清掃員クリア、ゴッドブレスに仲間入り。
「子供、どういうつもりだ?」
人気のない路地で『ゴッドブレス』のリーダー、マックがピタリと足を止めて言った。
オレは身を隠そうとしたけれどあいにく一本道で身を隠す場所なんてなかった。
誘い込まれたんだな。
そう理解したオレは大人しくマックの前にその姿を晒した。
「すんません」
オレはしおらしく跡をつけた事を謝る。こういう時は素直に謝った方が被害が少ねえのをオレは知ってる。
「私はどういう事かと聞いているんだが? ファンならちゃんと対応しようと思ったが、君の気配はファンのそれとは違ってネットリしていたからね」
そこまでわかんのかよ。
「すんません。オレ、マックさんのパーティで使って欲しくって跡をつけてたっす」
「なぜギルドでそれを言わなかった? 君はギルドにいただろう?」
は?
あれだけ人に囲まれた状態で端の方にいたオレまで見てたのか?
きっしょ。
「あ、あの、人が一杯だったので、あの時に行っても意味なかったっすから……」
オレは正直に答える。
「ふむ、それは正解だな。して君のスキルは?」
「……」
答えたくねえ。
なんだよ。パワーウォッシュって。それで使ってもらえる訳ねえじゃねえか。
「リーダー。その子、天の称号じゃないよ。『パワーウォッシュ』だって」
横から一人の女性がマックに言う。
余計な事を言いやがって、そう思って睨みつけた女のその目は金色に光っていた。
「ありがとう、ウーピー。君のゴールデンアイはなんでもお見通しだな」
言われたウーピーとかいう女は頬を染める。
同時にその目の色は金色から灰色に戻っていた。
「すまないが、私たち『ゴッドブレス』は天の称号を持ったスキルの人間しか加入できないんだ」
「はい! それはわかってます! でもオレは雑用でも何でも出来るっす。十年間、ギルドで雑用してきました。だから荷物持ちでもパシリでも何でもします! オレを使ってください、お願いします!」
必死で地面に頭を擦りつけた。
きっとこんな事しても無駄なんだろう。
でもオレはクソみてえな生活から抜け出してえ、金を稼ぎてえ、ちゃんと生活してえ。
できる事はなんでもしてやんよ。
次は靴でも舐めて綺麗にしてやるぜ。
「うん、じゃあ、いいよ」
「へ?」
意外な返答にオレは間抜けな声で顔を上げた。
「聞こえなかった? いいよ、使ってあげる」
聞こえた。
だからこそ信じらんねえ。
オレは『ゴッドブレス』の他のメンツの顔色を確認する。
ウーピーと呼ばれた女、マックにも劣らぬほどに美男子の優男、ガタイが良くいかにもタンクなゴリラ男、目が開いてんだかわからん糸目の神官服の女、誰一人文句を言う事はない。
「本当ですか!?」
「ああ、ちょうど明日ダンジョンアタックに行くから、朝の八時にプルガダンジョンの入り口に来てくれ。あ、プルガダンジョン、わかるかい?」
このダンジョン都市、ガルグには東西南北にそれぞれダンジョンがある。
プルガは西にある奴で、低層は比較的難易度が低い奴だったはずだ。ただ深層には何かが眠ってるってんでトップ層の冒険者が宝目当てで潜ってるって話だ。
「え、は、はい! 西門から出てしばらく行ったとこっすよね?」
「ああ、そうだ。じゃあよろしく」
「あ! 用意とかは!?」
「こっちで全部用意してあるからいらないよ。じゃあね」
そう言うと、マックを先頭に『ゴッドブレス』は後ろを振り返る事なく消えていた。
オレはこれが現実かどうかわかんなくて、とりあえず壁を殴ったけどすんげえ痛くて涙が出たわ。
◇
「お前、なんでこんなとこにいんだよ?」
見知った顔の少年が『ゴッドブレス』のメンツの中からオレを侮蔑した顔で見ている。
コイツはオレがお布施のお願いに出向く小金持ちの商人の家の息子だ。
どうやらこないだのスキル授与で大当たりを引いたのはコイツで、しかもそれが天の称号持ちのスキルだったらしく、ゴッドブレスにスカウトされたらしい。
「マックさんに頼み込んで荷物持ちで入れてもらった」
オレは面倒にならないように感情を殺して事実だけを端的に伝える。
リーダーのマックさんの名前を聞いた少年は、途端にオレに興味を失ったようで、フーンと鼻を鳴らして会話を流した。
「さて」
芯の通った強い声。
リーダーのマックさんだ。
一瞬で全員の目と耳がそちらに向かう。
そんな声だった。
「今日は新メンバーが二人いる。トーイ君と、えっと……」
オレの名前で詰まる。
「クリアっす」
大丈夫だ。
こっから覚えて貰えばいいだけだから。
「そう、クリア君だ。彼は ポーターとして加入してもらった。我ら冒険者は雑用嫌いとして有名だからな。存分に助けてもらえると思う」
メンバーの何人かから笑いがもれる。
目標とは違ったけど。
これはこれでオレがずっと積んできた経験だ。
出来る事をやるんだ。
「じゃあここプルガダンジョンでまずは新規メンバーとの連携の慣らしと行こうか」
その一言で。
全員の気が引き締まるのを感じた。
もちろん、オレもだ。