ミレイおばあちゃんの戦鎧
ミレイおばあちゃんの戦鎧
「お、重いー……。」
フレイ様が私に最初に設計してくれた鎧。
孫のミナが着たいと言うので着させてみたんだけど、びくともしない。まあ2トンある鋼鉄の塊だから……。
「ミナ!ホント無茶しちゃダメだよ!それって世界初の戦鎧なんだよ。国宝なんだよ!!」
母親のフーリンがヒヤヒヤしながらミナを見ている。
「お婆ちゃん、こんなの着て無双したってホント?」
「無双はどうかね?…けど何度か、敵軍は追い払ったね。」
「今でも動かせる?」
「昔みたいに、自在にはどうかな?ちょっと、やってみようか。」
ミナを戦鎧から降ろしてから久し振りにコックピットに入ってみる。
バイクのようなシートにまたがり、肩固定ジョイントをセットする。
カシャン。
と、軽い音がして鎧の全ての隙間が閉じる。隙間を覆うパッキンは全く劣化していないようだ。
グラスファイバーもちゃんと生きているようだ。外の映像が正面レンズにクリアに映る。
「あ!動いた!!」
腕を動かすとミナが興奮したように叫ぶ。
一歩二歩と歩いて……。
「おっとと……。」
ズズン……。
「「うひゃあ!!」」
悲鳴を上げるミナとフーリン。
久し振りに転んでしまった。ちょっと、感覚が鈍ってたかねぇ?
ビビッて腰が引けてるミナ。まあ目の前で2mの高さの2トンがひっくり返れば普通の反応か。
昔はホントよく転んだんだった。始めの頃は転んだら一人で起き上がれなかったもんだけど……。
「よっこら…。」
仰向けからごろんと横寝に変え、足を交差させて腕を支えにして起き上がる。
ハンガーにセットして肩固定ジョイントを外すと鎧の胸部が上にスライドする。
「ほい。」
ハンガーの梯子から降下すると、ミナがキラキラした瞳で迎えてくれる。
「凄かったー。」
はしゃいでいるミナ。
「これ、まだ最前線で使えるんじゃないですか?」
フーリンが感心して戦鎧を見ている。
「今の正規軍が相手じゃ、ちょっと無理かな?」
100年以上前の兵器なんて、100%ボコられる。
「でも100年前にはこの姿を見ただけで敵が逃げ出したって授業で習ったよ!」
ハンガーの横にセットしてあるバーカウンター席に座るとお茶を一口。
「そうだねぇ……。何でこのコが必要になったか…。恐れられたか。如何造られたかお話してあげようか。」
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「ハウ!」
「ロッ!」
「ハウ!」
「ロッ!」
・・・・。
端艇がエーベ河を横断している。その掛け声。
漕いでいるのは私と軍学校の学生8人。端艇操練に便乗させてもらっている。…何よりタダだし。
艇尾にはフレイ様と繭華。
艇首に寝っ転がっているのがウーヴェ爺ちゃん。…ってか爺ちゃんも漕げ!
その後ろで私は櫂を二枚持って漕いでいる。
足置きを何度か蹴り割ってるので、私の所は鋼鉄の特性足置き。
「ポンド、入ります!!」
「櫂立て!!」
軍学校の係留池に入り、ポンツーンや他の艇に櫂が当たって折れないように櫂を立てる。惰性で目的地まで近づいて行く。
一番奥で立っている学生に向けて係留索を投げる。
手早く係留する学生を尻目に
「やっと来たか、皆の衆。」
現れたのは小人族の老人、ソノサキ親方。
「鎧、完成したぞ。」
「おう。だもんで早速駆け付けたぜ。もう使えるのか?」
と、ウーヴェ。
「分からん。ただでさえ俺等小人族は非力なんだ。重すぎてビクともせんわ。」
ソノサキ親方はこっちだと言って歩き始める。
全員で軍学校の兵器開発棟に向かう。
開発棟に入ると2番目の扉を開くソノサキ親方。
ちょっと大きめのガレージのような場所。
「これが、戦鎧GP-08Pプロトタイプ・シェンカンプだ。」
戦鎧の周りには7~8人の作業員。このシェンカンプという正式名称、誰も使ってくれない不憫な名前だ。何せ…。
「おおおおお!!!」
叫んだのはフレイ様。
「ろ、ロマンが、ロマンだ!!10分の1スケールズゴック!まんま、まんまだ!!ここでは知っている人は居ないからパクっても誰にも怒られない!!」
興奮して叫んでいる。
「さ、早速動かしてみて!!」
言って私の腕を引っ張る。
「え、その、乗り方が分からない……です。」
ソノサキ親方が乗り方を教えてくれる。
後ろの隙間に足から滑り込むように入って行く。
「シートに腰掛けて、足をその円筒に入れる。」
「入り、ました。」
「かかと部分にペダルがあるのが分かるか?」
「あー、ハイ。」
「踏んでみろ。」
ガチョン!
