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冒険者クリア、元凶に直談判。

 沈黙を破ったのは一人の男の声だった。


「おや、そこにいるのはダンジョンに怯えて逃げ帰ったポーターくんじゃないか。うんうん、命だけは無事なようで良かったよ」


 ギルドの入り口から嘲笑混じりに放たれたその声は、ギルドの中を広く拡散しながら、同時にすっと中央を通り抜けて、オレとテラの座っているカウンターまで届いた。

 その声に振り向いて見てみれば、差し込む朝日を後光のようにして立つ、ゴールド級パーティ『ゴッドブレス(神の祝福)』のリーダーであり、ゴールド冒険者、『マイティークラウン(天与万能)』のマックだった。

 ギルドの中に入ってきたマックはオレとテラが座るカウンターに向かってくる。


 カツンカツンと。

 足音をギルドの中に響かせる。その音に誰もが注意を惹きつけられ。その姿に誰もがため息をこぼす。

 天から与えられたかのようなカリスマ性。

 クソが、背負ってんじゃねえよ。ただの人殺しのくせによ。だけどそんな感情を表に出しちまったらこの場でやられちまう。相手はもうすぐ貴族になろうって輩だ。やってる事は正しくヤカラなのに、貴族だってよ。


 マックが、オレとテラの前に立った。

 でかい筋肉と、それを包む一流の防具、腰にぶら下がっているのは鞘に入ったままでも切れそうな迫力の剣。どれをとっても威圧的で、笑顔でオレを見下す視線にはオレだけにわかる程度の殺気がこもっていた。

 その殺気に反応して腰を浮かせたテラを止めるようにオレは手を引いた。瞬間、こっちを見たテラの視線に、オレが視線だけで答えると、意思を理解したようにテラは腰を椅子に落とした。


「うまくプルガダンジョンから逃げ出せたようだね、えっと……」


 名前、まだ覚えてねえのかよ。てめえが殺した相手の名前くらい覚えとけよ。


「あ、クリアっす」


「そうそう、クリアくんね。いやーびっくりしたよ。戦闘中にいきなり逃げ出すなんてね」


 しゃーしゃーとよく言うぜ。

 逃げ出したんじゃなくて、お前らに突き落とされたんだけどな。

 とはいえ、まあ、マックがオレの証言に乗っかってきてるのは、オレの狙いが思った通りに進んでる証拠でもあるから、ムカつくけど、まあ悪い話じゃねえ。


「はい、あん時はすんませんっす。身の程を知ったっす。オレのような生活系スキル持ちには、偉大なるゴッドブレスのダンジョンアタックにはついていけなかったっす。やっぱゴッドブレスの戦闘には天の称号持ちじゃないと無理っす! いやこれマジっすよ!」


 オレはあえてギルド中に響くような大声でマックに謝罪する。

 ここでマックの罪を徒に暴いた所で全く意味がない。かたや生活スキル、捨て子、ルーキー冒険者のオレ。かたや天の称号の中でも最高ランクのスキル、もうすぐ貴族にもなろうかって身分、ゴールドランク冒険者のマック。どっちの主張が通るかなんて試してみるまでもないぜ。

 だったらオレが取れる手はこれしかねえ。


「……ああ、よく、わかってるじゃないか?」


 どう言う意図だと、マックの目がオレに問いかける。


「うっす。あざっす。いやーやっぱゴッドブレスの皆さんはすげえっすわ。オレなんて地面を這ってダンジョンの中から抜け出すのが精一杯でした。ほんと身の丈に合わせるって大事っすね。これからは底辺の冒険者として慎ましく生きてくんで。こないだの事はどうか許してください! オレみてえなヤツがゴッドブレスに入れないって生き証人になるっすよ」


 オレは言外に意図を伝えた。

 おめえはパーティの加入申請がめんどくさくて嫌だからオレを殺すって言ってたな。目的通りにオレが死ねば楽だったかも知れねえけどよ。残念、オレは生き残っちまった。そして簡単に殺されてやる予定もねえ。

 でもきっとお前は合法的にオレを殺すかなんかしたくて仕事を受けさせなくしたんだよな。仕事がなけりゃ飯が食えなくて餓死するか、犯罪に手を染めたら合法的に死刑にできるもんな。

 お貴族様になろうってやつはスマートでいいやな。

 でもオレも素直にその狙いに乗ってやるわけにはいかねえのよ。だからよう、オレがこうやってしっかりとゴッドブレスの強さを理解した風にアピールしてやりゃあ、とりあえずお前の目的は達成だろ?


 そこをちゃんと宣伝してやっから、オレに関しては見逃してくれ。

 てめえらのめんどくさいはオレがちゃんと解決するからよ。


 そんな視線をマックに返す。


「ふむ。どうやら本当に理解して反省しているようだね。私たちゴッドブレスには天のスキル持ちしかついてこれないのだよ。君がそれを理解してくれただけでもよかった。この場の皆も我々に憧れるのはわかるが! だがしかしだ! 彼のいう通り、私たちについてくるのは無理なんだ。みんなすまないな! その分、我らゴッドブレスはダンジョンの下層からこの街に富をもたらそうじゃないか!」


 そう言って手を挙げたマックの姿に、朝イチでギルドにいた冒険者たちは歓声をあげた。

 みんなしっかり騙されてやがんな。でもオッケー。マックにオレの意図が伝わったのか、しっかり乗っかってきやがった。これでオレを殺す理由は無くなっただろ?

 それにしても、最初のオレの嘘にもバッチリ乗っかってくるし、今回もだし、マジで調子の良いヤツだな。


「さすがマックさんっす。オレは身の程をちゃんと理解したっす!」


 だからさっさと受注禁止を解除しろや。クソが。

 そんなオレの視線を受けて、マックは一つうなずいて笑った。


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