Episode2 属性鑑定の日
王都でも有数の魔道具師によって作られた「属性認識水晶」。
この魔道具は、触れた者の魔力を読み取り、内在する属性を最大四つまで浮かび上がらせる。
鑑定結果には、各属性の「適性割合」が表示され、今後の魔法教育の方向性を決めるための、極めて重要な儀式だ。
今日は、私――エルーフィア・ヴァイトの五歳の誕生日の数日後―――属性鑑定の日。
五歳になった貴族の子どもは、この儀式を受ける。
特にヴァイト公爵家は、王家の血筋があり、その血を引く子どもには三属性が宿ることがほぼ確定している。
私には「水」「闇」「土」があることが確定している。
これは、転生前の私――前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖約の魔術師』の知識による。
私はあのゲームに登場する悪役令嬢。
攻略対象の一人・クリスの姉であり、ヒロインのミアに立ち塞がる存在だった。
「エルーフィア様、お支度が整いました」
メイがやさしく声をかけてくれる。
淡いラベンダー色のドレスに袖を通し、姿見の前に立つ。
この顔、この身体……もう、慣れたけど。
それでも、ときおり思う。
この人生をやり直す意味があったのだとしたら、前と同じ過ちは繰り返してはいけないと。
魔力干渉を避けるために厳重に設計された、公爵邸の地下室。
そこに設置された属性認識水晶が、静かに私を待っていた。
透明な球体の中央に、そっと手を添える。
「……!」
球体の中に魔力が流れ込むと同時に、光が走る。
次々と色が浮かび上がった。
最初は透き通るような青――水属性。
次に、深い漆黒の黒――闇属性。
そして最後に、あたたかみのあるオレンジ――土属性。
それぞれの色が静かに揺らめきながら、明確な数値となって表示された。
水属性:38%
闇属性:34%
土属性:28%
「……やはり、三属性」
母がそっとつぶやく。
父は深く頷き、誇らしげに私を見る。
「素晴らしい。三属性にして、このバランスの良さ。将来が楽しみだ」
ふふ、予定通り……だけど。
私の内心は、ほんの少しだけ、ざわついていた。
ゲーム通りの属性。ゲーム通りの結果。
でも、それなら――この先も全部、同じように進んでしまうのでは?
この瞬間はまだ知らない。
今は表示されなかった「第四の属性」が、自分に宿っているということを。
空白の場所に、やがて浮かび上がる異端の色。
そして、それが私の運命を、物語を、大きく変えていくことを――