冒険者クリア、干される。
「クリアくん、ごめん!」
ギルドに着いて、受付カウンターに行くと、受付嬢のライラさんにまず一番に謝罪された。
オレとテラは謝罪の意味がわからず、顔を見合わせてから、とりあえずカウンターの椅子に座って、ライラさんにその謝罪の意味を聞く事にした。
「ライラさん、いきなりどうしたんっすか?」
「理由もなく急に謝られてもびっくりしますよー」
オレとテラの軽い調子の言葉にも、ライラさんの曇った表情は晴れる事はない。てことはだいぶシリアスでだいぶ困った事がオレたちに起こっている。という事だろう。それを察してオレもテラも、真面目な顔でライラさんを見つめる。少しの間をあけてからライラさんは言葉を発した。
「……実は」
と、ライラさんが語った内容はマジで実に困った話だった。
簡単に言っちまえばオレはギルドから冒険者の仕事を受ける事ができない状態になっているらしい。なんで一晩でそんな事になっちまったかといやあ、他でもねえ、ゴッドブレスの仕業だ。
「昨夜、ダンジョンから戻ったゴッドブレスのマックさんがね、クリアくんがプルガダンジョンから戻った話を酒場で聞いたらしいの。その内容がプルガダンジョンから奇跡的に生存して冒険者になった英雄譚みたいだったらしくてね。そうしたらマックさんはクリアくんの事を戦闘中に逃げ出すような人間だって言って、そんな人間に仕事を受注させないようってギルドに対して申し入れてきたのよ」
「え、マジっすか?」
それは困る。余計な刺激をしないようにあいつらがオレを穴に落とした事を言わずにオレが全部悪いって事にしたのに。そうすれば大好きなこの街で細々とでも冒険者で生きていけるって思ってたのに。
それもダメだってのかよ。オレは冒険者として生きてけねえって事なのかよ。
顔からさあっと熱が下に落ちていく。血の気が下がるってのはこの事なんだな。
思わず呆然としてしまったオレ。そんなオレの手をカウンターの下でぎゅっと握ってくる手があった。テラの手だ。柔らかくて力強くていい匂いのする手。その熱が手から伝わって、少しだけ元気になってきた。
「それをギルドは馬鹿正直に受け入れたっていうんですか?」
横からテラがライラさんに問いかける。
「いいえ、もちろん、はじめは無理だと言ったわ。でも彼らはクリアくんに正式にポーターとしての任務を依頼した、その依頼に失敗したのだからペナルティはなければならないと言い出したのよ」
「依頼、失敗のペナルティ?」
そんなのあるの? とテラがオレに問いかける。
「ああ、ある、事はあるな」
新人冒険者が無理な依頼を受けたり、金に困った奴が無茶をしないようにする抑止力として、依頼に失敗したらペナルティがあるようになっている。それは依頼のランクに応じて厳しくなっていく。
「ゴッドブレスはゴールドクラスのマックさんが率いるパーティ、パーティ自体もゴールドランクよ。そこからの依頼を失敗したと言われてしまうと、確かに依頼の受注禁止もそこまで筋の通らない話じゃなくってね。ボルドさんが申し入れを受けてしまったの」
ライラさんの言葉に、オレの手を握るテラの手に力がこもる。
いて、いててて。
「やっぱりやっとけばよかったわね」
なんて不穏な事を呟いてるしよ。その対象がギルド長のボルドなのか、ゴッドブレスのマックなのか。わかんねえけど、テラならやりかねないし、ダンジョンであればやろうと思えばきっと簡単にやれんだろう。
「それってどうにかならないんっすか?」
「そうですよ! 理不尽じゃないですか!」
オレとテラの猛抗議にライラさんは申し訳なさそうに眉根を寄せるだけだった。明らかに困ってる。そうだよな、ライラさんに言ってもどうしようもないない、ライラさんは決まった事を伝えているだけだ。
それはオレもテラもわかってる。だからこれ以上ライラさんに何も言えなかった。
だからといってここで、はいそうですか、と引き下がる事もできず、オレたちは席を立つ事もできない。
朝一番のギルドの喧騒の中だというのに、三人の間にはどうにも気まずい沈黙が流れた。




