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ミレイおばあちゃんの配下 続2

ミレイおばあちゃんの配下 2



「では、昨日の続きを話すかね。」

 何だか何人か増えてるけど、まあ良いか。

「マヤ姫の滞在許可を取りに行ったハズだったんだけど、本来の目的はあっさり決まっちゃって。でも違った事でちょっと大騒ぎになってねぇ…。」


---------------------------------------------------------------------


「あー、くそ痛ってぇ…。」

 ミイラ、とまではいかないが腕、足に包帯でぐるぐるなウーヴェ。

 3日前に眼帯は外れた。視界はまだぼやけているという事だが。

「痛いなら麻雀してないで、寝てたらどうです?」

 接待麻雀も楽じゃないし。琴音に渡された痛み止めを苦いから嫌って……。子供か?!

「ミレイ嬢の言う通りだ。まったく。」

 言いつつもマティアスは麻雀を止める気は無い。


 王都へ向かう船の中。初めのうちははしゃいで外を杖ついて歩き回っていたウーヴェだが、直ぐに飽きて麻雀大会が始まっていた。

 面子はウーヴェ、マティアス、マティアスの部下と私の4人。

 繭華や琴音は本体から離れられないから彼等に同道したのは私だけ。

「術後の2週間はずっとベッドの上だったんだぜ。寝飽きた。3日位貫徹してぇ位ぇだ。

 あ、南、ポン。」

「まったく。…で、どうなんだ?新しい手足はちゃんと動くのか?」

「ああ、動くぜ。始めの頃ぁ人差し指つねったら親指が痛かったりしたんだが…、だんだん正常な場所に感覚が戻ってらぁ。いずれ戦場にも戻れるだろうよ。」

「そうか。それは幸か不幸なのか、微妙なところだな。」

 マティアスは淡々と言ったつもりだったのだろうけど、頬がぴくぴくと…。まあ、嬉しいんだろうな。


「幸か不幸かで思い出した…。話は変わるんだが、お前さんの所にも教会から打診が来なかったか?」

「ん?ああ、孤児を受け入れてくれってか?何人か跡取りのいねぇ老夫婦の所とかに行ってもらってんよ。今は何処でも余裕が出来て、ついでに人手不足ときてるからな。」

 自模牌を見ながら唇をへの字にするウーヴェ。

「ああ。人が増えるのは望むところ。就労年齢になるまでの先行投資としても、願ったり叶ったりではあるんだ……。」

「しっかし俺等が裕福になってきたら、とたんに面倒見ろって、まあ腹立つ。こっちが困ってる時は一切の援助もねぇのによ。」

「まあ元々教会の末端は清貧だからな。援助どころじゃないだろう。例の奴等を除いて。」

 敬虔な信徒はここの乗組員にも何人も居るからその辺をぼかすマティアス。

「しかし、連中、金への嗅覚は凄いものだ。こっちが受け入れられるギリギリを攻めて来た。」

 マティアスの領には元々孤児院付属の教会が2堂ある。今回、さらに倍に増やせと教会本部からお達しがあったらしい。

「こっちの情報を掴んでるってぇ事だな。あの美人シスター、もしかしてスパイだったり?」

「だったら追い出せば良いです。あんなエセシスター。」

 あいつ…シスターのクセにやたら色っぽいんだよね…。……フレイ様にも色目使って……嫌いだ。

「おいおい嬢ちゃん、いつになく辛辣だねぇ。が、証拠もねぇのに罰したり拘留したら終わるぜ。めでたく独裁国、ならず者国家デビューでぇ。」

「怪しい動きは良くしてます。追放するべきです。」

「…尻尾を掴んだなら直ぐにでもそうするが…。疑わしきを罰したりしたら内外の信用を失う。3流4流国家に成り下がる。一回で失った信用を取り戻すのは10年、20年では不可能。最悪、国が滅びるまで後ろ指を指される事になる。

 後始末も大変だ。冤罪を認めなかったり、違法捜査をしていたり、権力者が醜聞を握りつぶそうとすれば、その刃は必ず自らに襲い掛かってくる。

 うかつなことは出来んよ。」

「むーー。」

 難しすぎて何言ってるか分からなかった。でも理路整然とダメと言われた事は分かった。

「それに、他にも怪しい輩はたくさんいるしな。あの娘はちょっと忍んでる感じがしねぇ。頭が良いのに、…こっちが目を光らせているのを理解しているに関わらす、だ。もしかしたら囮かもしれねぇ。他の勢力と争っているのかもしれねぇし、罠の線もある。

