかしら?」
「もう魔法の授業は……」
「いいえ、自習よ。貴女はたくさんの知恵をつけないといけないわ。ただでさえ貴女はルドルフに劣っているのだから……」
これは勉強をしたくなくなるわけだ。俺は見たことないけど、6歳のジュリが駒にされてると理解できるような態度をとる男で母親がこれ。ジュリが可哀想になってくる。ゲームのシュリがいじめに走ったのはこの家庭環境から来るストレスもあんったんじゃ??
俺がそんな事を考えてる横で、ジュリの母親は言いたい事だけ言って去っていく。それと入れ替わるように男の子が来た。ジュリとは違う水色の髪で、身長はジュリより高い。ああ、こいつは……
「ごきげんよう、ルドルフお兄様」
攻略対象の一人、ルドルフ・ネフェルティーナだ。ジュリの挨拶に対して軽く頷くだけでスタスタと去っていった。そういえば、ゲームの中のアイツも序盤は論理的すぎで塩対応してたっけ。こいつは生まれつきこういう性格なんだろうが……孤独なジュリにとってはキツいだろう。
(柚希。わたくしが勉強をする意味があると、これを見てもまだ思いますかしら?)
そう俺に問うジュリの声は震えているように感じる。ジュリはまだ幼い子供で、本当は家族の愛情が必要な年頃だろう。それが両親からは駒扱い、兄は無関心とくれば人格も歪む。日本には「三つ子の魂百まで」ということわざがあるように、小さな頃の家庭環境というのはその後の人生に影響する。ゲームのジュリがあんな性悪のいじめっ子だったのはジュリだけが悪かったわけではないということだ。それなら俺は、ジュリの兄代わりになろう。血のつながった家族の愛情に触れられないジュリの一番の味方になりたいと、俺は思った。
*〜*
それから10年が経った。この10年でジュリと俺は少しずつ信頼を築いていて、今では俺が一番ジュリのことをわかっていると自信が持てる。
そして今、目の前の鏡に映るのは金髪をドリルにしてツインテールに結んだ美少女。プロポーションも抜群で、前世の俺が何度も液晶越しに見たゲームの悪役令嬢そのものだ。……そう、ついにジュリエッタ・ネフェルティーナはゲームの王立学園に入学する。
ここからが正念場だ。俺は絶対にジュリを不幸にさせたりしない。