「うひゃっ」
膝と足首辺りが固定された。
ビックリして足を引っ込めようとすると、シェ、シェ……ズゴックが足を上げる。ボディが固定されていなかったらひっくり返っていたろう。
「慌てるな!っつうか、動いたぞ。しかもあんな素早く……。テコでも動かなかったのに…。」
見ていた他の作業員も驚きで表情を引きつらせている。
「足を戻せ。」
ドガン!!
言われた通り足を戻したら床にヒビが入った。
「勢い付け過ぎだ!間違ってたら俺等ペチャンコだぞ!!
しかし足踏みでコンクリの床を砕くとは……。」
「ちょっと離れていた方が良いですね。」
作業員が全員3mくらい距離を取る。
「次行くぞ。今顔の横あたりにあるのが肩当だ。それを引き下ろして肩に当てて、フックを脇に通すようにセットする。」
えーと、肩当を下ろして、フックを脇に…。
カチャン!
開いていた入り口が閉じた。辺りが真っ暗になる。
「うわ、うわ、うわ……。」
軽くパニック。
「慌てるな。目の前にレンズがあるだろう。」
「あ、あった。」
マスクのようなものがあってその奥に両眼の顕微鏡みたいなのがある。
「頭を入れて覗いてみろ。」
対眼レンズを覗くと……。
「外が、見えます。」
「頭を横にして見ろ。」
マスクは角で固定されている。頭を動かすと向けた方が映った。
「モノアイが動いた!!きゃーーー!!再現度パネエッス!!」
拳を高く掲げているハイテンションなフレイ様が映っている。
首を左右に振ると、視界が変わる。この鎧に首は無い。モノアイとやらが動いている方が見えているようだ。
「次だ。手を足と同じ要領で円筒の中に入れてレバーを引け。」
えーと、手を入れてレバー……。
「これかな?」
カション!
肘と手首が固定される。
「以上で装着は完了だ。装着終わったら忘れずに先ず左手小指のトリガーを引け。」
左手小指のトリガーを…引く。
ガコン!フシュー……。
「今の何?」
「外気を取り入れるモードにした。酸素ボンベがついて無いからな。そのままの状態だと直ぐ酸欠になる。」
胸と背中の所に外気の取り入れ口があるらしい。毒を撒かれた時とか水中で作動させるときに気密モードにするとの事。
「良いか、今から固定ジョイントを外す。行動には気を付けろよ。」
「え?ちょっと待って……。」
ガション!
膝がカックンとなりそうだったのを耐える。
「立った……。立った!!」
あ、ちょっと、そんな近くに居られると……。
転べないし、腕を振り回したりしたら……。
「マユ!危ない……。」
「え?あ、分かった。」
繭華がフレイ様の袖を引っ張って距離を取らせる。
直後、すっころんだ。
「えーと……。」
もぞもぞ……。
起き上がれない。
じたじたじたじた……。
え?どうすれば良いの?
腹筋で上半身を起こそうとしても、足の方が持ち上がってしまう……。
「起き上がれないならクレーンかジャッキで引き上げるが?」
親方が呆れたように言う。
「お願いー。」
作業員の一人が倒れた背中にジャッキを入れる。
キコキコキコキコ………。
グッグッグッグ……。
徐々に身体が起き上がっていく。
「一人で起き上がれるようにならないと、戦場には出れんぞ。」
とウーヴェ。
「えー、無理でしょ、コレ。」
上半身が下半身の倍以上の重さがあるみたいだ。
「岩の間とかにはさまったら終わるよ。」
「ああ、岩くらいなら手の爪で破壊できるから、そこを支点にして…、むしろ起きやすいと思うぞ。」
「じゃあ先ず起き上がる練習から……。」
「や、せっかくだから外で走行訓練しようよ!!」
はよはよ、と、外へといざなうフレイ様。
………フレイ様のいう事は絶対。できなくてもやる。
軍学のグラウンドに降り立つと、辺りに居た学生達がザワザワと……。
「行きまーす。」
ドシドシドシドシ……。
「おおおおお……。ズゴックが、走ってる!!!
