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清掃員クリア、魔女の家に入る。

 古ぼけた木の扉をオレはノックした。


 反応はない。

 家の中に人の気配はするが、夜の来訪者を警戒してか、ノックに応える事はない。

 もっかい。オレは扉を叩きながら、今度は一緒に声も掛けた。


「ばーさん! オレだ。クリアだよ。こんな時間にわりいけど開けてくれねえか?」


 窓にばーさんの影がうつって、カーテンの隙間から、灰色の目がチラリとこちらを見たのがわかった。

 そこにあるオレの姿を確認してから少しして、ガチャリと扉の鍵の音がして、そのまま扉は軋んだ音を立てて少しだけ開いた。その少しだけ開いた隙間から西の魔女ことバーバラばーさんが顔をのぞかせる。


「おや、ほんとにクリア坊じゃないか。こんな時間に乙女の家に来るなんてふしだらなぼうずだね」


「ば、何言ってんだよ。ちょっと緊急事態で、ばーさんしか頼れないから来たんだよ」


「緊急事態? またチビどもが熱でも出したかい?」


 過去に何度かばーさんに魔女の薬を頼みに突然訪れた事がある。

 このばーさんの作る解熱薬や薬草なんかは金がなくて教会の治癒の祈りに頼れないオレら孤児には生命線になってる。でもそのせいで教会に睨まれたばーさんはこんな森の中で一人で暮らしてる。


「いや、今回はもっとひでえ。オレが完全に死にかけたんだぜ」


「は、うちはモンスターお断りだよ。ゴーストになる前にさっさと教会に行って浄化してもらう事をお勧めするよ」


「まだ死んでねえよ。死にかけたっつってんじゃんかよ! そのトラブルでガルグに帰りそこねたから納屋にでも泊めてもらいたくて来たんだよ」


「おや、死んでないのかい。にしても堅実なあんたがトラブルとは珍しいね。後ろにいる見慣れない顔のお嬢さんがそのトラブルの元かね? まあ、いいさ、とりあえずお入りよ。二人ともボロボロじゃないか」


 ◇


「美味しい」


 テラが木のマグカップを両手に抱えるようにして、中身のハチミツミルクをゆっくりと啜っている。


「ばーさんのハチミツミルクは、やっぱさいっこうだな!」


「ほめても何にもでやしないよ」


 そう言いながらも少し嬉しそうにしているばーさんは素直じゃない。


「それよりも! あんたらこんな時間までどうしたんだい? トラブルってのが原因なんだろうけど。クリア坊は死にかけたってんじゃないか? ……その割には元気そうだねえ」


「お、おう。それなんだけどな……」


 そう言って。

 ばーさんにここまでの顛末を説明した。

 オレのスキルの話から。ゴッドブレスへの加入。ゴッドブレスの真実。テラとの出会い。テラの正体……は、流石にダンジョンボスとは言えねえから、ちょっとぼかしてダンジョンに封印されてた女子って事にした。


「ほんとに! 聞くの二度目だけど! そんな酷い事する奴ら! 信じられない!」


 テラがオレの横で顔を真っ赤にして怒ってる。お、おう、お前、ボスフロアでのオレがモンスターどもに向けて話してるつもりだった話をちゃんと聞いてたんだな。


「私がそいつらやってやるわ!」


 なんて物騒な事を言い出すんだ。

 お前、普通の女子だって言ってただろうが。

 ばーさんが引いてる。


「お嬢ちゃん、それはおやめ。あんたはダンジョンに閉じ込められてて知らんかもしれんがね。あいつらは相当厄介だよ」


「そんなに強いの?」


 テラがオレに問いかける。

 目がダンジョンボスの私より? みたいに言ってるけど。

 そうじゃねえんだよなー。


「ああ、冒険者としてのスキルや強さもそうだけどよ、あいつらは街の権力も持ってからな」


 あのゴッドブレスってパーティはこの街の中で最高峰の権力を持ってんだよなー。ほんとに、オレの冒険者としての人生の理想形。金稼いで、いい家住んで、うまいもの食ってる。

 そんなだから、下手すっとガルグの街の代官よりも権力強えんじゃねえかな? 下手に歯向かえばオレみたいに闇に消すレベルじゃなく、正式な手段を以て処刑されちまう。そろそろ貴族にでもなるんじゃねえかって話だ。


「街の権力……」


「ああ、そうだよ。貴族的な力って言った方がわかりやすいかね? あたしがこの森で暮らし始めたのもあいつらに睨まれたのが原因だからね」


「え? マジで? オレ、そんなん知らなかったんだけど? 教会と折り合いが悪いからだと思ってた」


「言えばクリア坊は余計な事するだろうよ」


「ん、んな事しねえよ! オレだって生きるのに精一杯なんだからよ、ばーさんの厄介そうなトラブルに首なんて突っ込まねえよ」


「はいはい、そうだね。孤児のチビらの病気を治すために教会の意思に逆らってあたしのとこまで薬を貰いに来たり、その礼とか言ってこの家の掃除やら草刈りやらしてたり、色々なとこでおせっかいやいてるあんたはこんなばーさんのトラブルに首を突っ込む暇はないわな」


 ばーさんはククッと笑う。

 くっそう。バカにしやがってー。


「ふふ、クリアっぽい。だから私の事も見捨てておけなかったんでしょ?」


「そういやあんたもクリア坊に助けられたんだったね? あたしも同じようなもんだね。この森の中で一人じゃさみしかろうってたまに話に来てくれるのさ」


「ふふ、仲間ね。私もクリアに助けられて本当に嬉しかった。天にも昇る気持ちってあれなのね」


 実際、地の底から地上まで昇っただけなんだけどな。

 そんな事よりも。


「もう! そんな事はいいだろ! それよりもさ冒険者への道を断たれたオレのこれからの人生をどうしたらいいかってのに相談に乗ってくれよ!」


 照れくさいからオレの話はやめてくれ。

 そして身の振り方を教えてくれ。銀貨一枚じゃテラの面倒を見るどころか野垂れ死にする未来しか見えねえ。


「おや、クリア坊は冒険者になるんじゃないのかい? 道を断たれたってなんだい?」


「いや、オレのスキルは生活系スキルだったから冒険者にはなれねえんだよ」


 自分で言いながら胸が締め付けられる。

 くそう。悔しいなあ。


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