清掃員クリア、少女にのってひとっ飛び。
とは言ったものの。
いざダンジョンを出ようと思った段階で、オレにはここからでる手段がない事に気づいた。
なんせオレのスキルはお掃除大好き、パワーウォッシュだ。
落下死からうまい事脱出できたり、囚われの女を救えたり、大活躍のすっげえスキルだけど。
結局、お掃除スキルだ。
それでも今までの事を考えると、こいつはすっげえスキルだから、もしかしたらダンジョンモンスターどもをジェットで攻撃できるかも知れねえ。けどよ、本当にやれるかどうかも試してみないとわからん。
試すにしたってここはプルガダンジョン最下層だ。相手が強すぎるだろ。一か八かでダンジョンアタックした結果、最下層のモンスターに攻撃が効かなかった段階で、そのままパクパクッとやられてジエンドだろうよ。それはさすがにここまで生き残った結果としちゃあ最悪だ。
「どうやってこっから出るかなー?」
どうしようかと悩んでると。
ふと、オレの横で嬉し泣きから泣き止んだ女が、ニヨニヨ笑顔でオレを見てるのに気づいた。
なんだこいつ? うれしすぎておかしくなったか?
オレは女に問いかけた。
「どした? なにニヨニヨ笑ってんのよ?」
「な! ニヨニヨなんて笑ってないわよ!」
心外だったらしくプリプリと可愛い顔で怒ってる。
こいつほんとにダンジョンボスか? 普通の女子じゃねえか。
最初の頃にほんの少しミステリアス感があった頃はダンジョンボスっぽかったけどよ。
あっという間にコイツの態度もくだけたもんだな。
「いや、ま、そうなんか? でも今はどうやって出るか考えてんだよ。お前もなんか考えてくれよ」
明らかにニヨニヨ笑ってんだけど。
まあいいや、と流す。
「それなんだけどね。私に案があるわ」
だからさっきからニヨニヨ笑ってたのかよ。
可愛いなこいつ。
だけどこっから出れるならどんなに変な顔で笑っててもいいんだぜ!
「マジでか!? どうやって出んだよ! 教えて教えて!」
「ふふふーしょーがないなー」
女は得意げに笑い、オレに背中を見せるような体勢で振り返って、またニヨニヨとした笑顔をオレに見せる。
いや、あの笑い方はニヨニヨだろうよ。言ったらまた怒るかな?
どっちにしろ可愛いからいいんだけどよ。
「背中がどうんしたんよ?」
自慢しなくても綺麗だぞってのは言わないでおくわ。
オレの言葉に、女は自分の親指を立て、その指で背中を指しながら言った。
「乗ってく?」
何言ってんだこいつ。
女が地面に寝っ転がって? オレがその背中に土足で乗っかるんか?
マッサージでもんな事しねえよ。そもそも女の背中に乗れるわけねえだろうが。
「は? 乗ってくってなんだ? 意味わかんねえよ。そんな細くて綺麗な背中にオレが乗ったらお前の骨折れちまうぞ。ちゃんと説明しろって」
「むむ……いや、だからね……」
オレに冷静に突っ込まれた女は急に恥ずかしくなったようでちゃんと説明を始めた。
どうやら女はダンジョンボスの権限でこの中であればどこでも自由に移動できるらしい。
つまりはオレが落ちてきた穴を空を飛んで昇っていく事もできると。それにオレが掴まれば一緒に移動できると。そういう事だったらしい。
「マジですっげえじゃん!」
「でしょー?」
女はまた得意げな顔で笑った。
なんか解放されてテンション上がってんのか、打ち解けてきたコレが素なのか、随分と可愛くなってんな。
背中。
捕まる。
「じゃ、オレがお前の背中につかまれば……いいのか?」
「う、うん」
女の背中にオレが掴まるって事は。
オレが女を背後から抱きしめるって事になるんだよな。
その事実に気づいてしまったオレは急に恥ずかしくなってきた。
女もオレと同時にその事実に気づいたらしいが言い出した手前それを引っ込められないみたいだ。
「あー、じゃ、じゃあ、失礼する、ぜ」
おそるおそる。
女の背中から前へと手を回して自分の手同士でカッチリとホールドする。
その感触はまるでダンジョンモンスターとは思えない。
まったく人間と変わらねえ。
「へ、変なとこ、触んないでよ」
「お、おう。当たり前だろ」
女もオレもギクシャクしながら脱出の準備は整った。
「じゃあさ、もう、い、行くわよ。飛ばすから、絶対に手を離さないでね」
「わかーー」
った。
と言い切る寸前、語尾すら地の底に置き去りにして。
女とオレは天に向かって上昇した。
落ちてきた時よりも早いんじゃないかって速度でオレたちはダンジョンから脱出を果たした。