もっと、もっと早く!!」
え?もっと早く?
「赤いんだから3倍のスピードで!!!」
「3倍?!」
フレイ様のお言葉は、絶対。
3倍の力で地面を蹴る。
ボコ!!
地面に大穴開いた。思い描いていた足運びが出来ずに、斜め前に飛び上がる形になってしまった。
「あーーー……。」
20m位空飛んだ。
ドドン!
ズザザザーーー。
落下して砂地を滑る……。
………止まった。
じたじたじたじた…………。
「起こしてー。」
ちょっと恥ずかしかった……。
作業員が3人で私を起こしている間、繭華とフレイ様の会話が聞こえてきた。
「フレイ様!私にもズゴックとやら、作ってください!」
「無理だって、マユのパワーじゃモビルスーツ動かせないでしょ。せめてモーターを動かすための蓄電システムから開発しないと………。」
「フレイ様はいつもミイにはあげて私には下さいません!」
「いやいや、二人とも平等にしてるでしょ?ミイにあげてる物はマユにもあてげるじゃない。」
繭華がぶすっとした顔で、自分の身体のある一点を指差す。
「うん、それはね、マユのがね、完成されているからなんだよ。」
何だろう、口調が…ちょっとぎこちない。
「アテナやヴィーナスも羨むそのプロポーション。1mmも変えてはいけない。」
「またアテナとかビーナスとか煙に巻くような事言って!」
神界の女神だそうな。
「こやつ、私の目の前で、にくまん腕に乗せてよっこいしょって言うんですよ!これ見よがしに!!最終的にはテーブルの上に乗せて肩を叩いて…。」
「うん。壮観だよね。」
青い空を眩しそうに目を細めるフレイ様。
…………………。
「うっっきーー!!」
「どうどう…。」
「今度ミイが乗るモビルスーツにサソリ入れたる!!」
なんて事を……。毒耐性はあるけども…。
「やめたげて!せめてムカデくらいに……。」
「やめたげて!!」
は、入って無いよね。
思わずマスクを外して鎧の内部を見る……。
下は真っ暗だ……。
あ、片足立ちになっちゃった。
作業員が蜘蛛の子散らすように逃げていく。
ドテ…。
倒れた。
じたじたじた…。
「と、とにかくさ、モビルスーツは前線に立って戦わないといけないんだから、頭脳労働担当のマユには、…そう、そのうち戦闘指揮車両を作ってもらうから。パトレイバーのみたいな……。」
パトレイバー?また出た神界の言葉。
「何かとってつけたような……。でも、いいです。分かりました。指揮車両、きっとですよ。」
1週間もすると操作はだいぶ慣れ、短時間ならメタンを焚いて飛ぶことも出来るようになった。
「………なので、鎧の本来の目的、戦いで、どの程度使えるか、テストを行う。」
結成された私の騎士団、デュプレ・バタリオンの男共。3人がマサカリを持って対峙する。
「かかって、来なさい。」
私、ズゴックの武器の爪には鞘がはめられ、座布団のような緩衝材が取り付けられている。これで間違っても連中を殺すことは無い、ハズ。
「「……………。」」
双方しばしのけん制。
模擬戦とは言え初めての戦鎧相手の戦い。戸惑っている……。
と、思っていたのだけれど、後から聞いた話、負傷見学中のアグバ他のようにトラウマレベルでボコられると思ってビビっていたそうだ。
「来ないならこっちから行く!」
10m位の間合いを一気に詰め、ワンツーパンチ。
「ごぶおぉほ…!!」
それで一人が気絶した。
「気を抜くな。次、お前、入れ。」
二人がかりで気絶した男を引きずり出すと、私が指名した男が盾を構えて対峙。
「ぬおおおお……。」
及び腰ながら、大楯を前面に押し出して突進してくる。
ドィィィン………。
腕を伸ばして止めた。
「どうだ?!」
ソノサキ親方が聞いて来る。
「衝撃がちょっと。でも、自分の手でやるより、微弱。」
「視界はどうだ?」
「兜の視界に比べれば、はるかに良い。でも、前30度くらいしか見えない、から、すごく不安。」
モノアイから入って来る視覚情報は俯瞰で見れるから意外と使える。これは後で報告しておかなくちゃ。
「そうか、やはり横と後ろの専用モニタを増設するべきか……。」
「どりゃぁぁ!」
一人がマサカリを振り下ろしてきた。
ガキ…キキィィィ。
ズゴックは全体的に丸いフォルムで、刃が直角に当たらないと滑って力が分散する。
ドシ!ボグ!
