清掃員クリア、テラと一緒に朝帰り。
夜が明けて。
早朝にばーさんと別れを告げた後。跳ね橋の上でオレとテラの二人はガルグの街へ入るための審査を待っていた。ダンジョンで生計を立てている冒険者がメインのこの街でも治安のために一応番兵が立っていて、明らかに怪しいやつは通さないようにしている。
「私、大丈夫かな?」
「ま、問題ねーだろ? なんか聞かれたら、ばーさんに言われた通り、バーバラの親戚のテラですって言えばいいし、それでもダメだったら、ばーさんがくれたその身分証を出せば大丈夫だ」
「……うん」
「まだ心配か? 大丈夫だよ、ガルグはゆるい街だから」
「だといいけど」
過去の記憶を失ったテラにとってはダンジョン以外の全てが知らない世界。
そりゃ不安だろうな。
オレがちゃんとそばについててやんねえと。
「ほら、オレらの番が来たぜ」
◇
「おう、クリア、こんな時間に街に戻ってくるなんて珍しいじゃねえか」
顔見知りの番兵のサダだった。
ラッキー!
こいつだったらバカだからあっさり通してくれんだろ。
「おう、サダ! ダンジョン帰りでバーバラばーさんのとこに寄ったら帰る時間に間に合わなくてよ」
「お前、あのばーさんとよくちゃんとコミュニケーションとれんな」
「そっか? 口がわりーだけの普通のばーさんだぜ?」
「そういう風に言えんのはお前だけだよ。俺はおっかねえよ……って、そんで……」
オレに対して呆れた態度をとった後。
サダの目が急に番兵のソレに変わって、オレの後ろに立っているテラへと向かう。
「そいつは誰だ? 見慣れない女だけど?」
マジか。こいつちゃんと番兵やってんだな。普段オレにはアホな事しか言わないのに。
ちゃんと説明するか。
「ああ、こいつはバーバラばーさんの親類でこの街で働きたくてやってきたんだってよ。泊めてもらう代わりにオレが街に連れてきたんだ。ほれ」
オレはテラを前に押し出した。
「テラといいます。この街に仕事を探しにきました」
オレへの態度とはうって変わって大人しい様子で小さくぺこりと頭を下げた。
大丈夫かとテラの様子を見てみれば、チラッと上目遣いでサダを見上げてるから余裕はあるんだろうな。
「か、かわいい! オッケー! 通ってよし! 仕事探しがんばれ!」
キリッとした番兵の態度から一気に猫なで声のデロデロ態度に変わったサダ。
まて、サダよ。
仮にも番兵がかわいいから通ってヨシはヨシがすぎるだろうよ!
さっきまでの強くて厳しそうな番兵の態度はただのカッコつけか?
「ありがとう、サダさん」
そんなサダにはにかんだ笑顔で笑うテラ。
こっちもこっちで猫かぶってやがる。そんな猫の手がオレの手を引いた。
「行こう。クリア」
「お、おう」
それに引っ張られてオレの足はガルグの街の門へと進んでいく。
「テラちゃーん! がんばってー!」
オレたちの後ろ姿へとまだサダの声が響く。
番兵として見直して損した。
オレたちは冒険者ギルドへと向かった。