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冒険者クリア、馬子にも衣裳。

「おー似合ってんじゃねえか! さすが俺の見立てだな! サイズも微調整で良さそうだ」


 おお。

 やっべ、これはちょっと声にならんね。

 ギルドカードをもらった時もアレだったけど。見た時は地味だと思ってたけど、実際に身につけてみるとすげえや。なんていうか冒険者になったって実感が湧き上がってくるぜ。

 手には指ぬきタイプの小手、手をグッパと動かしてみると、皮がよく馴染んでいて違和感がない。胸当てや腹巻きも同じ、肩をぐるぐる、腰をぐるぐる回してみても、動きをなにも邪魔しない。

 すっげえ! アルゴスの親父! さすが武器防具屋だぜ!

 テラの方はどうかと見てみると、あっちはどうやら割と本格的な革鎧だったらしく胴体をすっぽりと覆って脇を金具で留めている。胴体から下半身を守るような前掛けみたいのまで垂れててすげえ豪華だ。

 ……なんかあっちのがよくない?


「どう? 似合ってる?」


 オレの視線を感じたのか、テラがはにかみながらオレに問いかけてきた。

 いや、なにその顔、卑怯。可愛すぎてそっちが羨ましいとか言えなくなっちまった。


「うん、かわいい」


 まじで可愛いは正義を体現してるぜ。


「ばか! そんな事聞いてないわよ! 防具としてどうかって聞いてんの!」


 そう言って膨れるその表情もまた可愛いんだよな。


「ごめんごめん、すげえ似合ってるぜ。正直テラの着てるやつの方がかっこいいなと思ってた」


「ふふ、ありがと、でもクリアの着てるのもすごく似合ってるわよ。かっこいい。どこから見ても冒険者よ」


「マジ? そっかー、テラに言われると確かにこっちもすげえいい気がしてきたぜ」


 オレとテラは見合ってむふふと笑いあった。


「あーお二人さん、そういうんは家に帰ってからやってくれっか? 店の中の温度があがっちまう」


 横から挟まれたアルゴス親父の言葉に。

 急にオレとテラは気恥ずかしくなってしまった。


「ば、そういうんってなんだよ! そういうんじゃねえよ!」


「そ、そうよ。まだ出会って二日なんだから!」


 オレとテラはほぼ同時に大声で否定する。


「ガハハ、そうムキになんなよ。からかっただけじゃねえか。ま、お二人さんはお似合いだぜ、二人でパーティを組むんだろ? 仲良くやんな。ところで、小僧、大事な事忘れてたんだが、おめえ金はあんのか?」


 からかってきたかと思えば、急に現実に引き戻してくるアルゴス親父の言葉にオレはニヤリと笑った。

 確かにアルゴスの親父の心配は当然だ。いくら冒険者になったとはいえ、ついこないだまで孤児だったガキが中古とはいえこんな立派な防具を買えるだけの金を持っているとは考えにくい。

 でもなオレは違うんだぜえ。

 ふところから革袋を取り出して、店のカウンターに置く。確かな重みと金属のこすれる高い音が鳴った。


「おお、すげえな。その金、どうした? こう言っちゃ悪いがよ、犯罪の金はうちじゃあ使えんぜ?」


 金貨の輝きを見て、アルゴスの顔が一気に曇る。

 ま、そりゃそうだよな。昨日までパン一つ買うにも苦労してたガキがこんな大金持ってきたらそうもなる。


「安心しろよ、この金は……」


 オレは冒険者ギルドでの顛末をアルゴス親父に伝えた。

 心配ならギルド長のボルドに確認してもらってもいいとも。


「おー、おめえ……そっか、よかったな……頑張ってたもんな」


 アルゴス親父はオレの話を聞いて、目を赤らめ、鼻を鳴らして、言葉に詰まっている。

 そう言ってもらえんのはすげえ嬉しいけど、オレの話だけで信用しちまって大丈夫なんかな?


「オヤジ、一応ちゃんとギルドに確認してくれよ。オレが嘘ついてる可能性もあるんだぜ」


「いや、おめえがガキの頃からちゃんとやってたのは知ってっからよ。ま、これでおめえが俺を騙してたとしても、もうそれはしゃーねえや、持ってけドロボー!」


「いやだから金は払うって……」


 変なテンションになって金を受け取ろうとしないアルゴス親父と。

 それになんとか金を払いたいオレの攻防はしばらく続いた。

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