 あーくそ!考えるのもめんどくせぇこった。」

「………役人の中にも悪意無く漏らしているのが居るかも知れないしな。注意はさせている。……の、だが…。」

「こういうのは疑い出したらキリがねぇ。隣の人間も怪しく思えてくるからな。」



「問題はもう一つあるな。こういう手合いの中には必ず紛れてるもんだぜ。」

 カカラ族か。ホント、タダでさえ宗教がらみの複雑な事態を混沌にしてくれる。

「そうだな。宗教、民族の問題が二つ絡み合うと複雑さが倍々で増えて……。

 あ、自模った。五百オールだ。」

 マティアスが接待麻雀の基本のようなゴミ手。

「で、どうするよ?」

「ん?どうする?ああ、受け入れようと思っている。3歳になる前の………悪徳教育がしみ込む前の、本当の孤児から積極的に。」

「…………そうだな。子供に罪はねぇ。悪いのぁ、いつもゲスな大人だ。」

「そして孤児院、運営は市で行う。」

「ウチにはそこまでの余裕はねぇな。ボランティアを募ればシスターしか手を上げねぇよ。」

 男爵領ビュールンはようやっと赤字経営から抜けられるようになってきたところだ。

「教会は止めた方が良いな。」

 何故教会がダメなのか分からないで首を傾げたらマティアスが説明してくれる。

「孤児院が教会経営になり、領主からのコントロールが効かなくなる。結果、悪徳教育を受けた子供が入って来る。教育し直すにも、その労苦は計り知れん。1人を救う代わりに3~5人位の子供を見捨てなければいけなくなる事もあるだろう。」

「労力を必要とするなら、冷徹に計算する……。為政者であるなら、切らなきゃなんねぇ。」

 ………。

 為政者なら、夢見がちな事ばかり言ってはいられない。1を切る事で2を救えるなら、冷徹に1を切る決断をしないといけない。淡々と告げるマティアス。


「ただ先日、一つ成功例があったんだ。」

「ほう。」

「おととし教会から孤児院に引き取った男子を衛士に登用した。」

「おぉ。そりゃ重畳ってなもんだっ。大成功じゃねぇか。」

 衛士。騎士とまではいかないまでも、エリートコースだ。

「しかしそこへ、ひとかどになった彼を自分の生き別れの息子だ、とぬかすゲスが現れてな…。何族とは言わんが…。」

 まあ言ってるようなもんだ。

「成功例じゃねぇじゃねぇか!最悪だ!」

「そ奴、攫われた息子だとかぬかして大騒ぎしてな…。…高給取りになったとたん見つけ出すだとか、どんな偶然なんだよ!!ふざけんな!!」

 乱暴に牌をかき混ぜるマティアス。

「旦那様。」

 今まで大人しくしていたマティアスの部下から声がかかる。

「お、………おう。」

 コホンと咳払い。しばらくチャッチャッと牌を積む音。

「それで、どう処理したんだ?」

「衛士になれる程の優秀な子だ。彼がそいつらに証拠を示してくれと……。例えば自分の身体にある特徴的なホクロの位置とか文様とか、親なら知ってるはずだと言ってな……。」

「奴等は知らなかった、と。」

 頷くマティアス。

「期待はしていたみたいだ。本当の親なら、と。」

「気持ちは分かる!」

 本当の親である事に一縷の望み……。それが破られる事がどんなに残酷か…。

「期待は裏切られた。」

「最悪だ!ああ、もう、最悪だ!!配牌も最悪だ!!!」

「それでも見苦しいまでにごねやがって。だんだん論理が破たんしてくるからいよいよ逮捕しようか思ったら、そう言う気配を察知するのは達人級だ。」

「ああ。騒いで喉が痛くなったからちょっと水を飲んでくるとか言って消えるんだろ?」

 ウーヴェも経験済みのようだ。


「まったく………。

 まあ、その時はだまされなかったが、…毎回そう上手くいくとは限らん。それに浅からぬ傷を受けたはずだ……。

 別に孤児等が幸せになるのであれば私も文句は無い。だがそういう手合いは絶対子供にたかるごく潰しになる。寄生虫のように栄養を吸い取られた挙句、借金を背負わされて逐電、とかな。」

