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冒険者クリア、筋肉じゃなくて防具をつける。

 オレはアルゴスのバカみたいな笑いに少しむくれて言う。


「そうだよ! 掃除ばっかしてたら掃除スキルを授かったんだよ! もういいよ。笑いたければ笑えよ! このスキルの凄さを知ったら吠え面かくんだからな!」


「いや、すまん、すまねえ。バカにしてるワケじゃねんだ。ブフウ」


 嘘つけ。

 明らかにバカにして笑ってるじゃねえか?

 そんな視線を投げつける。


「ほんとだ。ほんとにバカにはしてねえ。ただ小僧の生き様にピッタリとしたスキルを授かりすぎだろと思ってよう。すまんすまん、実際戦闘スキルじゃなくても冒険者にはなれるからな。大成しにくいってだけで。この俺だって授かったのはこの鍛治スキルだけどよ。一時期は冒険者やってたからな」


 オレの疑いの視線に、真面目な顔に戻ったアルゴスは手に持った金槌を見せながらそう言った。


「え? そうなん?」


 初耳。

 魔女のバーバラばーさんといい、鍛治屋のアルゴスといい。

 生活系、生産系のスキルでも冒険者やってんだな。オレは全くモノを知らなかったんだ。


「おう、そこそこいい所まで行ったんだけどよ。その頃、嫁さんに子供が出来てよ。そのタイミングで冒険者やめて鍛冶屋になったんだよ」


「そうなんだ」


 そっか。

 その無駄な筋肉は鍛治をするにはデカすぎると思ってたけど、アルゴスのおっさんは元冒険者だったのか。


「だからよ、小僧も頑張れよ。んで、俺んのとこでたっけえ武器買ってってくれよ」


 アルゴスのおっさんにバンッと背中を叩かれた。


「そっちが目的かよ!」


「そりゃそうだろ? 俺は武器と防具を作って売って、それで嫁と娘を養ってんだぜ?」


 アルゴスの親父はでっかい体でニヤリと笑った。


「わかったわかった! オレとテラにルーキー用の! 高くねえ防具を見繕ってくれよ」


 オレの後ろに立ってアルゴスとのやりとりをニコニコと笑って見てるテラと自分を交互に指差しながら、高えやつ持ってくんなよと念を押しておく。


「お、防具だけか? 武器はいらねえのか?」


「おう、武器はまだどれがいいかわかんねえし、とりあえず強いとこにはいかない予定だから、この解体用のナイフとスキルでやってみるつもり」


「おう、そうか! じゃあ、ま、ちょっと待ってろ」


 そう言ってアルゴスの親父は工房の方へ引っ込んでいった。

 店内を軽く物色しつつ、少し待っていると、両脇にどさりと防具を抱えて親父が戻ってきた。


「ほいよ。小僧と嬢ちゃんに合いそうな防具だ。こっちが小僧、こっちが嬢ちゃんだな」


 カウンターに山となって積まれていたのは皮装備だった。

 ……うん、地味だ。

 ゴッドブレスがつけてたようなごっつい防具じゃないのか。


「おい、てめえ、明らかに地味だって顔してんじゃねえ」


「あ、バレた!」


「ったりめえだろうが! 言っとくが今の小僧がプレートメイルみてえな派手な防具をつけたら一歩を動けねえぞ。てめえの身体つきを見てみろ。ただの貧相な孤児のガキだぞ? マッシブな防具をつけたきゃ筋肉つけろ筋肉! いいぞ、筋肉は全てを解決してくれる!」


 そう言ってカウンターの中でポーズを決めている。

 おっさんの筋肉自慢はきしょいけどな。でも冒険者には必要なんだろうな。

 あー筋肉かー。それをつけるにはまずは飯だなー。


「ん、まずはつけてみろや」


 ?


「筋肉をか?」


「バカかてめえは防具に決まってんだろうがよ」


「あ、そうか」


 オレは慌てて目の前に置かれている地味な皮防具に手を伸ばした。

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