ミレイおばあちゃんの配下 続3
ミレイおばあちゃんの配下 続3
「ねえ、何で母ちゃん達はお婆ちゃんにビビってんの?」
「さて、何でだろうねぇ?マーヒを怖がらせるような事をした覚えは無いんだけど。」
カーラーの質問に答えてマーヒを見る。
「えーと、その、私の曾祖母が、その、ここに初めて入植地を求めて…。」
とのマーヒの言葉で思い出す。
「ああ、そう言えば確かにあの時の50人に居たねぇ……。」
「その、初めて会った時は、全員がお婆様を栄養失調のジャシ種と思って……。」
汗を拭き拭き答えるマーヒ。
「まあこんなに小さなミノタウロス族は普通いないからね。」
「その時の鬼神のようなお婆様の話を祖父の友人が震えながら話してくれたことがあって…。」
「えー?」
想像がつかないのか、首を傾げるカーラー。
「勇敢な祖父や長老のアグバ様がその時を話しになると真っ青になってガタガタ震え出して……。極めつけは大王様がお婆様に…その、殴殺されそうになったところを目撃して……。」
「いやいやいや、殺そうなんて……。」
………………。
んーー?あん時は目の前が真っ赤になって………………。
「してたかも……。」
「えっ、えっ?!!何があったの何があったの?!」
膝に乗ってくるカーラー。
「あーーー、あの子を〆た話はちょっと後になるからまたにして、マーヒのおじいちゃんと初対面の時がちょうど前の話の続きだから、そこから話してやろうかね。」
「お婆様には世界に冠たる大王様でもまだまだ『あの子』なのですね。」
「そりゃ、120を超えても息子だしね。」
--------------------------------------------------------
「むーー。」
朝6時を告げる点鐘で目が覚めた。
ベッドで一つ伸びをする。
「おはよー。」
階下の食堂へ入るとマティアスとウーヴェがコーヒーを飲んでいた。
「もう迎えの端艇が来てるぞ。」
丸窓から揺れている端艇が見える。荷物を積み込んでいる途中みたいだ。
「え?朝ごはん…。」
「食べてる間はねぇな。昨日用意してあった荷物はもう積み込んである。さて、行くぞ。」
どうやら予定より1時間早く到着してしまったようだ。
仕方がない。パンと牛乳を口に放り込むと、上甲板に出る。
大河の下流だからうねりも無ければ波も大きくない。船が動いていないとほとんど揺れないのでラダーで端艇に降りる。
「お願いします。」
艇長に挨拶すると、4人が櫓を船の側板を突いて離船する。
マティアスに頭を下げると、敬礼を返してきた。
端艇が離れていくと船は逆方向の港へ接舷するべく動き出した。
大河から15分程支流を遡上すると、ウーヴェの屋敷が見え始めた。
「おー、さすが油圧ショベル。もうポンドが形になってるな。」
確かに出た時はまだちょっとした池ぐらいの大きさのポンドが今や縦横50m位の船着き場が出来ていた。
「フレイ様の発明です。100人分の、仕事する、です。」
誇らしいです。
「おう。老人には力仕事はつれぇからな。婆様連中がレバー一つでポンドの石を浚えるのは人手不足のウチにはありがてぇ。」
言ってる間に白い煙と黒い煙を吐きながら大きなショベル船がポンドの下にある岩砂を浚って運搬船に積み込んでいく。
「フレイ様の仰るには原油とかが見つかればディーゼルエンジンが作れるようになるって言ってました。」
「ディーゼ?蒸気機関の発展型か?」
「蒸気機関は外燃機関、ディーゼルエンジンは内燃機関だから根本的に違うって。…大きさが5分の1で、スピードが3倍くらいにはなるそうです。」
他にもエンジンをこまめに止めることが出来るようになるとか何とか……。
「へー、つっても何だか分かんね。ま、もっと便利になるってこったろ。」
実は私も良く分からない。
ぽーーー!!
