冒険者クリア、防戦一方。
「じゃあ行こうか。マイティクラウン」
そう言って。
そこからマックは信じられない数のスキルを発動させていく。
「バービーボディ、ボルトスピード、ロードハンド、ゴールデンアイ、ウォールシティ、クラックアース…………」
身体強化に速度強化、器用強化に視力強化防御強化攻撃力強化強化強化強化、まだまだ続く。どんだけ続くんだよ! てかさあ、どんなスキルが発動すんのか聞いてんだけど、もしかして今の内に攻撃しといた方がいい感じ? もしかしなくても攻撃しといた方がいいんだよな。
やべえやべえ。オレごときが敵の強化待ちとかする立場じゃねえよな。
よっしゃ、軽くジャンプ!
「ダブルノズル! からのダブルジェット!!」
その宙に浮いた状態から、両手にノズルを発生させて、ダブルジェット噴射で一気にマックへひとっ飛び。
「おら! 喰らえ! ジェットロケットダブルジェットキーック!」
ジェットを維持したままに両足でマックの顔へと蹴りを放つ。
ケルベルスウの三人娘なら壁まですっ飛んでくオレの体技だ。
そんなオレの蹴りは確かにマックの顔に当たった。
そしてその場で止まった。
「は?」
ジェットは依然として吹き出している。
でもオレは横むきで蹴りを放った姿勢のまま、宙に浮いたまま止まってる。
マックもおんなじようにその場から一メリも動いていない。
そんな事ある? ジェットどうした?
「どういう事?」
オレの両足の隙間からこっちを見ているマックのギラりとした目に問いかけた。
てか、目と顔こわ。怒ってる? そりゃ顔面蹴られたら怒るか。
「こういう事だよ、ハウリングハウル」
言葉と同時にマックの身体から衝撃波が迸る。
ダブルジェットの推進力を殺し、それはオレの身体を吹き飛ばした。
「ぐは」
放物線を描いて飛ばされたオレはドンっと落ちてゴロン床に転がる。
「痛ってえ」
すげえ痛えけどよ、でも横向きになった状態だったのはラッキーだったかもしれん。
だってよ足の裏に食らった衝撃だけで広間の中央から壁際くらいまで飛ばされてんだぜ。身体の正面に食らってたら内臓やられてたんじゃねえか?
てか、こういう事さってどういう事さ!
即座にオレは立ち上がって戦闘体制をとる。
追いうちがくるぜ!
「グラインドダイヤ」
案の定のマックの声と同時に、オレの足元から回天する風が湧き立つ。
その風の中には触れるだけで肉を裂き、骨を断ちそうな、美しい宝石があった。
それはすでにオレの片足を包んでいる。
気づいて足を動かそうとしたけど、風に足を取られてまったく動かねえ。
「やっべえ!」
このままじゃ脚の一本が持ってかれちまう。
「ジェット!」
ノズルを地面に向けて水流を噴射する。
どこでもいいからここじゃない場所へすっ飛んでいけ。そんな目論見通りにオレの身体は中空に浮き上がる。足にはすでに宝石に切り付けられた傷が刻まれていてひどく痛んだ。
着地先を探して視線を泳がせる。
「フォールガイズ」
そこへまたマックの言葉。
今度は何もないダンジョンの中に空が現出する。
それはジェットで上に逃げたちょうど真上で、それをオレは見上げた。
「は? おそらきれい?」
突然現れた青空に呆けてると、そんな青空からオレの頭へキラキラした慈悲が降り注ぐ。
ジュウ。
一粒の慈悲がオレの腕に落ちて皮膚を灼いた。
「イッテエエ」
雲一つない青空から降り注ぐのは強酸性の雨だった。
ダンジョンは大雨ってか!? このままじゃ身体灼かれて溶かされて終わっちまう。
「パラソル!」
酸の雨を防ごうとノズルを天に向けて放射状にジェット水流を噴射して水の傘を作った。
その瞬間にオレの上だけ大雨が降り注ぐ。
あっぶねえ。傘出してなかったらドロドロに溶かされてスライム以下の存在になってちまうとこだった。
酸の雨は通り雨ですぐに止んだ。ジェットを傘にしたオレも宙に浮いたままとはいかず、そのまま下に落ちていく。酸の雨は避けられたけど、このまま地面に行けばさっきの回天する宝石に身体を切り刻まれちまう。
なら、ジェットを横向きに出して落下位置を変えようぜ。
「ジェッと……」
そんなオレの意思に従って、手の中のノズルからジェット水流が噴出しようとしたタイミングで。
マックの声がそれをかき消した。
「ボルトチェイン」
「ガアアア」
全身が痺れる。
この感覚には覚えがある。
オレはこれを知ってる。
トーイのスキルだ。
痺れて固まった身体で落下しながら。
ダンジョンの壁際をチラリと見る。
トーイはさっき見た時からピクリとも動いてねえ。これだけ派手な戦闘が行われてるってのに。憧れてたマックが惜しみなくスキルを使ってるってのに。目には光がなく、身体は弛緩して、これじゃあまるで……よう。
「ぎゃあああ」
戦闘中に関係ない事を考えてるオレを罰するみてえにオレの身体は落下地点にあった回天する宝石に切り刻まれる。幸いな事にスキルの有効時間が終わりだったらしく、オレの全身を切り刻んで風と宝石は消えた。
これでなんとか重傷で済んだ。
セーフ。
なんてふざけてる場合じゃねえ。
体勢を整えねえと!
ボルトチェインで痺れた身体はグラインドダイヤを受けたからか、はたまた一回受けて耐性ができてるのか知れねえがなんとか動く。
オレは傷だらけでいたる所が痛む体を無理やり起こした。傷だらけだからなのか、電撃で痺れてんのか、どっちかわかんねえけど、立ち上がれねえ。
それでもなんとか立膝になって、すぐ動ける体勢を装いながら、マックを睨みつける。
対するマックには表情はない。
淡々と。
ただ淡々と。
オレを殺そうとしている。
腰の剣はもう使う気がなさそうだ。距離をとってただただスキルで蹂躙していくつもりなんだろうぜ。
予想通り、何かのスキルを発動するべく。
マックの手のひらがオレの方を向いた。
やべえ、このままやられたら避けられん。無防備でスキル食らったらぜってえ死ぬ。
時間を稼げ、オレ。
「なあ、トーイは死んでるんか?」
オレの言葉に、マックは手のひらをだらりと下げた。
「死んでる? そんなわけないだろう。君と違って彼は大事なパーティメンバーだぞ」
「あれで生きてるってのか?」
あごで壁際のトーイちゃんを示す。
話の渦中にいるってのにまったく動かねえ。視線すら動かねえ。石もよけねえ。
それは生きてるって言うのか?
「ああ、もちろん生きているさ。神の意思で形は変わっているけどね」
マックの顔に表情が戻る。
うげ、またその顔かよ。
どこまでも幸福そうで。
どこまでもからっぽだぜ。
「そのツラ、ガノウラブ過ぎて気持ち悪いんだよなー」
あ、やべ、つい本音が出ちまった。




