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「ルミナ・エルフェリア男爵令嬢!貴女の聖女としての立場を利用した悪行、これ以上見逃すことはできませんわ!ネフェルティーナ公爵家の名の下に、公爵令嬢であるわたくし……ジュリエッタ・ネフェルティーナが告発いたします!」


 金髪の髪をドリルツインテにした少女が声高らかに叫ぶ。彼女は乙女ゲーム『Bleessing*Element〜光が導く運命の恋〜』の悪役令嬢にそっくりだ。しかし、彼女は断罪をするのではなくされる側の人間のはず。一体どうなっているんだ??


*〜*


「柚希くん、起きて。点滴の時間よ」


 看護師に揺すり起こされて目を開けるとそこに広がるのは見慣れた天井だった。どうやら先ほどの悪役令嬢によるヒロイン断罪は夢だったらしい。ここ最近、妹に勧められた乙女ゲームをプレイしていたから夢にまで見てしまったのだと思う。

 なぜ俺が夢に見るほどに乙女ゲームをプレイしていたのかというと、俺には娯楽が少ないのだ。というのも、一般的な男子……俺と同じ18歳の人間が楽しめるような娯楽を俺は楽しめない。例えばゲームセンター。普通の人間なら一度は足を運んだことがあるそこは、身体が弱くて調子が良くても病院の敷地から出られない俺にとっては縁遠い場所である。

 まあ、そういう事情もあって俺のいつもの暇つぶしは勉強だった。そんな俺を哀れに思ったのか、妹が男である俺に男を攻略する乙女ゲーム?を薦めて来た。正直、乙女ゲームとやらに興味はないが妹の好意を無碍にすることも出来ないからプレイしていたというワケだ。ちなみに、一日中暇な人間の手にかかれば既読スキップを駆使して三日でエンディングをフルコンすることが可能だ。


 そういえば、俺の病室は電子機器の使用が認められた個室だったりする。当然パソコンやスマホも使えるから、勉強したことと両親からの小遣いを元に株をやっている。病院から出ることもできず、入院費をかけまくる金食い虫の俺に妹と同額の小遣いをくれる両親のために少しでも金を稼ぎたいと思った結果だ。俺の死後は是非とも株で稼いだ金で妹の大学進学とか老後の生活とかやってほしい。俺の19年分の入院費で貯金なんてないだろうから、少しでも足しにしてくれ。せめて妹の進学費くらいは残してやりたい。流石に借金とかはないと思うのだが……。え、ないよな?借金までして俺の延命してたら申し訳なさすぎる。


*〜*


 その日の昼、妹がお見舞いに来てくれた。


「お兄ちゃん!私がオススメしたゲームはプレイしてくれた?」

「一応フルコンしたけど。つか、なんで俺に乙女ゲームなんか薦めたんだよ……」


 いや、ガチで。俺は男と恋愛する願望とかないぞ。


「だってお兄ちゃん、お見舞いに来てもいつも難しそうな本読んでるか、パソコンで何かしてるかでつまらなそうなんだもん。お父さんとお母さんからもらってるお小遣いも使ってないんでしょ?」

「株の投資資金にしてるし。そもそも、病院内じゃジュースとかお菓子しか買うもんないからな。それだって飲み過ぎ、食い過ぎは体に悪いしなあ……」

「お母さんに頼めば外から買って来てくれると思うよ?私だって頼まれれば買って来るし。この部屋は電子機器使えるんだから、ネットで検索したら興味あるゲームなんて簡単に見つかるでしょ?」


