清掃員クリア、ギルドで説明する。
オレたちはギルドの扉の前に立っている。
今日は街の大通りを歩いてギルドに向かったからあっという間についた。昨日はばーさんのとこの近くの川で体と服を洗わせてもらったから、汚くないし臭くもないから堂々と行ける。
そしていつも通りに冒険者ギルドの扉を開ける。
ドアが重く軋んで音を立てる。
そこへ一斉に中の人間からの視線が刺さった。
そして侵入者が見知った顔だとわかると、これまた一斉に視線がばらける。
オレの日常だ。
これがここ、冒険者ギルドのお決まりなんだぜ、そんな風にテラへ先輩ぶろうとしたオレへ。
いったんばらけた視線が今日は再び戻ってきた。
みんな驚いた顔をしている。
は? どういう事だ? え? テラか? テラが見られてるのか?
いや違うな。テラじゃない。みんなの視線はオレに向かってる。
どういう事だ? 一回扉閉めてみるか? そうするか、出直しだな。
そう決めて。
オレはススッと足を後ろへ下げて扉から手をはなす。
すると扉が開いた時と同じ音をたてながら今度は閉まっていく。
そんな扉の隙間からオレを呼び止める声がする。
よく見ると、それはギルドの奥、カウンターから響いていた。
「クリアくーん! あなたクリアくんよね!? 帰らないで! ちょっとこっちに来て!」
ギルド受付嬢のライラさんだ。
このギルドで唯一自分に優しくしてくれる受付の女性。
「あ、はい」
ライラさんの声に、オレは閉まる扉に手をかけて、再び開いた。
◇
「じゃあ、本当に! ゴッドブレスの報告と全く同じでいいってワケ!?」
憤慨したライラさんがオレにくってかかる。
「そっすね。オレはゴッドブレスの戦闘についていけなくて、ビビって勝手に逃げ出したっすよ。生活系のパワーウォッシュってスキルしか持ってねえオレがダンジョンの中を一人で生き残れるワケがねえっすからね。そりゃゴッドブレス的には死んだって報告になるっすよ」
受付嬢のライラさんに声をかけられたオレはギルドの個室に連れていかれた。
どうやらオレはダンジョンで死んだ事になってたらしい。実際にテラがいなかったら多分そうなってた。
んで、それを報告したのはゴッドブレスで。その報告ではオレが頼んできたので仕方なくダンジョンへ連れて行ったが、ゴッドブレスの戦いやモンスターに怯えて一人で遁走してしまった。探したけれど見つからないから行方不明という事になっていたらしい。中層あたりでオレが生き残れる可能性はゼロに近いから死亡扱いと。
ま、そらそうなるよな。
てか、ゴッドブレスちゃんと報告してんのかよ。ダンジョンに潜る時に何人かには見られていたし、報告せずにオレが行方不明になったら逆にめんどくさい事になるからかな?
手慣れてんなー。
「ねえ、もう一度聞くわ。ここにはゴッドブレスはいない。私もギルド長もゴッドブレスの報告が全てだとは思っていない」
ライラさんは真剣な顔でオレを見つめて、ここで一度言葉を切ってから息を吸って、言葉を続けた。
「それでもクリアくんの報告は変わらないのね?」
「おう、どうしたんっすか? 急にー。変わんないっすよー。まさかゴッドブレスがオレをぶっ殺すためだけにダンジョンに連れてったと思ってんすか? この街の英雄が? まっさかー。オレがそんな事言ったらもう一回死んじゃうじゃないっすかー。運よくモンスターに会わずにダンジョンから脱出できて拾えた命、大事にしたいっすよ。ゴッドブレスの皆さんには分をわきまえましたこれからは細々と生きていくとお伝えくださいっす」
何度聞かれてもこれは変わんねえよ。
ライラさんはともかくギルド長はまだ信用できねえ。
バーバラばーさんはライラさんは信用できるような事を言ってたからいいと思うけどよ。
「クリアくん……」
ライラさんはオレの言葉を聞いて何かを悟ったような顔になった。