ショベルを操作してるお婆ちゃんが警笛を鳴らした。端艇が入って来たのを他の作業船に知らせる注意喚起信号みたい。
ついでに手を振ってきたので振り返す。
「おう、皆ご苦労。王都土産買ってきたから朝飯にしようぜ!」
お土産を両手に作業員全員に声をかけるウーヴェ。
「爺ちゃん、私は……。」
「おう、早く坊主に会いてぇんだろ。早く行ってやんな。」
ペコリと頭を下げ、リュックと手提げ袋を三つ程抱えて私は家に向かって走り出した。
家を出てまだ1週間も経っていないけど、早く家に帰りたい。
知らず知らずのうちに駆け足になる。
お土産、皆喜んでくれるかな、なんてこの時は考えながら………。
久し振りの我が家に近づいて来る。
と………。
何やら喧騒が聞こえてきた。何だか不穏な空気が…。
私は少し走る速度を上げた。
そして…。
「びゃぁぁぁ………………。」
悲鳴と共に、家の窓を破って飛んできたのは……。
「琴!!」
地面に叩き付けられる前に琴音が落ちる場所に土産を放り投げた。
「ぶびゃっ!!」
土産の上でバウンドして跳ね上がったところを私が受け止める。
「何事?!」
「え?あ!う!」
「これは何事なの、琴?!」
琴音はまだパニック状態であうあう言っている。
「琴音!!」
家からフレイ様と御方を守るように繭華とユリが姿を現す。
「ミイ!!」
飛んできた琴音を私が受け止めたのを見て安心したのか、フレイ様は膝から崩れ落ちた。直ぐに繭華とユリが肩を支える。
「マユ、ユリ、何事?!」
思いのほか低い声が出たのか、琴音の方がビクッとなる。
「それが…。」
繭華とユリは家の方を見る。
家の中からミノタウロス族の男共が5~6人。
あんな小さな家に身長2mを軽く超える連中が入っていたのか……。
と、武蔵が二人のミノタウロス族に押さえつけられて蹴り飛ばされた。
「ぐべっ!」
地べたに顔から突っ込む武蔵。
「マユ、何が起こってるの?」
「それが、私達も要領を得ないのだけれど…。いきなり連中が来て、私達の家と田畑を寄越せって……。」
「寄越せって言うか貰ってやるって宣ってたわよ、連中!」
ユリが吐き捨てるように補足。
「どういう事?」
実際に家に居た彼等が訳分からないのだから私にはチンプンカンプンだ。
「武蔵!大丈夫?」
「す、済みませぬ…。」
フレイ様がまだ起き上がれない武蔵の肩を支え起こす。
「さて、お前等、こんなあばら家じゃ俺等は住めんからな、叩き壊すぞ。」
んー……。
……………はぁ?!!
「やめろっ!お前等!!」
大きな槌のようなものを振り上げたミノタウロス族の一人の腰辺りを引っ張るフレイ様。
「邪魔だ!」
フレイ様を振り払うのがスローモーションで…………………。
真っ先に反応していたユリが倒れ込むフレイ様の下に入って受け止めた。
…………………。
ブッッチン!!
思うより先に身体が動いていた。
フレイ様はユリが倒れる前に受け止めた。
なら私はそのまま咎人に…、
ゴキョ!!
思いっきり回し蹴りをぶちかました。
普通に前蹴りすると家に突っ込んで大惨事になると、そこだけ冷静な部分が残っていたようだ。
家に対して真横方向にぶっ飛んだミノタウロス族の男が木に衝突してその衝撃で木が倒れる。
「……………………。」
ミノタウロス族の男共が唖然と私を見る。
「小娘、同じミノタウロス族だからと許されるっブボッ!」
雑音を作り出していた男の鳩尾に一撃。
だばだば胃液をぶちまける男。
この場が“しーん”となる。
「あのー、フレイ様、こいつ等、殺しちゃって良いです?」
「ダメ!殺しちゃ何だかダメな気がする。」
答えるフレイ様。
見ればいつの間にか、周りを5~60人に片翼包囲されていた。
「と、フレイ様が仰るので、お前等を半殺しに、する!今から!!!」
「「「………………?」」」
しばしの沈黙。
「…は、はは……。」
「ははっ…、。」
「「「「「ワハハハハハ………。」」」」」
誰かがこらえきれずに笑い出したのか、その場が爆笑に包まれる。
「お前、ジャシ種だろ?ここに居る50人を相手に半殺し?油断した二人をたまたま伸したくらいで調子に乗るなよ。ガキ!!」
不用心に伸ばしてきた男の手を掴む。
「む?」
相手は3mオーバーの大男。そのまま力比べになるが、どうやら私の方が上だ。
「うんぬぅ!」
大男は力を入れる為か、ちょっと足を少し上げたので送り足払い。
ステンと転がる大男。
「あ、あれ?」
ゴキョ!!
