冒険者クリア、女心がわからない。
「もークリアったらサイテーなんだから!」
冒険者ギルドに向かう道の間に何度このセリフを聞いただろうか。
でも言われてもしゃーない。オレは確かにサイテーな事をしたんだ。眠る女子の部屋に事故とはいえ泊まっちまった。他人から見たら言い逃れができねえ。実際、部屋から二人で出て行った時のミー姉さんの顔は直視にできんかったぜ。
すれ違いざまに、
「狼の部屋から本物の狼が出てきたわ。ねえ、クリアくん?」
とか言われた時にはもうどうしようもなかった。
「本当にすまんかったって。これからはテラの部屋で寝ねえように気をつけるから、いい加減許してくれよ」
「違う! そこじゃないのよ! クリアは本当に女心を分かってないんだから!」
「えー」
そう言って、オレはくちびるを尖らせる。
わかんねえよー。女心なんてー。こちとらついこの間までパン一つ手に入れるにも苦労してたんだぜ。女子の気持ちを考えてる余裕なんてなかったんだよ。
「えー、じゃないのよ? ね、クリア? 女子はあのシチュエーションなら優しく起こされたいのよ? 誰が地べたにゴキブリみたいに這いつくばって謝罪してなさいなんて言ったの?」
テラは起こりながらもクルクルと舞うようにギルドに向かって進んでいく。
動きだけ見りゃ上機嫌にも見えんだけどなー。怒りながら上機嫌って。女子はよくわかんねえや。
「いやーだってよー、あんだけ泊まれねえとか何とか言っといて、泊まっちまった挙句、起きてみりゃテラにヘッドロックされてたんだぜ? そりゃ土下座にもなるって」
オレの言葉にさっきまで上機嫌そうだったテラの表情がグルンと変わった。可愛らしくプリプリと怒っていた表情が、一転して、まさに驚愕という言葉が相応しい表情へと。
足を止めて、その場でギギギと音のしそうな首の動きだけでオレの方を向いて問いかけてくる。
「……ヘッドロック? ヘッドロックねー……へー。ねえ、クリア? それは私がクリアにしてたの?」
「おう、微動だにできなかったぜ。さすがテラだな! 強えわ!」
普通の可愛い女子の見た目であのパワーは憧れるぜ。
グッドサインでテラの問いに答えるオレ。
「あ、あああ、あぎゃあ! ああああ、やっぱり! アレ、夢じゃなかったの!?」
「お、おう? ヘッドロックなら夢じゃねえよ」
「ばか! クリアのばか! あれはヘッドロックじゃないわよ!」
「え? 無断で泊まっちまったオレに対する攻撃じゃなかったんか?」
「違うわよ! なんで女子が男子にヘッドロックを決めるのよ!」
「じゃあ、アレはなんだったんだよ?」
「なんだった……って? え?」
いきなりテラは虚を突かれた顔になる。
「ヘッドロックじゃないんだろ? てっきり不埒なオレにヘッドロック決められたから、幸せって言ってんだと思ってたんだけどよ」
「は! そこまで聞いてたの!? クリア良くない! ほんっとーに良くないわよ! もー! ヘッドロックかどうかは自分で考えなさい! 女子の気持ちは男子がちゃんと察するの!」
「えー」
それっきりプンと怒ってテラはオレの方を見ないでまっすぐにギルドの方へと駆けて行った。
こんな事なら女子の気持ちを察するスキルをもらった方が良かったかも知れねえな、なんてバカな事を考えながら、オレはその後ろ姿を追いかけた。




