清掃員クリア、冒険者クリアになる。
ギルド長はオレの言葉を聞いて相手にしてられんと思ったのか。
「だってならこの話は終わりだ! さっさと冒険者になってダンジョンで死ぬがいいさ! ライラ、あれをちゃんとやっとけ」
そう言って個室を出て行った。ライラさんも準備があるとかで個室からいったん出ていき、オレとテラは二人で個室に取り残される形になった。オレは個室に入って以来、ずっと無言でオレとギルド側の話を聞いていたテラに労いの言葉をかける。
「テラ、お疲れ、よく黙ってられたな」
「だって、クリアがここはオレに任せろって言うから……でも、何回かキレそうになったわ」
「おう、顔が鬼みたいになってたぜ。狸顔だから可愛いだけだったけどよ」
「バカね!」
背中がバンっと叩かれた。
「いてえ」
力強い張り手にオレの背中も今のテラの顔くらい赤くなってるんじゃねえかな?
「でも本当に良かったの? あのハゲ、絶対クリアのお金横領しているわよ?」
「ま、それでもいいよ。どうあってもオレがここまで生き残れたのはギルドのおかげだから」
「クリアが良いなら私は何も言わないけど……ムカつく」
「怒ってくれるのはうれしいぜ、あんがと」
「もーお人よしもいい加減にしなさいよ……って助けられた私が言う事じゃないけど……」
「おう」
そんな具合に会話をしていると、個室の扉が開いてライラさんが戻ってきた。
「お待たせ、クリアくん。手続きの書類を持ってきたわ」
ライラさんは手慣れた手つきでオレとテラの冒険者登録を始めた。
◇◇◇
「はい、クリアくんと、そこのテラちゃんの冒険者登録が完了しました。これが二人のギルドカードね」
手続きを終えて。
オレとテラの目の前には鈍色の金属でできたカードが二枚並んでいる。
バーバラばーさんちでみたカードと一緒だ。
手に取るとヒヤリとした感触が手に伝わってくる。
ああ、オレはこれで冒険者になれたんだ。
実感が胸にくる。
くっそ。目が潤む。男が泣くんじゃねえ。死にかけても泣かなかっただろうが。
オレは気合いで涙腺をしめて涙をとめた。
案外これって止められるもんだな。
「それとコレね」
重い金属の音を立てて、どさりと皮袋が目の前に置かれた。
「ライラさん、これ何っすか?」
「開けてみなさい」
微笑んでそう促してくる。
オレはそれに従って皮袋を手に取る。
ずしりと重い感触に思わず落としそうになりながら、口を閉じている革紐を開いた。
「は」
そこには黄金郷があった。
「驚いた?」
「あ、ああ。驚いた。ってかこれ何? なんでこんな金貨の山をオレにくれるの? むしろもらっていいのか?」
「ええ、それはクリアくんのものよ」
「いや、こんなんもらう理由がねえっすよ」
驚きすぎて敬語忘れてたわ。
「大丈夫、理由ならあるわ。それはね……」
とライラさんが金貨のワケを語り始めた。
この金貨の元はどうやら今までずっとピンハネされてたオレの日当を貯めたものらしい。
ギルド長は相場の日当からピンハネした金を貯めていた。
理由はオレを雇っている事が領主や代官にバレた時のために使う金としてだ。それがバレた時にはハゲギルド長のボルドは多分クビになってギルド長はすげ変わる。
当然だが、代わったギルド長が交代劇の元凶になったオレを使ってくれる可能性は限りなく低い。
そうならないために、バレた相手が代官あたりだったら賄賂として使えるし、本格的に領主あたりにバレた時は当座の生活資金として渡せる。
そうすればギルド長が変わってもしばらくは大丈夫だろうと考えての金だったらしい。
そして幸いここまでバレる事はなく。
クリアはスキルを授かり、冒険者になると言い出し、ここに至った。
ならばこの不要な金はどこへやるか。ギルド長の懐へ入れる事もできただろうに。
オレにやるから武器や防具を揃える支度金にしろとの事だった。
ライラさんからその言葉を聞いて。
オレは自分の浅はかさに歯噛みした。
やっぱりオレはここまで色んな人間に生かされてきたんだと急に実感する。
ギルド長、ボルド。解体屋、マチオ。受付嬢、ライラ。森の魔女、バーバラ。
もっともっといっぱいの大人たちにここまで育ててもらった。
なんだよ。
やべえな。
「あんがと……ほんとあんがとう」
オレはつぶやくように言った。
これには流石のオレも涙腺を止められなかった。そんなオレの目に光った雫を、テラもライラさんも見ないふりをしてくれた。
ああ。
オレ、憧れの冒険者になったんだよな。
次話から冒険者になれたクリア君の冒険が始まります。
ここまで楽しかった。クリア君の続きが気になるよー。
と思っていただけましたらブクマ、評価で応援いただけると嬉しいです。