冒険者クリア、本音で反撃。
「そのツラ、ガノウラブ過ぎて気持ち悪いんだよなー」
オレの漏れた本音に、マックは不快げに眉根を寄せた。
「私のガノウ神への崇高な愛を気持ち悪いだって?」
「あー悪い、口がすべっちまった。別にあんたがどうでもオレは気にしねえよ。好きにしてくれ」
これはオレが悪い。正直そこは好きでいいと思う。お手上げしてちゃんと謝罪する。
だからもういい加減、このテストに花丸をくれよ。
「次に言ったら殺すよ」
謝ったってのに。
まだ怒ってやがる。トップ冒険者なら心を広く持って欲しいもんだぜ。
でも朗報。
「次、言ったらって事は、今日はオレを殺さないでくれるって事か? あんたにやられてこんなにボロボロだけど合格くれるんか?」
「君は本当にバカだね。すぐ死ぬか、神が満足したら死ぬか、どっちかだよ。どうせ君は死ぬ。私に殺される」
はいやっぱダメでしたー。
「んだよ。希望を持たせるような事を言うなよ!」
「はは、勝手な君の勘違いさ」
よしよし、上機嫌にオレの時間稼ぎに乗ってきてくれてるね。
じゃあここらで一歩進めます。
「まー、じゃあよ、殺すなら殺すでよ、死に方はオレに選ばせてくれねえか?」
「ん、何かね? 少年は殺されたいスキルがあるのか? 死ぬんだからどれでも変わらないと思うけれどね。やはり君は少しおかしい人間だ。ま、聞くだけ聞こう。言ってみなさい」
お、乗ってきた。
ずっと思ってたけど、こいつ乗せられやすいんだよな。
狙い通りに乗ってくれた所で、じゃあ、そろそろ動揺を与えていきますか。
オレもバレねえように準備しなきゃだからよ。
「最期はさ、あんたの元々のスキルでやってほしんだよ。マイティクラウンなんて嘘だらけのスキルじゃなく、他人から奪った天のスキルなんかでもなく、あんたがスキル授与で授かった、ハンドインザスターでよ。そしたら素直にオレも殺されてやってもいいぜ」
ほれほれ。
あんたの正体をオレは知ってんだぜ。おどろけおののけ。
バーバラ婆さんから聞いたあんたの奥の手だ。いざとなったらオレからスキルを奪って、壁に並んでるゴッドブレスのメンバーみたいに操り人形みたいにできるってんだろ。
「まさか……バーバラがそこまで言ったのか?」
婆さんがそこまで語ると思ってなかったようだなマック。驚いた顔をしてるぜ。
あんたのスキルの正体はハンドインザスター、天の星たるスキルを他人から奪える能力だ。
現段階でこの話を聞けば、なんてすっげえスキルなんだ、と思うだろうけど、婆さんが言うにはマックがスキル授与を受けた時代は、今よりもスキルの格付けが厳密だったらしい。
ありがたがられるのは武器関連のスキル、属性魔法のスキル、そこらぐらいで、それ以外はまともなスキルと扱われていなかった。天の称号なんて認識は存在すらしなかった。スキル自体は多分あったんだろうけど、そんな意味不明なスキルで冒険者になろうとも思わなかったみてえだな。
そんな中でも無理やり冒険者になったのがマックとバーバラ婆さんだった。
驚いた事に婆さんとマックは元パーティメンバーだったらしい。
もちろん攻撃系のスキルを持たない二人はパーティとして馬鹿にされたし、まともな冒険者として扱われていなかった。なんか身につまされる話だけどよ。自分が受けた仕打ちを他人に回してんじゃねえよとオレは思うぜ。
ま、それでも初めははみ出しものの二人だけで上手いことやっていたらしい。
マックは元々鍛えていた剣技で前衛を担当し、婆さんは魔女スキルで作ったポーションでのサポートと、これまた自作の毒やら酸やらの遠隔攻撃で後衛を担当していた。
でもある日のマックの行動が、二人の世界をガラッと変えた。
結果、婆さんとマックは別れ、マックはゴッドブレスを作り出し、婆さんは急に教会から迫害を受けるようになって、仕方なく冒険者を諦め、この森で細々と暮らすようになった。
「ああ、全部聞いたよ。あんたがやった事も、そこからあんたがどう変わったかも。婆さんはあんたにそうなってほしくなかったってよ」
婆さんは悲しげに語った。
その日、マックはバーバラに絡んできたごろつき冒険者を殺してしまった。
殺した男はひどく酔っていて。
ギルド帰り、常宿に帰るマックとバーバラを狙ったように絡んできた。無能スキル持ちの割にちゃんと冒険者をしている二人組は、ギルドの中で良い意味でも悪い意味でも有名になっていて、それはバーバラの美貌やマックの端麗さも相まって、いい意味よりも嫉妬まじりの悪い意味の方が多勢ではあった。
婆さん本人が自分の美貌とか言いだした時にはどうしようかと思ったが、うっすら頬を染める婆さんからはその往年の姿が想起されて何も言えなくなっちまった。横でテラはキャアキャア言ってるし。
んで、その男は日ごろからダンジョンの中やギルドで難癖をつけてくるやつで、バーバラ婆さんに気があるのが透けて見えていた。そしてついに今日酔いに任せて裏路地でバーバラの肩を抱いてそのまま連れ去ろうとしたらしい。
当然、それを止めようとしたマックだが、男の炎をまとった拳で殴り飛ばされてしまった。
汚い裏路地の湿った地面に尻をついて、壁にもたれながら、焼けた頬を抑えるマックに。
男は手の中で火魔法で作り出した炎を転がしながら。
酒臭い息でささやく。
魔女なんて俺が焼いちまうぞ。そうだな、ヤッた後に焼ぃっちまおう。
マックの耳にも。
バーバラの耳にも。
それはしっかりと届いた。
バーバラはその時にマックが変わったのがわかったと言う。
後からマック本人に聞いたら、奪われるな、奪え奪え、と頭の中で何かが叫んでいたらしい。
ゆらりと幽鬼のように立ち上がり腰の剣を抜いて、だらりと剣先を地面に着けたまま脱力して男を睨む。そんなマックの姿を不気味に感じた男はタタラを踏んで後ずさった。
ハンドインザスター。
マックの声が裏路地をスッと流れた次の瞬間。
ごろつき冒険者の胸には剣が突き刺さっていた。
自分のスキルを恨むように、優遇されるスキルを恨むように、そんな風にできている世界を恨むように、スキルを発動させながら、マックは相手の心の臓に剣を突き立てていた。
流れるように。
剣を引き抜く。胸にあいた傷跡からは血も流れない。ゴロツキはただそのまま立っていた。動かない。でも死んでいる。心臓を貫かれて生きている人間なんていない。
死んだ男は火魔法の使い手だった。
男の胸から引き抜かれたマックの剣は炎に包まれていた。
それはなぜか。
火魔法を使っているから。
マックが火魔法を使っている。なぜかそれはバーバラから見てもわかった。もちろん使っているマックにもわかっていた。ごろつきが持っていた火魔法スキルはマックの中に移っていた。
笑いながら。
燃える剣を見つめるマックは、この日を境に変わったんだよ。
婆さんはさみしそうに言った。