「ぐぁっ!」
ついでに掴んでいた側の肩の関節外してやった。
「おいおい、あまり遊んでるな。早くここに皆が住める屋敷を建てるんだからよ。」
別の男が私に手を伸ばしてくる。
だから手を無造作に出せば…。
ゴキュ!!
「え?」
男の肘から上がプランと垂れ下がる。
まあ、つまり、肘関節はずしたった。
「あがぁぁぁ…………。」
4人、戦闘不能になってるのに周りはまだ気付いていないようだ。
「こん、ガキがー!!」
今度の男は飛び掛かって来た。
私の前でジャンプするとか…。
素早く間合いを詰める。自分で投げられやすいようにしてくれるとか、バカだ、やだー。
男の目には今、空が映っているだろう。
落としどころは、岩の上。当たり所が悪ければ自重で背骨が折れる。
ボゴキャ!!
「かはっ…はっ!」
どうやら折れたのはろっ骨数本みたいだ。運のいい奴。それでも肺の空気が自重で押し出されて呼吸困難になってる。
「お前等、ジャシ種の小娘に何を手間取っている?!」
「アグバ様!!」
「お前は少しやりすぎた。命までは取らんが半身不随位は覚悟せよ。」
現れたのは2.5m位の男だった。この中では最も強そうだ。
アグバとやらは巨大な拳を打ち下ろしてきた。
ペイン…。
衝撃波が周りに伝播する。
「「「「「……………。」」」」」
小娘が潰される。
敵の全員がそう思っていたはず。
でも、
小さな掌一つがアグバの大きな拳を受け止めていた。
「は、はは…。ア、アグバ様、冗談は止してくださいよ。」
「…ぐぐぐ。」
アグバは顔を真っ赤にして圧してくる。しかしびくともしない。
それにしても体格差がありすぎるんだよね。
私はまずアグバの膝に蹴りを一つ。
バキ!!
膝関節が横方向へ曲がった。
「ぐぁっ!!」
たまらず倒れ込むアグバ。
うん。これなら私の拳も奴の頭に届く。
ゴキ!!
目の前に来た顎に向けてフックを一発。とりあえず仰向けに転がす。
ガキ!ボグ!ゴッ!
座りのいい場所を選んでまたがり、タコ殴り。
ガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッ…………………。
奴等は何が起こってるのか理解できなかったろう。その間にもアグバの顔は鼻と口から噴き出る血で赤く染め上げられ、倍に腫れ上がっていく。
最初の一撃で既に気を失っていたのでガードも出来ていない。
しかし、殺さないように殴るのって難しい…。
「やめろっ!」
状況を理解した一人が飛び掛かって来た。
大きいのは大きいなりに、小さい相手はやりにくいのだろう。前かがみの不安定な体勢。投げてくれって体勢だ。
拳を避けるとつんのめってきた顔があったので頭を両手で掴んでひねる。
力で対抗していたら首が折れるか外れていたろう。力を入れてなかったことが幸運したが、その代償で、大きな身体が半回転。
目標をこいつに変える。
ボグボグボグ…。
「いぎゃぎゃや、やめっ●×▲□~~。」
ヒュッ!
後ろから飛んできた石を頭をひねって避ける。
ゴオオオオオ……!
飛んできた方に向けて火炎旋風を吐いた。
「「ギャァアア……。」」
2~3人が火だるまになって転がる。熱線砲では死んでしまうけど、あの程度の火炎旋風なら火傷で済むだろう。
何人かで上着を脱いで叩いて火を消している。
そして、今度は誰も止められなかった。炎の攻撃も行動を躊躇させる。
腕で頭をガードするが構わない。その上から顔面をただただ殴る。
ボグボグボグボグボグボグボグボグボグボグボグボグ…。
男の声にならない悲鳴と打撃音。
多分もう奴の腕は粉砕骨折しているだろう。
でも殴るのやめない。
ようやく、自分達の前に居るのが怒らせてはいけない存在だったのが分かったようだ。
「あ、や、やめ…。」
「あ゛?私を半身不随にするんだろ?やってみせろ。」
言った女をひと睨みするとズザと後退る。
その間にも手は止めない。
「私達が悪かった、です。すみません、止めて下さい!彼が死んでしまいます!!」
「んー?やめてって言ったからハイ、止めてあげますって?