 おお、具体的。なんか、目に見えるようだわ。

「紛れ込んでくるのは選別不可能だし、そもそも子供達自体に罪は無い。」

「………しかし母数が増えれば色んなケースが増えてくるからなあ。」

「……去年、ハンドルフに住み着こうとした例の奴等が居た。ごみ捨てのルールで近所のおばちゃんといさかいになって、早めに気付くことが出来た。」

 危なかったと汗をぬぐうしぐさをするマティアス。

「奴等なんでそういう悪知恵だけは働くんだろな?」

「どうやって紐を根絶するか、仕組みを考えねばな。それでも、やはり数が増えれば見逃しも増えるだろう。」

「バッタとか流行り病ならまだ鎮静化できるが…。」

「ああ。地下茎の雑草とか…、呪いの類だありゃ。国が滅びるまで蔓延る。」

 大きくため息をつく二人であった。


「閣下、失礼します。」

 と、カーテンの向こうからノックと声。

「何だ?」

「まもなく王都水域に到達します。伝馬船を下ろしますので、上陸準備願います。」

 サロンに入って来た士官が敬礼して告げる。

「おう、早いな。領を発ってまだ30時間も経ってないのに。」

「世界最高速船でありますから。」

 士官は誇らしそうに言う。

「伝馬船に馬車と馬は乗るのか?」

「一度ではさすがに無理です。護衛騎士団の馬もありますし。伝馬船2艘でポンツーンを曳航してきます。」

「そうか。よろしく頼む。」

 と、マティアスの言葉が終わる前に汽笛が空気を震わせた。

「どうした?」

「恐らく漁船でも本船の前を横切ったのでしょう。海の試験航行でも帆船が本船の前をよく横切りました。」

 汽笛はどうやら注意喚起信号のようだった。


 上甲板へ出ると、その漁船がちょうど本船の真横に来ていた。

「おーい。マティアス!ウーヴェ!」

 小さな漁船から二人を呼ぶ声。

「おいおい、城で待ってろよ、フランツ。」

 ギブスで固められた手を手すりに引っ掛けて片手で杖を振るウーヴェ。

「フランツ?…お知り合いです?」

「ああ。フランツ先王陛下。我々の親友だ。」

 首を傾げる私に答えるのはマティアス。

「その先王様が何故あんな……。」

 古い帆掛け船。

 目的地が近くて減速したこの船が曳く小さな波であるのに今にも転覆しそうだ。

「待てなかったんだろう。」

 ここから城までの半日が待てなかった、と。

「おーい、嬢ちゃん。舷梯下ろすから引き上げてくれや。」

「はい。」

 先王様が舷梯に足を掛けたところで、引っ張り上げる。身長180、体重70~80㎏位だろうか?王族なのにがっしりしてる人だ。

「おう、ちっさいのに凄い膂力だな、お前んところの奴隷は。」

 先王様が乗り込んできた。

「奴隷じゃねえよ。俺んとこの秘蔵っ子の一人だぜ。軍服着てるだろうが。」

 10人しかいないビュールン騎士団。その制服は黒を基調として黄色のラインが入っているメラニー婆ちゃん渾身の作。割と気に入ってる。

「おう、それはすまんかった。」

「俺の戦闘技術を叩き込んだから、強ぇえぞ。今開発中の鎧を着たら、恐らく王国騎士団なら一人で壊滅させるぜ。」

「おいおい、いくらミノタウロス族っても、こんな小さい娘が落ちぶれたとはいえ大陸最強だった王国騎士団を……。」

「それが、冗談ではないんだな。」

 と、マティアス。

「実際私の騎士団が束でかかっても片手であしらう程だぞ。」

 それはさすがに言い過ぎ。ホラ、後ろで騎士さんが睨んでる……。

「そしてもう一人。私も秘蔵っ子に戦術戦略を伝授し始めている。

 彼女も凄い。敵将が並みなら3倍の兵力差くらいひっくり返すぞ。」

 繭華の事だ。

「マジか?どいつだ?」

「今日は連れてきていない。というか遠出は出来ない娘だから連れては来れない。」

「なんだよ。ぬか喜びさせやがって。だが、ま、着々と準備を進めてるみたいだな。良きかな良きかな。」

 準備?何の?