マサカリを振り下ろしてきた男の下腹にボディブロー。そして裏拳でぶっ飛ばした。男はそのまま泡を吹く。
「次!お前、入れ。」
指名した男は槍を手に突進して来た。
キキィィィ……。
穂先は肩辺りに当たり、滑って脇の下に流れて行った。
傷はほとんどない。塗装がちょっと剥がれたくらい。
槍ごと腕を脇で固め……、相手の股下に腕を…柔道の肩車的な技になった。肩というか頭の上に乗せる感じだけど……。
「どうかな、親方。これをデュプレ・バタリオン全員に装備させたら?」
フレイ様の提案にしかしソノサキ親方は無理無理と手を振る。
「小さくて力持ちなミレイ嬢ちゃんだからあれは動かせるんだ。3mの大男にあの鎧じゃ軽く5トン以上になっちまう。動けてもせいぜいカタツムリみたいにズリズリ這いずるのがオチだ。」
「うーん…。ワンマンアーミーかぁ……。それはそれでロマンだけど、ミイ一人を戦わせるなんて……。」
「あー、まあ女の子一人を敵軍に当てるとか俺等ものすげえ人でなしなんだが…。」
今も5人の部下を相手に無双している私を見て……。
「しっかし、その心配も無用な気も……。実力が突出しすぎててさ。」
「まぁなぁ。稼働限界を見極めて、相手の戦力を分析しておけば、百戦危うからずってかんじなんだよなー。人海戦術で来ても火炎放射で一掃できるしな。」
「フレイ様、フレイ様!!」
と、二人の背後からこそこそとフレイ様に話しかけている部下が一人。
「隊長をお止めくだっせっ。俺等、全員壊されまっさ。」
あいつ、いつも自分の番が回って来そうになるとフレイ様に……。要領が良いのか姑息なのか…。判断が分かれるところだ。
「あぁ、そうだね。ミイ、そろそろお昼にしようよ。」
「はい。直ぐに、準備します。
お前達、サボってないで、立て!」
私の一言で倒れていた全員がヨロヨロ立ち上がる。
ミノタウロス族は基礎体力がずば抜けていて今まで努力というのをしてこなかった。加えて彼等は故国では特権階級。根性が最低というわけではないけど5段階で言えば4以下だ。
あとで鍛え直しだな……。
全員で食事が始まったところでウーヴェとマティアスが現れた。
「おう。俺達も呼ばれるぜ。」
二人が空いている席に座る。
配膳係が二人の前にお茶とスープから準備していく。
「お前等、ノインガメって名、覚えてるか?」
「ノインガメ、…ああ、爺ちゃん達のライバル……。」
「ライバルじゃねぇよ!!」
フレイ様の返答に被り気味で、でかい声で否定するウーヴェ。
「冗談でも止めろ。あんなクソ野郎をライバルとか…。うぇ。吐き気がするぁ。」
「話が進まないので私が説明しよう。時間も無いのでね。」
とマティアス。
「今、我等の領地の周りで少なくとも3勢力が兵を集めている。」
「3勢力……。」
「外国勢力がひとつ、我等の領の富の匂いに釣られた愚か者。そしてノインガメだ。」
マティアスが周辺の地図に石を置いて行く。
「先ずこちらの軍勢は我が領の2千とグリンマ軍…5百。」
グリンマ軍5百と言っても主力が私達とミノタウロス族の30名。あとは50過ぎの老人ばかりだ。とは言えウーヴェを慕って引っ越してきた元部下も多いからそんじょそこらのナマクラより切れる。
「それに対して外国勢ホウシュツタビッツ3千、蚊トンボ7百、そしてノインガメ軍千5百だ。」
「2,500対5,200………。倍以上……。」
「ハッ!この程度まったく問題ねぇよぉ。」
鼻で笑うように言うウーヴェ、そしてマティアス。
「ホウシュタビッツと蚊トンボは烏合の衆だ。千5百もあれば十分。そちらに5百を貸しても良いんだが……。」