それはちょーっとムシが良すぎると、思わない?少なくともこいつ等半身不随にしても私、責められる筋合いなくない?」
「あ、………それは…。謝る、…りますから……。」
「謝る?!謝ったら許されると?平和に暮らしていた人に突然襲い掛かって奪おうとして、でも謝ったらすべてが無かったことになるって?」
「その、すみませんでした。」
女がこれだけ懇願していると言うのに、さっきまでゲラゲラ笑っていた野郎共が青い顔でオロオロするばかり。
「ここに来て、私達の様子を見定めて、弱い人間達だと思った。だったら殴って言う事聞かせよう。で、お前等は私達に襲い掛かって来た。違うか?」
とりあえず気を失った男は放り投げて女に向かい合う。
「………違いません。」
ミノタウロス族らしいデカイ女だ。身長210cmくらいある。
「我等を弱いと侮った。ところがそうではなかった。弱くはなかった。敵わないのだと分かった。」
「は、い。その通りです。」
「そして今、お前等は手痛い反撃を食らっている。」
「………はい。」
「さて、ここの領主、グリンマ男爵は『賊は皆殺し』を良しとするお方だ。」
「そればかりは…なにとぞお許しを……。」
「お前達がやろうとしたことだろう?私達がやり返すのは許さないって?お前達は許せって?何てご都合主義だ?!」
「……。」
今までこんなシチュエーションにはなったことが無いのだろう。言葉を失う女。
「戦争は始めるのは簡単でも、終えるのは難しいって師匠が言ってた。」
「それは、その……。」
戦争は始まってしまった。
「戦力を見誤った侵略者はみじめだなぁ。」
「……………………。」
「……我が神様が殺すことを厭われる。だから全員半殺す。安心しろ。殺しはしないから。」
「お慈悲を、…せ、せめて子供達だけは……。」
子供達……?
奥の方で何人か木々に隠れている。ミノタウロス族だけでもないようだ。伏兵かと思ってた。
子供達を連れているって事は……。
「何だ?夜逃げでもして来たのか?」
「はい。今までの土地を戦争で失い、逃げて来ました。だからここを…、で……。」
「戦争で強い奴等に敵わず逃げて、土地を失った。そして弱そうな連中が豊かな暮らしをしていた。一から畑を作るのは手間なので立場を変えて奪おうとした、か。やっぱり半殺しだな。」
侵略してきておいて今更被害者ヅラされても…。今欲しいものは分かるけど、失言だったのは分かるけど、けれどもやっぱりカチンとくるんだ。こういうのは。
「ち、ちがっ、ごめっ……。」
さて、最初の奴を再度殴ろうと振り上げた手に子供がしがみついた。ガタガタ震えて、ついでにお漏らし。どうやら殴られる奴の子供らしい。
『吸い込まれそうな黒い瞳で覗かれた時、あの世に連れていかれると思った。僕等は汚い手で神に触れてしまったんだ。』この後に彼が震えながらそう言っていたそうだ。
でも神は私じゃない。神はフレイ様。
「ミイ、もう充分でしょ。」
繭華が辺りを見回す。
全員がガタガタ震えて土下座していた。
「ミイ様、すっげー饒舌だった。普段のおっとり口調は何で?普通はブチ切れたらボキャブラリー貧相になるもんだけど。」
と、ユリ。
何でって、何でだろう?
「…か、ま、…………様。」
ん?
「カーマ…、デーヌ様…。」
「カーマ…、デーヌ様?」
「カーマデーヌ様だ…。」
「カーマデーヌ様。」
何か言ってる。
「お許しください、カーマデーヌ様!!」
別の女の声。
「カーマデーヌって誰?」
「我等の国で崇められている女神の御名です。我等の遠い祖先と伝えられています。」
ガタガタ震えながら地面に頭をこすり付けたまま言う女。
どうやら神話を彷彿するような状況だったらしい。
さて、大男が向かってくるなら潰してやれるんだけど………。
「あれ?私達、被害者のはずよね?」
うん。なんか、もうコレ、どうしよう?
