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ブルー・ラブ・ポップ

作者: うらとも

進藤駿


キクチマドカ


 :本編


 :ゲームセンター


駿「(M)雑踏と電子音。それだけがこの空間を支配している」


駿「(M)メダルの落ちる音、落胆のため息。それらは隙間に挟み込まれた雑音にすぎない」


駿「(M)たばこの匂いが邪魔だ。となりのオヤジを睨みつけたが、睨みつけた気になってただけかもしれない。目が合うと、ゆっくりと顔をそらした。目尻に火傷痕のような傷があった。関わってはいけないヒトだ。きっと」


駿「(M)画面の中で、荒いドット絵のキャラクターが敵をバッタバッタと斬り倒していく。右上に表示された数字は増え続けて、もう十何分も画面を見続けているせいか、目がチカチカしてきた」


駿「(M)一度、ぎゅっと目をつぶる。まぶたの内側で、目ん玉の中を血が巡っていくような感覚がして、ぱっと目を開けると、画面の向こうでキャラクターが敵にやられていた。ゲームオーバーの文字が、七色に光っている」


駿「逆だろ……」


駿「(M)演出に文句を言って、筐体から離れる。コインはまだ残っていたが、続ける気にはならなかった」


駿「(M)雑踏と電子音を抜けて、ゲームセンターを出る。夏の日差しはまぶしくて、手で影を作って空を見上げる」


駿「(M)青い。ただ、それだけを思った」


 :教室


マドカ「(M)数学教師の山岡の言葉は、全然まったく頭に入ってこない。プール終わりの教室には湿り気を伴ったまどろみが漂っていて、となりのマリコは頬杖をついて居眠りしてる。頭上でまわる扇風機が微かな冷風を運んできて、まどろみを加速させる」


マドカ「(M)あくびが浮かんできた。大口を開けかけたところで、慌てて手で隠す。マリコとは逆方向の、隣の席。そこに座る、タチバナくんの方を見て、ほっと胸を撫で下ろす。よかった。見られてなかった」


マドカ「(M)タチバナくん。サラサラの髪、日焼けした肌、薄い唇、手の甲に浮かんだ一筋の血管が、わたしをおかしくさせる」


マドカ「(M)そっと横目でうかがってると、彼が大きなあくびをした。真っ白な歯がのぞいて、目には涙が浮かぶ。それを軽くぬぐう手が、なぜかわたしの心を跳ねさせる」


マドカ「――いて」


マドカ「(M)頭頂部への衝撃。見れば、数学教師の山岡が教科書を構えていた。どうやら、問題への回答を求められていたらしい」


マドカ「(M)マリコが笑っている。前の席のユリも、後ろの席のカセくんも。そして、タチバナくんも」


マドカ「(M)恥ずかしい。はずかしくて、顔が熱くなる。でも、タチバナくんの笑顔は、今わたしだけに向けられている。それだけで、幸福度はすべてを超えていった」


マドカ「(M)彼の後ろに、窓越しの空が広がっている」


マドカ「(M)青い、と。そう思った」

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