「ああ、要らねえ要らねえ。」
マティアスの援護をウーヴェはひらひら手を振って断る。
「ノインガメくれぇ、ウチのジジババ混成軍で十分だ。いや、2千くれぇ嬢ちゃんだけで追い散らかすだろうぜ。」
「そうだな。戦場さえ間違えなければな。
我々は要塞で適当に叩いていればノインガメの敗北の報で退いて行くだろう。
あとは……3割以上の打撃を与えんとまた再編成して攻め寄せてくる。ここで完膚なきまで叩き潰しておくことだ。」
「わーってらぁ!」
言ってウーヴェは地図の一点を示す。
「壊滅させるにゃ戦場はリヒテンファガス峡谷だ。」
リヒテンファガス峡谷。20m級のわりと深い谷底と切り立った急峻な山で切り取られたような渓谷。狭いところでは5m位しか道幅が無い。
「ノインガメんとこの将は良く知ってる。将としては可もなく不可もねぇ奴だ。
奴等なら見晴らしの良いここで伸びきった隊列を編成し直す。」
ウーヴェは地図の扇状地の扇央部分を指差す。
「ここを全軍が通過した後、崖を崩して退路を断つ。そして大楯を横に並べて即席のバリケードを築く。」
あとは単純。私が一人で特攻。討ち漏らしたのは強弩部隊で狙い撃ち。
「奴等の精鋭部隊、ギガンテン隊の特攻には気を付けろ。5m級の大男が突撃して来んぞ。ハンマーや金棒を振り回してくるから戦鎧でもダメージが通るかもしれん。」
ギガンテン。フレイ様が一目見て超大型の類人猿と言っていた。パワーは私でもバカにできない程。
……。バカだけど。
「分かった。」
「注意すべきはそれだけだ。が、それだけ、ギガンテン隊の信用が高いのも事実だ。」
力比べでもミノタウロス族が圧されるかもしれないとの事。
「その前に、私が倒す。全部。」
「良し、ならばそっちは良いとして、…森を抜けてくる別動隊の存在も考えられる。」
「もう一つのルート、森を抜けて来ようとする連中は私に任せてください。濃霧と狐火で迷わせます。」
マティアスの懸念を繭華が払拭する。
「1週間も森の中を分断してさまよえさせれば飢えて乾いて、全滅するでしょう。時折森林狼をけしかけてみます。」
「えげつなっ。」
戦って負けるにしたって普通半分も死なない。けれど、遭難は全滅が普通にある。
「ふむ。ある意味ミレイ嬢の方に行った方が生存率は高そうだな。」
ってか負ける事考えてないな。
「良し、大まかな策はこれで良いとして……。補給と陣地の構築について……。」
さあ難しい話が始まった。これからは眠気との戦いだ……。
その後、綿密に行動を打ち合わせを行い、その日はゆっくりと休んだ…、休めた?
いや、気付いたらちゃんとベッドに横たわってたんだから……。
スッキリしてたんだから……。
決戦当日。
リヒテンファガス渓谷に到着すると陣地の構築から始める。
山を少し崩して道幅を少し狭める。
岩を落とした時、道を塞ぐように細工。谷まで落ちないで、退路を防ぐように。ウーヴェの指示通り掘ったり杭を打ったりして。
そして、3日目の朝。
「来ました!後3時間で接敵!!」
ウーヴェの元部下で、斥候を生業としていた爺ちゃんが報告を上げた。
「よっしゃぁ!全員配置に付け!!」
「「「うらぁぁ!!」」」
全員が持ち場に散っていく。
そして私はズゴックに搭乗すると、山の上で隠れる。
カメラを望遠レンズに変え、進軍してくる敵を観察。
「先頭、見えた。騎馬200、槍300、弓300、最後尾に補給部隊。」
伝声線を掴んで200m下方に待機しているウーヴェに報告する。
「距離はどのくらいだ?」
「距離……。」
測距儀を望遠レンズと変更して……。自動で出来ないものかな、これ?
