潜入水神会編④「作戦開始」
それから数日後、志野川は縁側に座りどのように白金達に連絡を取るか考えていた。
ふと、庭先に目をやり、志野川はそれを見つけ目を丸くする
「それ」とは、白金が庭作業の格好をしてこちらを見ているのである。
白金はこちらに何か伝えようと合図をしているが、今は周りに他の組員の目がある。
この離れでは離れ以外の男性組員との接触は禁忌である。
実際に一度、離れの庭作業をしていた正堂の組員が少し離れの方を見ただけでウィスタリアが激怒しその組員を掴み正堂まで乗り込んでいったところを志野川は見ている。
その為、接触はできない。そう考え、志野川はその場を離れようとし後ろに向くと、
そこには怪訝な表情で庭先を見るウィスタリアの姿があった。
志野川の首筋に汗が流れる。
するとウィスタリアはおおきな歩幅で白金の方へ歩いていく。
「あっ」
ウィスタリアは白金の前に立ち鋭い眼光を向ける。
白金は初めて見るもう1人の女性幹部の大きさと威厳に少し驚いたが、臆することなくウィスタリアの目を見る
「あなた、何か用?」
白金は返答を考えたが、ウィスタリアにごまかしは通じないと直感する。
「こちらに先日入った連れに会いにきました。」
「なぜ?」
「連絡が取れていなかったんで。ダメですか?」
そう言い切る白金をウィスタリアは睨み付ける。
無言の圧力に空気が張り詰める。
先程まで庭先で遊んでいた少女も俯いている。縁側でその出来事を見ていた給餌係の組員はやれやれといった呆れ顔をしている。これからどのようなことが起こるかわかったような顔である。
しかし、その組員の予想は外れることとなる。
「そう、わかったわ。」
そう言うとウィスタリアは振り返り志野川を見る。
「志野田ちゃん。あなたの知り合い?」
「あ、ええ、はい。」
予想外の問いかけに呆然としていた志野川が答える。
「顔だけみせて、さっさと帰ってもらって頂戴」
ウィスタリアはそう言うと縁側の方に歩いていく。
志野川は白金のもとに駆け寄る
「ちょっとあんた、なにしてんのよ」
「いや、連絡とれねーからよ
でも意外と何とかなるもんだな!」
そう言って白金は笑っていたが、志野川はウィスタリアの対応に引っかかっていた。
「用件はこれ見ればわかるから」
白金はそう言って作戦を書いたメモを志野川に渡した。
「じゃあ俺いくから、気を付けろよ」
白金はそう言うとそそくさと離れを後にする。
志野川は離れにもどりウィスタリアの部屋をノックする。
「失礼します。ウィスタリア様、ご配慮いただいてありがとうございました。」
「んふ、今回だけよ」
「ありがとうございます。ですがどうして…」
「んふ、あの目は革命を望む人の目…水時と同じ」
「えっ?」
「なんでもないわ、ただの気分よ」
「…そうですか、わかりました。」
ー作戦決行の日ー
白金と烈島は起床し、他の組員と共に食堂へ向かう
そこには多数の組員と角田、桐崎の姿もある
「飯塚、今日も頼むな」
「はい、承知しました。」
角田と飯塚がそんなやりとりをしている
白金と烈島もいつも通り食事を取る。
食事を終えた組員はこの後の会議に向けて自室に一度戻り移動を始める。
会議は正堂と渡り通路で繋がった決起棟と呼ばれる建物にて行われる。
この決起棟の中はワンフロアのおおきな空間になっており、全組員が集合できるスペースになっている。
白金と烈島は食堂で決起棟に向かう組員と、本堂の方に向かう角田、桐崎を確認する。
報礼の儀だ。
作戦開始のため、2人は席を立つ。
決起棟にて、飯塚が会議を始めようとする。そこに整列中の組員から報告を受ける。
「白井が来ていません。」
「こちらは烈野がいません。」
「あいつらどこいったんだ?」
飯塚が頭を悩ませていると、大きな音と振動がする。
ゴゴゴ..
「なんだ?地震か?」
地震かと思われた地響きだったが、何かおかしい、決起棟に差し込んでいた光が無くなり、外が薄暗くなったのだ。
「飯塚さん!外見てください!」
外を覗いた組員が慌てて飯塚を呼ぶ
「なんだ?」
外を見た飯塚は唖然とする。
外には決起棟を囲むように4m程の鉄の壁が聳え立っているのである。
壁の上部には登れないよう有刺鉄線が張り巡らされている。
「なんだ..これは、クラフトか?
こんな大クラフト、一体誰が..」
報礼の儀のため、本堂に入ろうとしていた角田と桐崎も異変に気づく、地響きがしたと思い、後ろを振り返ると、決起棟を囲うように壁のようなものができている。
「何だあれは」
角田と桐崎は急いで決起棟の方へ走っていく、決起棟の近くまで来ると、壁を見上げる
「これは..」
桐崎も黙って壁を見つめている。
ザッ
角田と桐崎は背後の足音に気付き振り返ると、そこには白金と烈島の姿がある。
「よぉ兄貴、兄弟喧嘩の時間だ」
次回、ついに激突。幹部連中との決戦の幕が上がる。