「ま、ミレイ嬢の実力なら、恐らく今晩位には見ることが出来ると思うよ。」

「お?何でだ?」

 ウーヴェだけでなく私も首を傾げる。

「現王ヴォルフガングなら多分、着いて早々我々を無理矢理呼びつけるだろ?」

「お?…おお。」

「そしたら十中八九、ウーヴェとケンカになる。」

「「ああ、なるな。」」

 二人ともうんうん頷いている。

「いや、爺ちゃん、アナタ今、貴族とは言え最下級の男爵だよね…。王様とケンカしないで。」

「大丈夫だ。ウーヴェにはケンカ御免の一筆がある。武器を振りかざさなければ王相手でも罪には問われん。」

「はぁ!?」

 前代未聞。

「俺も若かったころはイケイケだったからな!ウーヴェにぶっ飛ばされないと冷静になれなかったからな!!はっはっはっは!!」

 アナタのせいでしたか……。

「まあ、フランツとタイマンは安心して見てられたが……。」

「いや、安心て…。」

 常識人と思っていたがマティアス、お前もか?!

「ははっ。まあそれで二人でガス抜きが出来たんだ。実際それで何度か戦争が回避されてる。」

 それは……褒められることなのだろうか?

「だがヴォルフガングは部下をけしかけるタイプの王だ。」

「俺と違ってな。我が息子ながら情けない。」

 シャドーボクシングをするように拳を繰り出すフランツ。

「いや、むしろ王としてはヴォルフガング王の方が正解なんだぞ。今思っても前宰相殿とか気の毒だった…。

 で、まあ、そうなればウーヴェはこんな有様だし、ミレイ嬢が前に出るだろう。あとは……。」

 腕は吊ってるし、松葉杖突いてる。それでも普通の騎士位なら簡単にやっつけそうだけど…。

「ふむ。なるほどな。さもありなん。

 楽しみにしておるぞ。秘蔵っ子。」

 と、私の肩に手を置く先王様。

「はあ。」

 何と返事をしたものやら……。

「でも、やっちゃっても怒らないです?」

「殺さなけりゃ良いんだ。腕の一本あばらの十本、やってやれや!!」

 うんうんと3人衆が頷く。

「それよりマティアス、俺の腕時計フラスマイヤーは?!」

「おいおい、さすがに離宮謁見の間まで待って欲しいな。」

 どうやらこの人は相当せっかちのようだ。この世の終わりのような表情になってる。

「じゃないと私が手ぶらで陛下に会いに来た常識知らずになってしまうではないか。フローリア様に笑われる。」

「お前等ズルいぞ!二人ともカッコイイ腕時計して!俺だけ仲間外れかよ!!」

 髭のダンディオジサマがとても子供だ……。

「はぁ、全く。しばらくはこれで我慢してくれ。」

 言って渡したのはこの船の模型だった。

「おお!そうだそうそう、あまりに驚くことが連発して一番のビックリをスルーしてたぜ。元々、これを見るのが目的だったんだ。」

 目をキラキラさせてガラスケースに入っている模型を色々な角度から眺めるフランツ。全然驚いていたように見えなかったんだけど…。

「我ながらこの船は凄いぞ。今後、世界の物流がガラリと変わるぞ。」

「なぁ、俺にも1隻建造してくれね?」

 小難しいマティアスの話が始まりそうだったのを子供な欲求で遮るフランツ。

「1隻580億HMマルクだ。」

「ごひゃっ…、払えねぇー。今の国家予算の15%位じゃねぇか。お前んとこ、そんな金あんの?」

「無いよ。借金して造った。」

「だよなー。俺も引退しなきゃ多少無理したんだがな。」

「お前さんはそうやって諦めてくれるが…。若さん、ヴォルフガング王が恐らく無茶な要求をしてくるだろうな。」

 重い溜息をつくウーヴェとフランツ。

「接収するとか言い出すだろうな。」

「どうするんだ?」

 前後を考えなければ王はソレが出来る。現行法を捻じ曲げる事になるが…。

 分別があれば絶対しない事だ。が、その分別に疑問のある現王では……。

「1000億HMマルクで売ってやる、あるいは造ってやると言う。ああいう子供は渡さないというと躍起になるから、値段(現実)を突きつける。王なら不可能な値段ではない。」

「国民が塗炭の苦しみを味わうわけだが………。まあさすがにそれは俺が止める。止まらん時は………。」

 フランツの目に殺気が………。

 その場の雰囲気をウーヴェが次の言葉でガラリと変えた。

「そんときゃまあしょうがねぇ。ミレイ嬢がクソガキのケツを倍に腫れ上がるくれぇペンペンするから。」

 私がかぃ?!!