ピントを合わせる……。目盛を合わせて距離が…出た。
「距離、4,800m。」
『補給部隊は間を開けているか?』
伝声管から声が届く。
「他の部隊と比較して、ちょっと遅い。から、800m遅れてる。」
『よぉし、じゃ、ちょっと手順を変えるぜ。補給部隊のど真ん中で岩を落とせ。』
「補給部隊の、ど真ん中で、岩を落とす。了解。」
『俺ぁ指揮所に移動する。不測の事態が発生したら…。』
「角笛で知らせる。」
『結構。行くぜ!!』
ほどなくして……。
1時間すると先頭の騎馬が目の前を通り過ぎていく。
最後の補給部隊が通過し始めたところで、私は隠れていた土中から姿を現す。
「さあ、始まり!」
目の前にある直系4mはある岩を押して……落とす。
ゴゴゴ……ゴンゴン…ガラガラ………。
「お、あーー!…ら、落石ーーー!!!」
後方に居た部隊の一人が落石に気付き、悲鳴を上げる。
岩から真下に居た部隊員は前後に逃げていく。
しかし、岩は途中の杭にぶつかると、落下方向を真下から進軍方向の斜め45度に変更。荷車を一台破壊すると、道に沿って転がり始める。何人か逃げ遅れた兵を谷底へ吹き飛ばし、最後に荷車にぶつかって止まった。
「次。」
もう一つ岩を落とす。
同じように何台かの荷車と馬を谷底に突き落とす。杭が山肌を崩して土砂崩れのように道を塞いでいく。
さらに岩を落とす。…落とす。
用意していた岩を全て落とし終えると、ほぼ退路を断つことが出来た。
私は崖から扇状地方向へ飛び降りる。
背中のランドセルからジェット噴射で落下速度を減速させる。
ドシン。
着地。
「な、何だありゃ?!」
最後尾の弓の小隊が異変に気付き、戻って来たところで、私と接敵した。
のしのしのし……。
「「「……………。」」」
近づいて来る得体の知れない物に絶句する兵達。
「う、撃て!撃て撃て!!」
近づいて来る何かに恐怖を覚えた指揮官が我に返って弓を撃たせる。
カカン!カン、カン…。
矢は戦鎧に軽く弾かれ、傷一つ付かない。
距離が50m位になった時、2ステップで一気に距離を詰める。
ドガ!
馬に乗っていた指揮官をぶっ飛ばした。馬は後でもらう。馬可愛い。
「「「「…………。」」」」
指揮官は30m位吹っ飛んで動かなくなった。
しばらくすると兜の隙間から血が流れ出てきた。
「「「っうわーーー!!!」」」
慌てて逃げ出す兵達。
追いかけては殴り倒し、追いかけては殴り倒しを繰り返した。
2~30人を倒しながら兵の逃げる方へ向かう。と、開けた場所に出た。
周囲の状況を確かめるべく首を巡らすのだけれど、戦鎧の挙動はただモノアイが右から左へ動いただけ。
「何だあれは……。」
全員が唖然として私の鎧を見ている。
再度矢が射かけられるが、全く効果はない。
「槍部隊!」
ハルバードを構えた槍部隊が横並びになって前進してくる。
「突撃ーー!!」
10人位が槍衾にして突っ込んできた。
何だろう、口元に笑みが自然と浮かんでくる。
思ったら槍隊に向けて走っていた。
突き出してきた槍を搔い潜って中央の兵に向けて手を突き出した。
ベチョ!
「………え?」
鳩尾の辺りにズゴックのぶっとい手が貫通した。
腹に大穴を開けた兵士は即死だった。
「「「……………。」」」
周りにいる連中は何が起きたか分からず身動きが取れないでいる。
兵の距離は1m以下。槍の間合いではない。
ただ慌てている兵達に突き出した方とは逆の手を振りまわす。と、2つ、首がもげて飛んで行った。
「「「ば、化け物ーーー!!」」」
あ、何人か失禁した……。
槍を捨て逃げ出す兵を再度追いかけ始める。逃げるモノを追う習性があるって私は熊か狼か?
抵抗らしい抵抗を受けず、敵陣のど真ん中に飛び込んだ。
周りは2~300人の敵兵。
「盾で抑え込め!!」
指揮官が命令すると、20人位で大盾を構えて抑え込みに来た。
さすがに立て直してきたみたいだ。
えっと、こういう時、2番目のノズルにメタンの息を吐く。
ゴゴオオオオオ……。
爪の間から炎が伸びて盾を持った兵を飲み込む。
「「「ぁぎゃぁぁぁ……。」」」
火だるまになった5~6人がゴロゴロ転がる。
さらに火炎放射。
逃げ遅れた2~30人が火だるまになって走り回てっている。
「ギガンテン隊を出せ!!」
指揮官の命令で7匹の巨大猿が現れる。
「来た。」
何だろう、ワクワクする。
この鎧の性能を発揮させられるから、かな?
