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【書籍化】魔女の秘薬-新しい婚約者のためにもう一度「恋をしろ」と、あなたは言う-  作者: コーヒー牛乳
EP.2

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4


「マリエッテが王太子妃になると決めたなら、障害は取り除く。ただ、ソフィエルが馬車を奇襲したのは予想外だった。あってはならないミスだった」


 怖かったよね、ごめんね。そう言いながら、手の甲を優しく指で撫でられた。そんな仕草の一つ一つに戸惑ってしまう。親しみと気遣いを感じている自分と、知らない男性に触れられているような落ち着かない自分がいる。


「……怖いのは、俺だな。ごめん」


 その戸惑いを察したのか、温かい手は離れていく。それを追いかけたのは、私の手の方だ。


「ううん。ローマンは、わざと怖がらせようとしているでしょう」


 ひっかけるように、弱い力で捕まえた指先はピタリと動きを止めた。振りほどかれないことに、心のどこかでほっとする。


 ぎゅっと眉に力を入れ、ローマンを仰ぎ見た。

 今まで私がローマンや周囲が暗躍する姿を見ないでこられたのは、守られていたからだ。私の代わりに、誰かが泥を飲んでいたということに変わりない。それを知らないままでいることは、きっと綺麗で幸せなことだろう。だけれど、私は知らないままは嫌だった。


「見くびらないで。清濁を併せ飲む度量もないと決めつけないで。除け者にしないで」


 私にも頼ってよ、そう宣言するように言えば、きょとんとした顔をしたローマンは突然笑い始めた。何もおもしろいことは言っていない。むしろ怒っているのだ。


 それなのに、ローマンは一層やわらかい笑顔でこちらを見る。


「やっぱり、マリエッテが好きだなぁ」


 眩しそうに目を細めて恥ずかしげもなく言ってのける彼の様子に、怒っているんだぞとつくっていた表情が保てない。


 ローマンがその目を向けるのは、初めてではない。

 言葉にするのだって。


 何度だって言葉で、仕草で、瞳で伝えてくれていた。

 それを曖昧な態度で受け流していたにも関わらず、何度だって。


 もう潮時なのかもしれない。線を引き直さなければいけない時間が来た。

 私は家族を守りたい。そのためには王太子妃の立場が一番良いと考えている。そのつもりでここまで来た。


 裁判が終わったら。身の潔白を証明出来たら。リュヒテ様にも伝えよう。そう自分を奮い立たせてここまで来た。


 ローマンの隣にいると甘えてしまう。泣いては前が見えなくなる。自分の足で、選び立つと決めたのだ。


 一つ一つ、自分の中の甘えを振り切るように覚悟を決めて、口を開く。


「……ローマン。あのね」

「言わなくてもわかっているよ。元の形に戻っただけだ」


 そうやっていつもローマンは先回りして私を甘やかす。”元の形”がどんな関係だったのか、私たちは覚えているんだろうか。


 私の中のローマンは兄のようで、本当は兄ではなかった。

 リュヒテ様と親友で、私とも幼馴染で。


「長くそばにいすぎたのかな」


 ポツリとそう呟いた声が、静かな部屋では私に届いてしまう。


「いなかったら、きっと寂しかった」


 口をついて出た言葉は、心からの素直な気持ちだった。


「……もう折り合いつけたはずなんだけどな」


 ガラリと変わった、低い声色に思わずびくりと肩が揺れてしまった。

 さっきの言葉は失言だった。なぜ引き留めるような事を言ってしまったのかと、自分自身を叱りたい。


「じゃ、じゃあ私、いかなきゃ」

「あぁ。もう時間だ」


 なんとなく危険な予感がして、勢いよく立ち上がる。

 ずきりと足は相変わらず痛むが、このままここにいてはいけない気がするのだ。


 長椅子から離れ、扉に向かうところだった。


 ドシンと身体に衝撃が走る。


「──ごめんね、マリエッテ」


「え?」


 最後に見たのは、私の身体を貫く剣だった。






2026/03/01に書籍1巻発売開始しました。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
えっ!ローマン何した?続きはこちらで読めるのでしょうか。
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