「神様?」
どうするの、とフレイ様を伺う。
「だから神様は止めなさいって。
この状況で踏みつぶせとは言えないよね。まあ、反省しているようだし…、高い代償も支払ったし、許してあげようよ。…ね。
あと、琴、この人の腕、あとで治してあげて。」
粉砕骨折じゃ自然治癒はしないから。
「はーい。」
投げ飛ばされた事を怨みもせずに…、ええ子や…。
ここで、ミノタウロス族達は私が無条件で従う少年、フレイ様に目を向ける。
鬼神の如く暴れ回った娘が神と呼ぶ。彼は娘より上位の存在?と。
そんな神様に無礼を働いていた…。
「「「「どうか、お許しを…。」」」」
「「「どうか、どうか…お慈悲を。」」」
今度はフレイ様に向けて拝み始めた。
…遅いんだよ。まったく。
「さて、少し話を聞かせてもらおうかな。」
フレイ様が土下座している者の前に出る。
「「お許しをお許しを……。」」
しかしフレイ様の言葉に返って来た言葉はただただ許しを請うもの。
「「「お許しをどうか…。」」」
話にならなかった。もう全員がこんな調子で。あれ?全員壊れた?
「やりすぎたとは思わないけれど…。事態は結局前に進まなくなったね。」
繭華が肩をすくめる。
「いっそ一晩このままにでもしとこうか。反省がてらさ。」
「さすがに鬱陶しいわ。」
冗談とも本気とも取れないユリの言葉に苦笑して返す繭華。
本当に、どう収拾したもんか?
思っていると、馬の蹄の音。
「しばらく!しばらく!!」
現れたのは包帯だらけのアニタだった。
「マヤ姫の名代として罷りこしました!」
アニタはまだ安静にしていないといけないのに馬から飛び降りるとフレイ様に頭を下げる。
「どうか、お怒りをお静め下され。我等の大恩人に非礼の数々、我の首でどうか。怒りを収めて下され!」
「首?ちょっと待ってちょっと待って、落ち着きなさいって。怒ってない…、もう怒ってないから。もう代償は払ったから。」
膝まづくアニタを立たせるフレイ様。
「お許しいただけるので?」
何故か皆私を見る。
「ともかく、彼等全員をグリンマ男爵の館に移送させましょう。恐怖が伝染してるから。」
少なくとも子供達は私から遠ざける必要があると思ったようだ。
「そ、そうだね。武蔵、お願い出来る?アニタには事態の説明をしてもらわないといけないから。」
アニタは事情説明の為率いて行けない。
ユリは多分反発する。無礼を働いた連中を小一時間率いて行かないといけないのだから。
こういう時はいつも貧乏くじな武蔵。
「承知しました。」
溜息も飲み込んで優雅に一礼する武蔵であった。
「話は姫様が生存していること、そして百~千単位で人を受け入れる交渉が成った事を彼等のリーダーであるアグバに連絡を入れた所から始まります。」
アニタとリーダー代理の女、シュミがフレイ様の前で床に正座して話し始める。
「ミノタウロス族を選んで呼んだのは土木、農作業に定評のある民を優先的にと言うグリンマ様とリッテン様のご要望に沿うためだったのです。」
「ですが私達は…。」
と、続けるシュミ。
「亡国では特権階級だった私達は…、勘違いしたのです。相応の待遇が用意されているのだろうと……。」
言って私の方をビクビク見る。
「何で最初に領主であるグリンマ男爵の所に行かなかったの?河を下って、運河を遡れば簡単に迷わず行けたのに。」
繭華が代表して質問する。
「お金がなかったのです…………。後一か月…姫からの連絡が無ければ、我々は……。」
死者を出すほど、相当苦しんだみたいだ。だからと言って彼等の暴挙を許せるものではないけれど。
シュミは少し声色を戻して続ける。
「我々は数ある人種の中でも力の強い一族です。……港々で我々は荷物の積み下ろしのバイトで船賃と食費をねん出して、何とか順調にブリュッケンハイムまでたどり着きました。」
「ここから50km位の港町ね?」
「はい。そこでも旅費を稼ごうと河岸事務所に行ったところ…。奴等が居たんです。」
「奴等?」
「カカラ族です。」
「「「ああ……。」」」
誰ともなく溜息。
「始めは奴等だと分からなくて、役人に私達の事情を説明していたのを盗み聞きされて……。言葉巧みに近寄ってきて、危うく奴隷契約書にサインさせられそうに……。」
何なの?奴等は弱い者、困っている者を見ると美味しそうとか見えるの?
