清掃員クリア、には夢がある。
オレはこの冒険者ギルドの雑用でここまで命を繋いできた。
当然みんなオレの事を知ってる。
だから向けられた視線はすぐにバラけた。
ここでオレが何をしてるかってぇとだな。
あ、その前に。まず、冒険者の特徴ってヤツを言っとく。
あいつらは雑用が嫌いだ。
優しいのも、意地の悪いのも、攻撃的なのも、卑屈なのも、冒険者には本当に色んな奴らがいる。
でもそいつら全員に共通してんのが雑用が嫌いだって事だ。
掃除洗濯、道具の手入れ、モンスターを解体した後の片付け。全くやりたがらねえ。てかやらねえ。
そこでオレは冒険者が嫌がるそれらの仕事を率先して受けた。
それがオレがここでしてる事だ。オレの仕事だ。
本当はこういった仕事をするにも冒険者にならなきゃいけねえんだけど、まあ過去に例もあるし、ほっときゃガキは死ぬし、って事で黙認されてきた。
そうやって得た小銭で、ここまでオレは命を繋いできた。
じゃなきゃ教会から与えられるパン一つでここまで生きてこれるわけがねえだろうが。
嫌な目にも腐るほどあったけどよ。
感謝もしてるぜ。
四歳から十年。
オレはずっと働き続けてきた職場を感慨深く眺めた。
あん時はキッツイ仕事とはこれでおさらばだなんて思ってたからな。
バカだぜ。
ま、今は別の意味でこの世ごとおさらばしそうだけどな。
あん時のバカなオレを見つけた筋肉質の男のハゲた頭に青筋が走ったのと、怒鳴り声をオレが聞くのは同時くらいだったかな?
「クリア! おっせえぞ! さっさと来て解体場の掃除をしろや! いつまでもメインフロアにいるんじゃねえ! おめえは臭せえんだよ!」
オレは解体場の親方の怒号を聞いて、まっすぐに仕事場である魔物解体場まで走った。
◇
夜。
一日の仕事を終えたオレはいつものように教会の一室でゴザの上に寝転んでいる。
壁はあちこちにヒビが入って、ボロボロとカケラがこぼれてくるし、あちこちから隙間風が吹き込んでくる、しかもそこらをネズミや虫が走り回るんだぜ。
最高だよ。
お世辞にも部屋とも呼べないようなこんな場所がオレらの寝床で、孤児数人がオレと同じようにゴザの上で寝ている。
明かり取りの窓から月明かりが差し込んできて。
寝転んだオレの顔を照らす。
今日もらった銀貨一枚をその光にかざしてみる。
一日中、血やら臓物やらに塗れながら掃除をして。
一日中、あっちこっちを走り回って小間使いをして。
手にする事のできる金の最大がコレ。
パン一つが銅貨一枚。
冒険者ギルドで飯を食おうもんなら残るのはせいぜい銅貨一、二枚だ。ここのチビどもに土産にパンを買って帰ればあっという間に消えるはした金。
普段ならこの金はオレの手には残っていない。
でも今日はこの金をオレは使う気はなかった。
オレがこの金でこき使われるのはコレで最後だから。
オレには夢があるからよ。
んで、それが明日には叶うんだからよ。
オレは明日生まれ変わるんだ。オレは明日にはスキルをゲトって冒険者になるんだ。
冒険者になってダンジョンに潜ってモンスターを討伐して金を生み出すんだ。
今日のこの金がオレの栄光の人生のスタートだ。
そう思ってたよ。