清掃員クリア、魔女の家に向かう。
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「なんだこれ?」
「クリアどうしたの?」
どこかで声がしたけどここにはオレとテラしかいない。
多分幻聴だな。
疲れてんだ、オレ。
そりゃそうだよな。死にかけたんだし、クタクタだ。さっさと寝て明日の飯のタネを稼げるようにしねえとな。
「なんでもねえ、それはそうとしてよ。今日の寝床をどうすっかだな? もうガルグの街の門は閉まってて入れねえだろうしな」
ガルグの街は濠で囲まれていて、通行は基本的に濠にかかった跳ね橋を経由し、その先の門でチェックを受けてから街に入る形になってて、それが夜になると全部閉まる。ダンジョンからモンスターが溢れたりした場合に備えてらしく、跳ね橋をあげて堅く門を閉じちまうから、夜は街に入れねえんだ。
なんも知らねえだろうテラに、そうやってオレは軽く説明した。
「あら、私は別に野宿でも平気よ。ずっとダンジョンの床で寝てたし」
「そらプルガダンジョンのボスフロアだったらダンジョンボスのテラは安全だろうけどよ。ここは地上で屋外だぜ。それにテラは地上じゃ普通の女子と変わんねえんだろ? あぶねえじゃねえか」
ガキと女が外で寝転んでたら悪い奴の格好の餌食だ。
「ふ、ふーん。そーねー。私ってば、やっぱ普通の女子だしねー」
なんか急に自分の手で自分を抱きしめて体を揺すりだしたぞ?
「何モジモジしてんだよ。トイレか?」
オレの言葉にテラの頬が一気に膨らんだ。
「ばか!」
背中をバンッと叩かれた。
「いてえ」
さっきよりも威力がつええ。これで普通の女子はやっぱ無理がねえか?
「もー! 野宿じゃないならどうすんのよ!?」
ぷんとテラはそっぽを向いた。
「魔女の家に泊めてもらうか」
「魔女? 食べられたりしない?」
そっぽを向いた顔が驚いたようにまたこっちに向かう。
記憶なくても魔女の知識はあるんだな。って、魔女は人を食うのか?
テラの中ではそうなんだろうな。本気で食べられると思ってるのか怖がってやがる。
こんな風にコロコロと表情を変える顔を見るたびに可愛いって思っちまうな。
外に連れ出せてほんとによかったぜ。
「ブフッ。おま、それ絶対にばーさんに言うなよ。ほんとに食われかねねえぞ」
「い、言わないわよ! ッ……ほんとに食べないわよね?」
背中を丸めてこっちを見てる態度からすると、割と本気で怯えてんだな。ダンジョンボスより強え魔女なんていねえだろうに。
「食べねえ食べねえ。魔女っつてもただのばーさんだ。悪いばーさんじゃねえよ。なんていうか教会と折り合いが悪くてな。街に居づらくてこの近所の森に一人で住んでる変わりもんのばーさんだ」
そう言ってオレは大袈裟に手を振って否定すると、テラは安心したように丸めていた背中を少しだけ伸ばした。
「へー、そうなのね。泊めてもらえそうな人なの?」
「ああ、口はわりーが良いばーさんだよ」
「ふふ」
その言葉に。テラがオレの顔を見て笑う。
「なんだよ?」
「だって口が悪くて良い人だなんてクリアそっくりだと思ったらおかしくなっちゃって」
「は? あんなばーさんと一緒にすんなよ。ほれほれ、決まったなら、さっさと行かねえとばーさんが寝ちまうぜ。年寄りは朝起きんのが早いから、夜、寝るのもはえんだよ」
善は急げと、オレが立ち上がり、それを見たテラも一緒に立ち上がった。
そのまま森へ。
オレとテラは月明かりに照らされながら、西の魔女バーバラ婆さんの家に向かって歩き出した。