…見えるんだろうな。
「故国の怨敵でもあり、一触即発の事態になりましたが…。私達は異邦人。迷惑をかけるわけにはいかなかったので。冷静だった者で激昂している者を抑えながらその場を去ろうとしました。」
「したけれど、船を抑えられた…、とか?」
頷くシュミ。
「はい。私達は陸路を行くしかなくなりました。それだけではありません。以降我々は奴等にタカられて逃げてを繰り返して……。」
バン!!
「まさかっ!ここを嗅ぎつけられたりして無いでしょうね!!?もしマヤ姫がここに居る事が連中にバレたら……。」
机を叩いて立ち上がる繭華。シュミがビクッと肩をすくめる。
「マユ。」
フレイ様がなだめるように繭華の両肩を押さえて座らせる。
「奴等をまく為にこの森に入った段階で近くには居ませんでした……。」
あー、それで森に入ったのか…。川の取水口辺りからたどってウチを発見したってところか……。
「森から行ける場所は広大だからこそ限られている。しかも船を使った目的地。これ、数年もすれば奴等は紛れ込んでくるね。予想より10年早く。」
天を仰ぐ繭華。
「そうだね。でも入った人間を不当に追い払う事は出来ないし、何々族だからという理由で商売禁止なんてできない。」
フレイ様は苦笑している。
「奴等は…。」
と拳を握りしめて言うのはアニタ。
「我等を裏切り、王を売りました。お優しい姫様でも今回ばかりは受け入れる事はありませぬ!」
「そうかな?」
断言するアニタに疑問を呈する繭華。
「彼等は言うよ。マハバラタ王国の臣民を見捨てるのか?って。」
「しかし奴等は裏切り者で……。」
「全員がそうではない、むしろ裏切り者の中にカカラ族の者が居ただけだって言うだろうね。」
「………………。」
「奴等は99のウソの中にひとつだけ真実を混ぜる。我々が否定した時点で罠にはまる。」
項垂れるアニタ。彼女は既に奴等の手管を知っている。知っていてもやり込められる。恥を恥とも思わない、思考が180度違うのだから。
「多分、マヤ姫には斬り捨てるのは無理だよ。逆に簡単に切り捨てられるようだったらマヤ姫の魅力が半減する、かな?
…だから、君は…君が極力マヤ姫に悪意を近づけないようにするしかない。」
分かるね、と、フレイ様。
「……………はい。」
しばしの沈黙の後、決意したアニタはコクリと力強く頷いた。
「さて、今更だけど、お帰り、だったね、ミイ。」
そうだった。
「ただいま。」
どさまぎでフレイ様に抱き着く。
「王都はどうだった?」
「………えーと、…爺ちゃんが王様とケンカして来た。」
「…おー、何か不穏な……。とりあえず家、入ろうか。皆も入って。栗きんとんがあるから渋いお茶を淹れるよ。」
さてと、何から話したものやら……。
--------------------------------------------------------
「ふーん。そんなわけで爺様達はお婆ちゃんを怖がってるんだ。」
カーラーののほほんな声。
「さて、どうなんだろうね?」
「でも結局ミノタウロス族は皆お婆ちゃんの配下に編入されたんでしょ?」
「あー、まあね。ヘタに軍人教育するより手っ取り早いってね。歯向かいそうな連中を手っ取り早く叩きのめしたのが、ちょうど良いって。」
あの後、全員口答えすらしなくなって、それはそれで寂しいものがあった。
「でもこの結束があって、その後の騒動を上手く切り抜けることが出来たんだよね。」
「この後、戦争?」
男の子だね。ワクワクして聞いて来る。
「うん。千単位の戦争。最初の入植者が大活躍する戦い。でもこの話は次だね。」
「えーーー!」
「これっ!!」
マーヒがペシンとカーラーの頭を叩く。
「私の心臓にも悪いんだから。」
まあ分かるわ。自分のお爺ちゃん達がボコボコにされた話なんて聞きたくも無いだろうね。
でも戦争の話では逆に彼等が活躍する話なんだけどね。
マーヒは戦争の話を好まないのか、カーラーの耳を引っ張りながら部屋を出て行った。
「余裕が無い中で、ご馳走があれば、仕方ないのかもしれない。
それに、彼等には悪意はなかったんだよね。この後に現れる連中と違って。」




