冒険者クリア、アルゴスに笑われる。
カランコロン。
武器防具の店、アルゴス屋の入り口、木造りの扉を押して開く。
すると扉の上にとりつけられた鈴がオレらの入店を告げるように可愛い音で鳴った。
眼前には圧巻の景色が広がっていた。
武器と防具が所狭しと並べられている。大ぶりな剣、小回りが効きそうな剣、それ以外にも色んな種類の弓や誰が使うんだかわかんねえよな金棒、大小様々な盾、プレートメイルや皮鎧やガントレットなどなど、あらゆる冒険者の用途に細かく応えられる品揃えだ。
オレはずっとこの光景に憧れていた。
冒険者になって、正面入り口から入って、この景色を見る事を夢見てた。
あらためて見る景色に思わずため息がもれる。
テラも店舗の中の品々が物珍しいらしくあちこち見て回ってるらしく、民族調のワンピースのスカートがチラチラと揺れている。
もちろん冒険者ギルドの雑用でこのアルゴス屋には何度も来た事がある。
でも全部裏口からだ。
正面からは入れなかった。オレは汚ねえし臭えし何より冒険者じゃねえ。裏口から覗く景色。店の外からかすかに見える景色。どれもオレの憧れの景色だった。
そして冒険者になってそれを正面から見てやるんだと心に決めていた。
それが今叶ってる。
いやマジ順調すぎてオレ死ぬんじゃねえか?
「らっしゃーい……ってギルドの小僧じゃねえか。仕事なら裏口にしろって言って……なんだその顔?」
入店のベルの音に奥から顔を出したのは店主のアルゴスだった。
燃えるような赤毛を後ろになでつけて、額にはゴーグルをはめている。工房と繋がっている出入り口に頭をぶつけないようにかがまないといけない程の体躯のマッチョだ。
そんなアルゴスはオレが正面入り口から入ってきたのを咎めようとしたが、冒険者となったオレの精悍な顔つきにビビって咎める事をやめたようだ。
ふふ、漏れ出ているか。冒険者オーラが。ならば存分に味あわせてやるぜ、オレの冒険者姿をな。
腰に手を当ててアルゴスに凛々しい姿を見せつける。
テラもアルゴスの親父もオレに見惚れていいんだぜ。
おお、ほら、オレの姿をもっと見たいアルゴスがカウンターから出て来たじゃねえか。ツカツカとオレに近寄ってそんなにオレが見たいのか……。
パンッ。
小気味のいい音が店内に響いた。
「いてえ!」
「ちっちぇのが、気持ちわりい顔でニヤニヤしてねえで、ギルド仕事なら裏に回れってんだよ」
アルゴスは冒険者になったオレの頭をスパンと叩いたのだった。
背後でテラがクスクスと笑っているのが聞こえてくる。
お前もか、テラ。
「いてえよ、おっさん。今日のオレは客だぞ!」
「は? 孤児に買える武器防具は置いてねえぞ」
「ふふーん、これを見ろよ!」
ひかえおろう。
オレはピカピカのギルドカードをアルゴスに見せつけてやる。
「おお? おお! そうか、小僧ももう十四か。その自信じゃ相当強えスキルをもらえたんだろ?」
アルゴスは一瞬目を丸くしてから笑ってオレの肩をバンバンと叩く。
いてえ。てかスキルね。そうね、スキルね。
「お、おう」
オレは口ごもる。
いや、相当強い、よ。多分ね。ダンジョンの大穴に落っことされても生還できる位だからよ。
いっても、生活系スキルなんだけどね。
「なんてスキルなんだよ?」
「いや……パワーふっふ……だよ」
後半が濁っちまった。
「なんだ? 聞こえねえぞ? パワーまでは聞こえたけどよ、その後なんて言ったんだ?」
「ウォッシュ……」
「ウォッシュ? なんだそれ? パッと聞く限り、戦闘系じゃなさそうだが? 戦闘系なのか?」
アルゴスの親父はピンとこない感じで首を傾げている。
そりゃそうだよな。もういいよ。どんなでも冒険者にはなれてるし、オレは誰に何を言われても、自分の命を救ってくれて、テラとの出会いをくれたこのスキルを誇りに思ってるんだ!
「あーそうだよ! パワーウォッシュだよ! 戦闘系じゃねえよ! お掃除系だよ! でも冒険者にはなれるの! しかもすげえスキルなの! いいだろ!?」
オレが半ばやけになって全部ぶちまけると、アルゴスはオレの勢いに驚いた顔をして、そこからすぐに表情を崩した。
「ぐふッ! バハハハ! そうか掃除系! それでパワーウォッシュか! ガハハ! ギルドの掃除屋の小僧にはぴったりのスキルじゃねえか!」
大笑いだ。
アルゴスはオレのスキル名を聞いて、絵に描いたような大笑いをしてやがる。
くそう。バカにしやがってえ。