「それより、そんな事より本題だ!お姫様の件なんだが……。」

 ヤバイ方向に話が行ったので、ウーヴェが話題を変えてきた。

「おう!問題ねぇ!匿ってやれ!!」

「相変わらずの即決だな。」

「そりゃ手紙が着いてから十日位あったからな。

 それに、マティアスはもうこの現状を何とかする算段は立てているんだろ?」

 悪ガキだった表情から冷徹な政治家の顔になるフランツ。

「そりゃこっちも十日はあったし……。しかし、良いのか?」

「とりあえずはしらばっくれる。その後で何で我が国に居ると判断したか、それも奴等にとって最奥地であるビュールンに居ると言い張るのかつっつく。」

「つまりスパイを送り込んだのかと、非難の応酬をするわけだな。」

「ああ。」

「そうか。だったら3年、時間を貰えばありがたい。」

「3年で対抗手段を得られるのか?」

「ああ。」

 一地方が強大な国に対抗する手段を僅か3年でか…。頭良い人は何が見えてんだろ?

「王家が無くなるかもだけどな。」

「おい、マジか?!」

 あっけらかんと言うマティアスに、動揺するのはウーヴェ。

「ああ、構わん構わん。元々吹けば飛ぶような国を俺達で大国にしたんだ。パーッと咲いてパーッと散る。粋じゃねえか。」

 驚くのはウーヴェで、先王フランツの方はからっと言い放つ。

「まあ、国民は今より良い暮らしが出来るようになることは約束しよう。計画通りに行けば、だがな。」

 っま、こんなクセ者二人を使うのだからこの先王もタダ者じゃないって事だね。


「陛下!ポンツーンを接舷、舷梯を設置完了しました。いつでも上陸可能です。」

 そうこうしているうちに下船準備が整った。船長が敬礼して言う。

「ん。もう少し、乗り回してみたかったが、腕時計も早く欲しいし…。」

「ほらほら、降りるぞ。」

 マティアスに腕を引かれてフランツが舷梯を下りて行った。


 馬車をポンツーンに滑車を使って降ろしていた時、ちょっとした事故があった。

 ガゴン!!

 5人で引いていた滑車が外れて馬車が渡し板から落下、暴走を始める。

「アラーム!!」

 はじけ飛ぶ滑車。甲板上では2等航海士の怒鳴り声。


 馬車がちょうど私の目の前に転げ落ちて来たので、目の前に来た車輪を右手で掴み、左手で近くの係留索を掴む。

「むぅ。」

 ガガガ………。

 車輪とポンツーンの擦過音。

 徐々に馬車の向きが河に真っ逆さまコースから方向転換を始める。

 ガ・ガ・ゴ…。

「むー。」

 やがて馬車はポンツーンの上で静止する。

「おいおい、片手で馬車を制御しやがったぞこの小娘。この細腕で…、一体……この馬車何トンあるんだ?」

 車輪止めを掛けた後、少し驚いたように言うフランツ。

「言ったろ。騎士団を一人で壊滅させるってな。今見せたのはパワーと判断力だけだけどな。」

 ウーヴェのどや顔。

それはまた(ユンゲユンゲ)……。」


 と、慌てて船長が舷梯を降りてくるのをマティアスは手で大丈夫だと合図する。

「こちらは大丈夫だ。再発しないよう気を付けてくれ。」

「「はっ!!」」

 舷梯責任者の2等航海士と船長が敬礼する。

「今後、滑車掛けと確認を二名作業で行うよう徹底します!」

 すぐさま対応策を報告する2等航海士。

「うむ。」

「ミレイ嬢には感謝申し上げます。」

「ああ、伝えておく。二人とも持ち場へ戻ってケガ人の対処を頼む。」

 暴れた滑車が腕に当たって一人が骨折したがむしろこの程度のケガで済んで良かったとの事。



 さて、その晩。離宮でフローリア先王妃と謁見中、王から呼び出しがかかって……。


「えーと…。」

 はい、マティアスの予想通り、私、10人の騎士に囲まれました。

「男爵が豪語したんだぞ。そのどんミノチビが死んでも余を怨むでないぞ。」

 あらら、王様がそんな言葉知ってるんだ?

