清掃員クリア、クソスキルを授かる。
今日はオレが待ちに待ったスキル授与の儀式の日だ。
いつもは神父がもごもごと説教を語る場所に。
いつもとは違う一人の偉そうな男が立って。
いつもは教会にいないような人間がそこへと列を作っている。
そしてオレはその列の一番後方について並んでいる。
本当は朝イチから先頭に並びたかったんだけどな、でも教会に生かされている孤児のオレは最後尾だと神父に言われた。いいさ。ずっと待ってたんだ。これくらい待てる大丈夫だ。
「……ついに来た。ついに来たんだよな」
オレは銀貨を両手に握りしめて列に並ぶ。
キツく握りすぎて爪が青く変色してるぜ。
一人の儀式が終わるたびに一歩進む。
一人の儀式が終わるたびに歓喜、落胆、安堵、悲鳴、色々な声がする。
大丈夫だ。
オレは絶対に攻撃系のスキルをもらって冒険者になれる。
絶対だ。大丈夫だ。大丈夫大丈夫。
まるでお守りのように銀貨を握りしめて胸に当てて祈る。
毎日の説教中だってこんなに必死に神に祈った事なんてないのに。
列の真ん中に来た辺りで歓声が響いた。
誰かが大当たりスキルを引いたらしい。
んなのはオレには関係ねえ。
早く。早くオレの番が来れば良いんだよ。さっさとしてくれねえとオレの手の中の銀貨が銀玉になっちまう。まあ、待ってりゃそりゃ順番がくるんだけどよ。でも早くしろよ。
ってそんな願いが届いたのか、オレの順番がやってきた。
ここの神父よりも偉いんだろう神官がくっせえオレを見て眉を顰めて片手で鼻をつまんだ。仕方ねえだろうがここにゃ風呂なんてねえし川までは遠いんだよ。
「ガノウ神からの恵みを授けよう」
鼻をつまんでるからかなんかフガフガ言ってるけどスキル授与の言葉だ。
「そなたのスキルは『パワーウォッシュ』だ」
「は?」
オレの口からは間抜けな声しか出なかった。
訳のわかんねえスキルを聞いて、オレがあっけに取られてるうちに、神官はさっさと消えていた。何せオレが最後のスキル授与者だったからな。しかもオレはくっせえし。さっさと帰りたかったんだろ?
そっからあんま覚えてねえ。
とりあえずオレはいつものように冒険者ギルドに行ってたみてえだ。
帰巣本能なのか、それともずっとそうしようと思ってたからなのか。
ここが大失敗だったんだよな。
◇
「おい、お前火魔法か、俺らのパーティに入れ!」
「俺は剣豪だ! スカウトしたいパーティは声を上げろ!」
「おーい、姉ちゃん。あんた緑魔法だろう? 俺らのパーティに入れてやんよ」
希望と熱量と欲望がごった返しになって。
冒険者ギルドの中は新人冒険者の売り込みとスカウトの声で溢れかえっている。
十年間、毎年見てきた。オレもその輪の中にいるはずだった。
現実は蚊帳の外だ。
『パワーウォッシュ』
なんだよこれ、明らかに生活系スキルじゃねえか。
オレが十年間掃除ばっかりしてきた事へのあてつけか?
バカにしやがって!
だがよ。
それでもまだチャンスはあるんじゃねえかとオレは思ってたんだよな。
こんだけパーティがいればオレのスキルだって使ってくれるとこだってあるかも知んねえだろ?
もう銀貨一枚で一日中こき使われる生活に戻るなんて考えられねえよ。
そう思ってオレは端の方で小さくなりながら様子を伺っていた。
喧騒の中で際立って目立つパーティがある。
数あるパーティの中でオレはそこに目をつけた。
それはオレの憧れのパーティ、『ゴッドブレス』だ。
彼らはダンジョンアタックの最前線を行くトップパーティ。この冒険者ギルドにくる時にはいつも見た事のない魔物を持ち込んでくる。
このパーティはメンバーの一人一人が天の称号が付いた強力なスキルを持っているんだけど。
リーダーであるマックのスキル『マイティークラウン』が一番すげえ。名前の通り全てが天から与えられていて、その全てが初期からマスタークラスな上に成長上限なしっていう。
冗談みてえだろ?
オレもあれになるんだと思ってたんだよな。
どうやらあのパーティには今日のスキル付与で天の称号付きのスキルを得たヤツが加入したらしい。
他にも有象無象が自分を売り込むために群がってるけど相手にされてねえ。
あそこに混じったらダメだな。売り込むなら後だ。
そう思って様子を伺ってるともうめぼしい人間はいねえと判断したのか『ゴッドブレス』が冒険者ギルドから出ていった。
オレはこっそりとその跡をつけた。