一匹が金棒を振り回して走って来た。
ゴィィン…。
振り回していた金棒を受け止める。
「お?」
振動が結構ある。足も地面に少しめり込んだ。
こりゃデュプレ・バタリオンの連中だったら3人掛かりで当たらないとダメかな?
「「ばかな……。」」
「「受け止めた…。」」
「「ありえない…。」」
後ろで見ていた兵士達が愕然としている。
しかし、せっかく戦鎧を着てようやく互角の身長を相手にしていたのに…。また私が半分の身長だ。
金棒を叩き落すと、爪を閉じて思いっきり突き出す。
ボグシャァ…。
巨猿の腹に大穴が開いた。
「ぐごほぉぉぉぉ……。」
苦しそうにのたうち回るので頭を踏みつぶして楽にしてやった。
「「「「「「………………。」」」」」」
次の一匹が突撃して来た。
あまり頭が良い猿ではないのだろう、そいつの武器は巨大なメリケンサック。
素早い……。
ガイィン!!
リバーブロー食らった。
ニヤッと笑う猿。
「あれ?知性がある、の?」
でもさ、ダメージは無いんだよね。
カウンターで顎を打ち抜くと、猿は膝をついて痙攣する。
「一応トドメ。」
爪で頸動脈を斬ってやった。血しぶきが舞う。
3匹目と4匹目は最弱で、少し小さめだった。
楽に倒せた。
知性があるからか、5匹目と6匹目は明らかに戦うのを嫌がっている。
指揮官に叩かれてもピックで突かれても逃げ腰だ。まあ放っておいても大丈夫だろう。
最後に…。
「カタストの拘束具を外せ!」
指揮官が馬上で怒鳴る。
「………それは、しかしっ!」
「緊急事態だ!ツォイクに外させろ!急げ!!」
6m位の大きさの、知性のカケラもなさそうなのが前に出てきた。
5匹目の猿が巨大猿の拘束を外す。しかしその5匹目は巨大猿が自由になった瞬間に、あっさり頭を握り潰された。
狂ってるのか拘束されていた腹立ちまぎれか……。
ノインガメ軍は既に100m位は離れて観ている。
さて…。
武器は手甲みたいな物だ。
「ごがぁぁぁ!!」
唸り声をあげて四つ足で迫って来る。
ビィィィン…。
飛び掛かってきたのを爪で受け止める。
ズザザザ……。
お、押されたのは久しぶりだ。
「むー。」
力は結構、かなりある……。
組み合っていたが、噛みついてきた。
き、きちゃない!!
スピードも、それなり…。左に右に身体を振って避ける。
噛みつかれても多分鎧は凹みもしないだろう。
けど、よだれがイヤ!!
ぐぐぐ……。再びの力比べ。
「おっと…。」
ひ、引いた?そんな知能が…。
たたらを踏んだところ、足を掴まれ引き倒された。
戦鎧を片腕で持ち上げる巨猿。
ドォォン!!
大上段から地面にたたきつけられる。
しかし寸前、腕で受け身を取って、そのまま回転して立ち上がった。
首っ…。緩衝材がいい仕事してくれた。何とか、むち打ちは避けた。鎧が無かったら危ないところだ…。
「ごほっ…。あー。びっくりした……。」
「ぐごほぉぉぉぉ…。」
まるでゴリラのようにドラミングする巨猿。
畳み掛ける攻撃をしてこないとか、やっぱり知性は無いらしい。
「炎は、どう?」
ボオオオ……。
巨猿の顔面に向けて火炎放射。
「ぐぁあがぁ!!」
体毛が燃え上がって、地面を転がる。
「ああ、効く効く。」
でも……。
そんなんで勝っても何か、ズルして勝ったみたいで……。
「かかって、来い!」
言ってカッコつけてみた。
と、イラっと来たか、巨猿が吠え始める。
「ホォォォォ!!」
お?
向こうも何か、技っぽいのを出してきた。
口を丸めて大声を上げてるだけのようなんだけど……。
何か、クラクラする……。うお、平衡感覚が…。
超音波?
多分自分の足だったら立っていられなかったと思う。
「だったらこっちも、ヴッパーターレンホーン!!」
キキィィィ…!!