「えーと?」

「逆だよ、バッキャロウ!殺すなとは言ってあるが腕、アバラの2~3本、覚悟せいや!!」

 杖を振り回して暴れるウーヴェをマティアスに預ける。


 全員が剣を抜いた。

「……………………。」

 さて。

 私は尻尾を振って後ろをけん制する。

 剣の大きさからして一度に飛び掛かって来るのは4人位か…。

 まだ余裕、というか私をなめているのがまるわかり。だったら先手を取る。

 これだけ居ると、何人かが気が入っていなかったりするのが…。

 ……いた。

 その男、騎士1の目の前に体勢を低く、すり足で滑るように接近。

「!!?」

 兜で顔は見えないが驚愕で目を見開いてるのが見える。

 騎士1の腕を取り、肘関節を極めながら大外刈り。足を大きく刈られて男の身体が跳ね上がり、一回転。

 ゴキュ!

 あ、男の肩関節外れた。

「いがぁぁ……。」

 腕を押さえて転げまわる騎士1。

「先ずは1。」

 続いて左隣。再度腕を掴み引き込んでそのまま自らを横回転。柔道の外巻込みの要領で投げ飛ばす。フレイ様の国技らしい。

 勢いよく背中を叩き付け、身体が落ちる時に肘を入れる。

「がぼっ!」

 背中と鳩尾を打ち付けられ呼吸困難になる騎士2。

 追い打ちを掛けたら気絶した。……あっけない。

 続いて、真横から剣を振り下ろしてきた騎士3の手首を抑える。

 背負い投げ……に行くには身長差がありすぎたので巴投げにする。

 ガシャシャン!

 吹っ飛んだ騎士3は見ていた別の騎士二人を巻き込んで倒れ込む。

 と、3人程が一斉に飛び掛かって来た。巴投げで寝転がっている私を自重と鎧の重さで圧し潰す気らしい。大体一人100kg強、まあせいぜい350kgか。

 なので……。

「ば、バカな!!」

 三人を頭上でまとめて持ち上げてやる。そのまま立ち上がってペペペイと投げ捨てる。

 ドガシャン!

 …………………。

「き、貴様等!!精鋭騎士がどんミノ小娘一匹に何をやっておるか!!」

 怒声、というより王様、確実に狼狽しているのが声に出てるんだけど………。

「だーははは!アホウが!俺様の護衛だぜ!タダの娘なわけねーだろうが!!バーカバーカ!!」

「爺ちゃん、煽るな!ですよ。

 マティアス爺ちゃんも笑ってないで止めてー。」

 騎士4を首投げ、踏みつけて大腿骨を折る。続いて騎士5をカニバサミで膝の関節を外して悶絶させた。

「弓だ!クロスボウで狙い撃て!」

「し、しかし謁見の間で…、しかも無手の者相手に……。」

 王の命令にしかし騎士は逡巡する。

「王命だ!早くしろ!!」

 10人位の弓兵が現れた。

 ボシュ!

