冒険者クリア、試験開始!
「うわっぶねえ!」
首に迫る剣戟をバックステップでかわす。
余裕をもってかわしたつもりが、思ったよりも剣先が伸びてきて首の皮を少し切られた。
痒みのような痛みを親指で撫でると指の腹が赤く染まる。
うげ、死ぬって。この動き、ケルより早えんじゃねえか。
「ふむ、これを避けるのか」
マックは一人で呟きながら手元で軽く剣を振っている。
避けられたのが意外だったらしい。
「お、オレってば天下のマックさんに褒められてるっすか?」
おどけながらも、スキルで高圧水流を放出して、水の剣を作り出し、迎撃の準備をする。
吹き出した水がレイピアみたいな形に変化。
オレはそれを軽く手元で振ってみる。うん、ばっちり形になってる。
「ああ、褒めているよ。初めは分をわきまえない君にムカついて、いつものように見せしめにしてやろうと思っただけだった。でも君はそこから生き残った。その段階では驚いただけだったけれどね。教会から殺しそこなった君を殺すように言われたんだ。その時には君みたいな雑魚に執着する教会がひどく不思議だったけどね。こうやってダンジョン最下層まで来られている事を考えると、教会の判断は正しかったようだね」
そう言い終わったマックの姿が。
ゆらり。動いて。
その場から消えた。
その次の瞬間にはまた剣がオレに迫ってる。
だから! どんな仕掛けだよ!
今度は上段。避けなきゃ頭から唐竹割だ。
避けるだけなら色々あんだろうけどよ。でも避けるだけじゃ芸がねえ。
今度は避けず、逆に前へ出て距離を詰める。
マックさんよ、上段に剣を振りかぶってから喉元がガラ空きだぜ。そこをめがけオレは一歩踏み込んで距離を詰め、レイピアの剣先を喉元へ置きに行く。お互いの勢いがあればオレの水剣で簡単に喉元を貫ける。
これをたかが水だと思ってると死ぬぜ。
剣先がマックの喉元に届くまであと数メリで届く所で。
「残念、ハズレだ」
マックの声が背後から聞こえた。
と、同時に目の前の立ち姿が陽炎のように揺らいだ。
そのままオレの剣先はマックの喉元に突き刺さったけれど、しかし目の前のマックはマボロシと消えた。
直後!
オレの背中にすっげえ悪寒が奔る。
やべえこのままじゃ死ぬぜ!
そう本能が叫んでる。
「ジェット!」
すかさず。
手に持ったノズルを左下の地面に向けてジェット水流を噴出させて横へと逃げる。
勢いに任せながらゴロリと転がって、身体二つ分横にずれた。
さっきまでオレがいた所には振り下ろされた剣先が地を抉って、小さなクレーターみたいになってるぜ。
「セーフ!」
言いながら、剣の主人たるマックを見てみれば、剣を振り下ろした後の一瞬の隙がそこにできてる。
しゃあ! ピンチはチャンス!
ノズルをクルンと持ち変え、噴出口を背後に向けて、ジェットを噴出させると、その勢いでマックへと一気に距離を詰めた。そしてそのまま開いた脇腹に魔力を込めた拳を叩き込んだるぜ。
オラよっ!
ガイン。
インパクトの瞬間に硬質な音が響く。
マックはオレのパンチの衝撃で三マールほど飛ばされて、その場で少し驚いてるように見える。
うし、やったぜ。
でもでもでもでも。
「でも! 痛ったああ!」
鎧に打ち込んだ拳が痛え。
そりゃそうだよな。ひらひらした羽織物をつけてっから見えなかったけどよ、ゴールド級冒険者が鎧をつけてねえわけがねえ。しっかし魔力でガードしててもこんなに痛えって、どんな高級防具つけてんだよ。
ぜってえノーダメじゃんかよ! ちくしょう! ちゃんと最初にこんなかっこいい防具つけてます、これ強いんだよー。って言っといてくれよ。すげえ防具自慢しろよ。オレならするぞ!
そんな馬鹿みたいな愚痴を叫びながら、拳をブンブンと振って、その痛みをなんとか誤魔化す。
「はは、戦闘中だってのによく喋るじゃないか。ここまでは余裕かい?」
オレの拳で身体を宙に浮かされて飛ばされたマックが無表情で問いかけてくる。
くく、ダメージはねえけど、悔しんだろ? ざまあ。
「もちろん余裕だよ。だからさっさとテスト合格にしてくれていいんだぜ?」
てか合格にしてくれ。
ほんとはさっきからヒヤヒヤしてんだ。
今はマック一人とやり合ってっけど、壁ぎわで控えてるパーティメンバーが出てきた日にゃ、オレ死んじゃう。
「ああ、合格だな」
「え? まじ? いいの?」
こりもせずに甘い言葉に期待しちゃう。
「ああ、一次テストは合格だ。次はちゃんとマイティクラウンを使った二次試験だよ」
「もー! 合格じゃねえじゃんかよお! 嘘つくなよ!」
ですよねー。
あーまた騙されたああ!
てか、ここまででスキル使ってなかったのかよ!?
あの消える剣技とかスキルじゃねえって事? マック、やばくね? んで、オレ、やばくね?
「ああ、そうだよ。さっきも言ったがね、君は絶対に合格にはならないんだよ」
「もーマジでしつけーよ」