高周波を発生させる角笛と奴の超音波が混じりあい、フォンフォンという奇怪な音に変わってしまう。
呆気に取られている隙に巨猿の頭付近に飛び上がってフックをかます。
「なんと!」
よろけたけれど、踏ん張って耐えやがった。もろに食らったはずなのに……。
「ならっ!」
落下しながら腕を挟み込んで引き倒し、体勢が崩れた所、脇腹あたりに蹴りをいれた。
「まだ耐える?!」
コンクリートを破砕する蹴りだぞ。
カニバサミで膝をつかせ、延髄切り。
頭が落ちる。さすがに延髄は急所のようだ。
動けなくなった巨猿の腹を抱えて脳天杭打ち。
「どうだ?」
「ごぁ…。」
声にはまだ力がある。
頭の上に背骨を乗せて抱え、ジャンプ。
でかいから技が限られる。高高度から落として首を折ってやる。
ゴキン!!
頭から落ちたのに、フラフラになりながらも立ち上がる。
「まだ生きてる?いいかげん…。」
喉を狙った爪の攻撃は太い腕で防がれた。
「ブボ…。」
爪を引き抜く前に腕を掴まれた。
血を吐きながらも再度叩き付けようと持ち上げられる。
しかし、叩き付けられる寸前、ジェットエンジン起動。
スポンと手の拘束から離れてふわりと着地。
巨猿は地面にたたきつけるように反動を付けていたため、バランスが崩れ、あらゆる急所ががら空きだった。
喉、鳩尾、こめかみ、最後に心臓をズゴックの爪で切り裂いた。
「……………ごぶ……。」
倒れて、それでも足掻いている巨猿。
…………………。
しばらく見ていたが、動かなくなった。
「ふぅぅぅぅぅ……。」
大きく息を吐くと、胸のダクトからシュコーと、シュノーケルのように排気された。
にしても、鎧が無かったら結構ボロボロになってたろうな。
「あ、でも、鼻血。」
鼻にティッシュを詰める。
「さて……。」
後ろを見ようと首を巡らそうとすると、後部画像が斜め下に現れた。
私を見て動けずにいる軍。距離は大体200m
先ず回れ右。
左右確認。
戦鎧はゆっくりモノアイを左右に動かしただけ。
「すぅぅーー…。」
コォォォォ……。
思いっきり息を吸い込む。鎧からも呼吸音。
のしのしのし……。
ゆっくり歩き始め。
ズンズンズンズン……。
少しスピードアップ。
「う、あぁ……。」
誰かが声を上げた。
それが伝播していき……。
「「逃げろーーーー!!」」
敵軍は壊走を始めた。
走れば追い付くけど、グリンマ軍の活躍の場も残しておかないと。
私、熊じゃないし。
逃げた先で鶴翼のど真ん中に突っ込んでしまったノインガメ軍は強弩での十字砲火を食らい、壊滅するのだった。
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「で、その後ノインガメをぶっ飛ばしたんでしょ!!?」
意気込んで聞いて来るミナ。腕をグルグル回している。
「あー、うん…。結局この時は裏で糸を引いていたヴォルフガング王とノインガメに反省文を書かせて終わったかな?こっちに死者は居なかったし……。」
「えー?でも報復しないと諸外国になめられるって授業で教わったよ!」
「防衛のための戦争は否定しないし、報復攻撃も当たり前。でも、この戦鎧はちょっと一方的だったから……。」
「でも戦争ってそういう物じゃないの?敵に甚大な被害を与え、自軍の被害は最少に。」
「うん。そうだね。」
ちょっと、説明が難しい……。
「戦鎧があまりに強いから、ノインガメの人達を根絶やしにしたら周りの人達はどう思うかな?」
「……こわい。」
「それ。」
良かった。ミナが当然の報いです、とか言わなくって。
「怖いものを持っている、話し合いが通じない、だったら先につぶしてしまえ、悪いのはそんなのを持っている奴だ。そんな風に思われたらどうする?」
「むーー。」
「あの当時私達はまだ小さい地域だったからね。周りの人達と仲良くしていくのがよりよい処世術だったんだよ。
それに、ノインガメも相当な痛手を負ったんだから。充分懲りてたと思うよ。」
「うん。」
「ミナもあと10年もしたらフーリンにミナ専用モビルスーツ買ってもらいな。」
「うん!」
「とんでもない!あんなの個人じゃ買えませんて!10億HMからするんですよ!」
でも昔からしたら十分安くなった。
無理矢理弱い国を亡ぼす強大国。そこに損得とか野望が関わっていると……。
神の世界にもあったそうだけど……。




