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【3/1発売予定】【書籍化】魔女の秘薬-新しい婚約者のためにもう一度「恋をしろ」と、あなたは言う-  作者: コーヒー牛乳
EP.2

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2

「燃やせ! 売国奴を隠すな!」

「ここに犯罪者がいるぞ! 出てこい!」


 そんな声が馬車の外で飛び交っていた。

 ──それは、私たちに向けられた言葉だろうか。


 状況を理解する前に、勢いよく開いた扉から伸びた手に腕を捕まえられた。

 侍女と共に強引に引きずり出されて、私たちが乗っていた馬車の屋根が燃え始めていることに気付く。


「ご無事ですか!? とにかく、ここは危険です。どこかに隠れて……ッ」


 私たちを助け出してくれたのは、護衛騎士の一人だった。

 助かったと一息つくにはまだ早い。


 私の視点からは、まさに今、剣を振り下ろそうとしている者と目が合ったからだ。

 

 騎士は素早く、背後に振り向き降りかかる刃を防いだ。


「大丈夫か⁉ 火事だぞ!」

「強盗か⁉」


 騒ぎを聞きつけた市民がわらわらと集まってきた。

 そうだ。ダリバン侯爵邸を出発した馬車は、街中を走っていた。人の目は多く、すぐ警備隊による応援も来るに違いない。


 続々と集まる市民を確認した襲撃者たちは、一転して身をひるがえし蜘蛛の子を散らすように散り散りに逃げていく。


 護衛騎士たちは襲撃者の内、何人かを捕縛していたようだ。捕らえられた男たちは暴れることもなく、粛々と従っている。

 恐らくこれから警備隊がやってきて、襲撃者を連行することになるだろう。手続きには護衛騎士数名が当たるとして、裁判開始時間までに間に合うか心配になった。


「マリエッテ様はこちらに。今、使いの者を出しております。……馬車もなくなり、ご心労もいくばくかと……今日は邸に戻った方が……」


 侍女は震える声でそう言うが、帰るわけにはいかない。今日に限っては。


 そもそも、この襲撃者は何が目的なのか。

 おおよその強盗は街道など人目が少ない移動中を狙われることが多い。街中で貴族の馬車を襲撃ともなれば、金銭が目的ではなく、政治犯の疑いが強まる。


 つまり。

 

「──その襲撃者は」


 振り返れば、襲撃者の頭巾は剥ぎ取られていた。目が黄色く濁った髭だらけの男が、こちらを見てにやりと口を歪めた。


「聞け! これは正義の鉄槌だ!」

「この売国者が! ダリバン侯爵家は犯罪者だ! 誰か助けてくれ!」


 大人しくしていた襲撃者たちは次々に声を張り上げた。

 即座に引き倒され、口に何かを詰められるがもう遅い。


 消火活動に集まっていた市民。騒ぎの元を確認するために集まってきていた観衆は、聞いていたからだ。


 ざわめきが内から外へと広がる。


「世迷言を。この者たちは、襲撃者である。耳を貸すな!」


 襲撃者を捕縛していた騎士が対抗するように声を出すが、ざわめきは止まらない。


 そのざわめきを加速させるように、人だかりから野次が飛ぶ。


「異国の血の混ぜ物が!」

「混ぜ物が国を腐敗させるんだ!」

「王家をたぶらかす毒婦め!」


 この連携のとれた野次は、先ほど逃げた襲撃者の一味かもしれない。だが、どこから聞こえたのかわからない。

 護衛騎士たちは集まった市民たちに剣を向けるわけにもいかない。それを利用して人混みに紛れられては。


「──ダリバン侯爵家って、王太子殿下のご婚約者様の家じゃなかったか」

「──犯罪って、何をしたんだい」

「──最近、他国から流れてきたやつが暴れていたじゃないか。あのお嬢さんが招いたってことなのか?」

「──じゃあ真実なのか」

「──そうじゃなかったら白昼堂々、こんなことになるかね」

「──かあさん、あの人、”マゼモノ”なの?」


 市民の困惑の声が、次第に非難の目に変わっていく。


「無礼者! 信じるに値しない妄言は、貴族に対する侮辱と心得よ!」


 市民から突き刺さる視線は、貴族のものよりも正直だ。

 ガヤガヤと騒ぎ始める市民たちの声は、炎のように威力を増しているような気になってくる。


「今はこの場を収めることを最優先に。対応に時間をとられては、それこそ相手の思うつぼです」

「……はい」


 いきり立つ騎士の一人にそう声をかければ、不承不承という返事があった。


 普段より多い人数の護衛騎士を充てていたことが幸いだった。

 私たちを護衛という名の監視をしていた騎士たちも、馬車に並走していたことでけがなく済んだのかもしれない。


 騎士たちはそれぞれ、逃げた馬を探しに行く者。馬車の鎮火と後処理に当たる者。捕縛した襲撃者を担当する者と散り散りになっている。さすがに普段の人数だったら、もっと大変なことになっていただろう。


「も、もしかしてまだ向かわれるおつもりなのですか。ご事情をお話すれば、きっとご猶予くださいます!」

「いいえ。わたくしに出席されては困るから、このようなことをするのだから。出席してさしあげましょう」


 ふつふつと燃える怒りを内に隠し、そう微笑めば侍女は青い顔を白く変化させた。

 この襲撃の絵を描いた首謀者は、よほど私に出席されては困るらしい。


「馬か、代わりの馬車は手配できそう──」


 頭に衝撃が走る。


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