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清掃員クリア、地面とキスをする。

「おめでとう、トーイ君、これで君もゴッドブレスの正式メンバーだ」


 マックさんが俺の肩を軽く叩いた。

 祝福の言葉と激励の手が。

 まるで呪いのように感じた。

 これで俺はゴッドブレスのメンバーだよ。そう告げている。

 そうだ。俺はゴッドブレスのメンバーだ。

 商人の小倅なんかじゃ終わらない。


 メンバーのみんなは誰も振り返らずにさっさと引き上げていく。

 そんな中、俺だけがさっきの大穴を振り返る。


 穴から噴き出す風が、まるで孤児のガキの叫びみたいだった。


 ◇


 オレは。


 落ちる。


 まっすぐに穴の底に向かって落ちていく。


 あの時、重力から解放されたのは一瞬で。

 すぐにオレの身体は地の底へ引っ張り込まれるように下へと落ちた。

 初めは重力の力で口から内臓が出て置き去りにしちまうんじゃないかと思うほどだったけど今は大分落ち着いた。


 オレの落ち着いた気持ちとは真逆にいつまでも地面には着かない。

 この穴、どんだけ深えんだ、なんて考える余裕すらもある。


 だがしかしだ。


 このまま落ちてりゃいつかは地面に着く。

 そうしたらオレは地面に落ちた水袋みたいに弾けておしまいだ。


 普通なら諦めて天のガノウ神とやらに祈るのか?

 だけどよ。どうなっても最期まで諦めねえのがオレの信条だ。


 身体の痺れもとれて普通に動けるようになった。

 トーイのヤロウ、こんくらいしかデバフ時間がねえのかよ。天の称号ったって大した事ねえな。


「パワーウォッシュ!」


 オレはスキルを発動させる。

 背中にタンク、手中に噴射器のノズルが現れた。

 いや、タンクとかノズルとか言ってるけど、何なんだろうなコレ。

 自分のスキルながら知らない言葉すぎる。でも意味は自然にわかるから逆に意味がわかんねえ。


 まあいいか。

 そんな考察は後回しだ。

 オレが生き残るにはコイツだけが頼りだ。


 昨日。

 コイツを試す時に何にも考えねえで壁にフルパワーでぶっ放した。

 結果。

 教会の壁をぶっ壊してオレは敷地の外まで吹っ飛ばされた。

 コイツにはそれ位の威力がある。

 じゃあそれを地面に向けてぶっ放したらどうなるか?

 オレは空を飛べるんじゃねえか?

 そう考えたわけだ。


 だがコレには問題がある。

 いつ地面に着くのかがわかんねえんだ。

 しかもこの水がどれくらい連続で出せるのかも試してねえ。


 だけどよ。

 こんだけ落ちてきたんだ。さすがにそろそろ底だろうよ。

 ギリギリまで粘るってのも一案だけどな。オレは別に壁に向かって走ってどっちが先に止まるかなんて臆病者の度胸試し(コカトレース)をやってるわけじゃねえからよ。安全策をとるぜ。


 ノズルをジェット噴射に変えて。


パワーウォッシュ(力の洗浄)


 下方向へ向かって水をぶっ放す。

 落ちる身体に抵抗がかかり、少しだけ落下速度が緩やかになったように感じる。


「地面に当たらなくても少しは効果があんのか。じゃあいっちょ落下とオレの魔力の我慢くらぶええええ」


 独り言の途中。

 舌を噛みそうになるほどの衝撃がオレの身体を襲う。


 ガガガと揺れる振動の中でオレはジェット噴射が地面にあたったんだと理解した。


 あまりの衝撃にノズルから手が離れそうになるのを必死に抑える。

 多分これが普通のモノだったらとっくに手からすっ飛んでるだろう。スキルでよかったぜー!


 ジェット噴射が地面に当たって、落下の勢いは落ちたがまだまだ落下は止まらない。

 オレが落ちてく下方向の力に対して、ジェットの力が足りてないってこった。

 つまりは地面につくまでにオレが止まれなけりゃ死ぬって事だ。


 ならやる事は一つだ。

 オレは魔力をスキルに振り絞る。


「っクッソが! 止まれ! 止まれよおお!」


 注ぎ込んだ魔力の量に反応してジェットの勢いが増す。

 さらにガタガタと荒れるオレの手元。

 重力とジェットの力の間で胴体が引きちぎれそうな痛みを感じる。


 それでもまだ止まんねえ。

 真っ暗な穴の先をちくしょうと睨みつける。


 そこにうっすらと光が見えた。光の中に地面が見える。

 アレが地の底か!


「やべえ! あそこまでに止まんねえと本気で死ぬ! もっと勢いを! 勢いをよこせええ!」


 限界まで自分の魔力を振り絞る。オレは魔力の多さだけは褒められてきた。

 だからこそすげえスキルをもらえると勘違いしちまったんだけどな。

 でも今はそれが頼りだ。


 パワーウォッシュ!


 頼む! お前はすげえスキルなはずだ!

 我ながら現金だとは思うけどよ! 今はお前だけが頼りだ!


「頼むぜええええ!」


 祈るように最高出力を超えたジェット噴射を地面へと向けて。

 オレは地面を見つめた。

 目を閉じれば知らねえ間に楽に逝けるかもしんねえけどよ。

 オレは絶対に諦めねえ!


 ぼんやりと光る地面がドンドンと大きくなる。

 迫る。

 迫る迫る。


 あと少し。

 ほんの少し落ちれば地面とファーストキスができる距離で。

 噴き出すジェットと、迫る地面が一瞬、拮抗した。


「あ」


 助かった。


 そう思った瞬間。


 同時にオレの魔力も尽きた。


 タンクもノズルも露と消え。

 勢いを失ったオレは当然自由に落ちる。


「ぶべ」


 三マールほど落下して、オレのファーストキスはちゃんと地面に捧げられたよ。

続きが気になるなど、ご興味を持っていただけましたらブクマ、評価で応援いただけると嬉しいです。

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