「うおぅ…。」

 弓は卑怯だみたいなこと言ってたのに頭狙ってきた…。

 とりあえず寝っ転がっている騎士からナイフを頂く。

 ナイフ投げはそれほど得意じゃないけど…。

「ぐぁっ!」

 弓兵だから手甲ではなく皮手袋。つまりナイフが突き刺さる。

 この30m位ならまあ何本か投げれば当たるわ。

 5人位が腕に刺さったナイフを引き抜いてゴロゴロ転げ回っている。

「ねぇ、爺ちゃんそろそろマズくない?!」

 正直この程度なら千人くらい投入されない限り大丈夫だけど、燃え広がったら戦争になっちゃう。

「わーははは!構ぃやしねぇ!千切って投げろ……。」

「それまで!!」

 火に油を投入しようとしたウーヴェの言葉を上書きしたのは綺麗な女性の声だった。

 さっき謁見の間で会話していた女性だった。

「フローリアちゃん……。」

「申し訳ありませんね、グリンマ卿。ウチの愚息が。」

 いたずらが見つかった子供のように明後日の方を見て口笛を吹くウーヴェ。

「ミレイ嬢もどうか矛を収めてくださいな。」

「仰せのままに。」

「いい子ね。本当にウーヴェの言う通り、一騎当千なのですね。」

 と、私の頭をなでなで……。

 いや、むしろ止めてくれてありがとうなんですけど…。

「母上、そんな下賤に触れるなどっ!しかもそ奴は下等種……。」

「貴賤など、愚かな……。」

 憐れむような声を出すフローリア。

「お前は今見た光景を何とも思わないのですか?彼女が一人で、しかも武器防具無しで我が騎士団を手玉に取ったのを。先王の時代ならその力に敬意を表したでしょうに。」

「ちっ、違っ…、我が国の騎士団は世界最強を誇ります!!こいつらが真面目に戦っていれば例えミノオートであっても勝ってたはずです!」

 ミノオート。力だけのミノタウロス族の事。しかしこの人、蔑称は詳しいなぁ。

「目の前で起こった、彼我の戦力差すら理解できないのですか?普通なら…、いえ、ミノタウロス族最強のバフム種であっても先程の騎士達で制圧できたでしょう。…例え油断していたとしてでも。しかし彼女はあっけなくその戦力差をひっくり返した。何故か分かりますか?」

「……………………。」

「彼女の使っていた技。あんな芸術、わたくしは見たことがありません。恐らく外国の戦闘技術でしょう。」

 外国ではなく神の国の御業です。

「自分の2~3倍の重量を投げ飛ばしているのに力を入れている素振りを見せていませんでした。本気を出していたら恐らくここに居る騎士団は全滅させられていたでしょう。如何ですかリッテン卿。」

「この間どころかこの城に居る騎士を総動員しても赤子の手をひねるように無力化するでしょうな。」

 と、マティアス。

 いや、赤子の手をひねるとか、怖くてできないですけど…。

「身内びいきだ!ありえん!!」

「さて、水掛け論になるので反論しませんが、では如何します?全騎士を投入しますかな?」

 シニカルに笑うマティアス。ほら、そんな顔するとヴォルフガング王が……。

「全騎士を招集せよ!!」

 ってなっちゃうでしょうが。

「愚か者。そもそもお前は何をしたいのです?」

「決まっています。牢屋にぶち込んで毎日百叩き…。」

「何の法に触れて、何の咎で拘留するというのです?」

「事もあろうに王に無礼を働いたのです!」

「無礼…という議論はまず置いておきましょう。それでも、グリンマ卿にはそれが許されている事をお前は知らないのですか?」

 まあ、ウーヴェの言い方はアレだとしても、言ってる事は的を射ている。

「………え?」

 後ろの金魚のフンらしき大臣とひそひそ話。

「そんなのは…父上となれ合って作った法など余には関係ない!無効だ!」

「愚かな…。そんなだからフランツの版図を3年で半減させる大失態を晒すのです。」

「……そ、それが今、何の関係が……。」

「忠臣の忠言を聞かず、佞臣の妄言を信じ込んだ結果、何が起きましたか?」

 歴史的大敗を喫しました。

「……………。」

 痛いところを突かれて黙り込むヴォルフガング王。

 謁見の間に居た他の貴族達も顔を見合わせてひそひそと……。

 貴族達も今の王国に思う事が無いわけない。言葉を間違えれば反乱もあり得る。

 手遅れだろうけど。………色々と。


「さって、俺の溜飲も下がったわ。フローリアちゃん、おいら領地に帰らぁ。」

「重ね重ね、迷惑を掛けましたね。」

「おう。帰ったらまたメラニーシュナイダーの服、贈るぜ。ズーザンちゃんの分もな。」

 ズーザン、フローリア付きのメイドだったかな?

「楽しみにしています。」


「ではフローリア様、私もお暇を。」

 と、丁寧に貴族の礼をするマティアス。

「マティアスも、これに呆れずまた来てくださいね。」

「ふむ…。フランツに会いには来ましょう。今度は鳩時計というカラクリ時計を献上しますよ。」

「鳩?」

「ま、お楽しみに。」

「さて、街で飲み直すぜ!フランツ!そこいるんだろ!Bar・アウフエントハルトで飲んでるからな!」


 ふむ。では私は街で皆にお土産を買っておくかな……。



---------------------------------------------------------------------




「まあ、こんなだったからシリアルナンバーの若い時計を寄越せとか、船を寄越せとか言われなくて済んだんだ。」

「バカ殿ならぬ、バカ王だね。」

 おおう、それはまた…。

「それでも、結構この王様は私に教えてくれたんだよねー。」

「えー?おばあちゃんに?うっそだぁ」

 苦笑してカーラーの頭を撫でる。

「反面教師だね。割とこういうトンデモ王とか大統領って、どこまで許されるかって試金石、貧乏くじを引いてくれるんだ。」

「ふーん…?」

「分かって無くて良いよ。今はね。」

 この子もいずれ大家族を率いて行かないといけない。


 いずれ理解するために。







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