 妹の提案はありがたいが、流石に申し訳ない。ただでさえ頻繁に俺の見舞いに来てもらってるのにわざわざ買い物をして来てもらうとか……。


「お兄ちゃんは遠慮してるのかもしれないけど、私たちはお兄ちゃんのこと迷惑なんて思ってないよ」

「……じゃあ、一つだけ頼んでもいいか?」

「なあに?なんでも言って!」


 俺は鍵付きの棚の中に入れてある自分の財布を取り出した。母さんが毎月くれる小遣いの大半は株取引用に通帳に入れてもらえるよう頼んでいるが、一応院内の売店で買い物ができるように財布の中に多少の現金は入れてある。まあ、新しく現金を入れるのは数ヶ月に一回というレベルで使わないのだけど。とにかく、そこから一万円を取り出して妹に手渡した。


「それで神社にお賽銭して代わりにお参りしてきてくれる?」

「……え?」

「お願いは“俺が少しでも長生きできますように”」

「……わかった」


 よろしく、と俺が声をかけると妹は病室を出ていった。俺が生きてると金食い虫になることはわかっているが、それでも生きていきたい。まだ、やりたいことがある。やってみたいことがある。世界の医療が進化するまで生きられればワンチャンあるかもしれない。そんな一縷の望みをかけて妹にお参りを頼むのはバカだと思うが、もう俺にはそれしかできないのだ。


*〜*


 夜。それは孤独な時間。こういう言い方すると厨二病っぽく聞こえるかもしれないが、個人の病室だと他の人の寝息とかも聞こえないから真面目に俺しかいない感覚に襲われるんだ。というか実際、見回りとかで看護師が来ない限りは俺一人しかいない。

 考えても仕方ないので寝ようとすると心臓がずきりといたんだ。元々は15歳にもなれないと言われた身体が19歳まで生きていることが奇跡なのだ。いつお迎えが来てもおかしくない。そんな考えが脳裏に浮かんで、振り払うように俺は目を瞑る。


 ……そうして、夜が更けていった。


 翌朝、俺はとにかく体の調子が悪かった。心臓が痛くて体を起こすことすらできない。病院が連絡したようで、平日だというのに父さんも、母さんも、妹も俺の病室に集結していた。


「お兄ちゃん大丈夫!昨日、あの後ちゃんと神様にお願いしたもん!」

「柚希、まだ母さんとお話ししましょう!?」

「息子と一緒に遊ぶのが父さんの夢なんだ。叶えておくれ、柚希!」


 妹、母さん、父さんの順に声をかけてくれる。その言葉に返答しようとするのだが、もう声が出ない。それでも、どうしても伝えたいことがあって必死に口を開く。


「今まで、ありがとう」


 俺がそう伝えるとみんなが泣きそうに目を潤ませる。まだ言葉を紡ぎたいのに、瞼が重くなって目を開けることも出来ない。あーあ、神様にいくらお願いしたって最後はこんなものか。意識が暗闇に沈む。完全に何も見えなくなる直前、泣きじゃくる金髪の幼い女の子を見た気がした。


*〜*


 命が尽きて、俺の人生は終わった。……と、思いきや再び目が開いた。しかし、目の前に広がるのは見慣れた病室の天井ではない。これは……あ、天蓋というやつだろうか?実物を見たことはないが、本か何かの挿絵で見たことがある。それにそっくりだ。


(ちょっと!どういうことですの!?わたくしの身体が動かせませんわよ!?)


 状況が掴めなくてぼんやりしていたら頭の中に甲高い、というか幼い声が響く。しかし周囲には俺以外いない。俺は声の出所を探そうと壁に捕まりながらベッドを降りようとして、驚いた。俺の身体はずいぶん前に思うように動かせなくなっていて、最近では調子が悪ければ寝たきり、調子が良くてもここまで身体が軽くはなかったはずだ。それなのに、身体が自由に動く。むしろ生まれてから一番調子がいいと感じるくらいだ。

 嬉しくなって身体を見下ろしてみると、なんと着ているのは病衣じゃなくフリフリとしたワンピースのような部屋着だった。おまけに俺の身長ならありえないほど床が近く、手も小さい。部屋に大きな姿見があったから覗いてみるとそこには……、


 小さな女の子がいた。

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