潜入水神会編③〈女幹部の違和感〉
時は遡り侵入初日、志野川は飯塚に連れられ離れに向かう。
「失礼します。姉御、兄貴の命令で1人連れてきました。」
離れと呼ばれる扉につくと飯塚は扉に向かってそういった。
少し間が空いた後、離れの扉はゆっくりと開き、中から大きな女が現れる。
女は体格の良い角田よりもひと回り大きく、和服に身を包んでいるが、片方の腕は袖を通さず脱いでおり、中にはさらしを巻いた強靭で筋肉質な肉体が覗いている。
「離れに来た目的は本当に命令かぁ?いいづかぁ?」
女は飯塚の首元を掴み持ち上げる
「あ、姉御、この方ですっ、ちゃんと連れてきているでしょう、、」
「んふ、この子ね、可愛い顔してるじゃない
そう、ならいいわ、さっさと帰りなさい」
そう言うと飯塚を放り投げる様に離す。
「は、はぁひ、、、失礼しますっ、」
飯塚は慌てて逃げるように正堂の方へかけていった
「ようこそ女の楽園へ、あなた名前は?」
志野川に微笑みかけながら見下ろす視線に、志野川は他の幹部とは異質な強大さを感じていた。
「志野田です。よろしくお願いします。」
「んふ、志野田ちゃんね。私はウィスタリアよ。」
「はぁ」
「さぁ行くわよ」
そういうと志野川はウィスタリアに連れられ離れの中に入っていった。
「吉田ちゃん、花井ちゃん、彼女をお部屋に案内して頂戴」
「はい!ウィスタリア様」
志野川よりも何歳か年下の中学生程の年齢に見える少女が志野川を先導する。
「こちらが生活するお部屋です。着物も置いてありますので」
「ああ、はい。ありがとう」
そういうと少女2人は部屋を出ていく、志野川は着物を着て周りを観察した、
どうやらこの部屋は女性組員が生活する場らしい、広い和室で、それぞれのスペースにドレッサーや棚が置かれている。
人数的には10人ほどの組員が生活しているようだ、
「志野田ちゃん、ちょっといいかしら」
着物に着替え終えた志野川に入ってきたウィスタリアが声をかける。
「んふ、よく似合ってる」
「ありがとうございます。」
そんな会話をしながら、志野川はウィスタリアの後についていく。
移動中にふと中庭を見ると、まだ小学生ほどの少女が中庭で遊んでいる。
大人の女性組員達は縁側で談笑をしており、正堂の規律のある雰囲気とは、全く違う様子であった。
志野川を連れてウィスタリアは自室であろう部屋に入る。
中には少女たちが複数おり、ウィスタリアがソファに腰かけると、少女達はウィスタリアに駆け寄り、肩を揉んだり、抱きついたりしている。
「志野田ちゃんはクラフトの腕が良い見たいだから、私の護衛にぴったりだと思うんだけど、どうかしら?」
「...わかりました。具体的には何をすれば?」
「んふ、主に私が外出する時についてきてくれればいいわ」
「それだけですか?外出していない時間はどうすれば。」
「ここは女の楽園よ、好きに過ごしてくれれば良いわ
ただし、守ってほしいことが3つ
1つ 離れを出て聖堂や本堂に行くことは禁止
1つ 他の組員と連絡を取らないこと
1つ 他の組員を離れに招き入れない、密会しないこと
「これだけは守って頂戴」
「わかりました…」
そういって志野川はウィスタリアの部屋を出る、その顔は困り顔である。
この離れにいる限り、白金や烈島との連絡手段がない。
志野川はこの離れで情報を収集しながら、白金たちとの連絡手段を探ることにした。
翌日、志野川はウィスタリアに呼ばれ、ウィスタリアの部屋に来た。
「失礼します。」
志野川が部屋に入ると、そこにはウィスタリアと、花井という初日に志野川を案内してくれた少女が神妙な顔で立っている
「志野田ちゃんごめんねー、ちょっと中で待ってくれる?」
「はい」
すると、花井はウィスタリアにむけ膝をつき言った
「ウィスタリア様、お願い事があります。
ウィスタリア様に拾っていただいたこの花井、これまでとても良くしていただき大変申し上げづらいのですが…
こちらを脱退させていただきたくお、おもいまして…」
そう言う花井の声は震えている。
どんな形であれ、世間で犯罪組織と呼ばれる水神会を脱退したいと言うのだ、そんなに簡単なことではないことは花井も決意した顔だ
「なぜ?」
眉をひそめたウィスタリアが花井に問う
部屋の中は張り詰めた空気である。
「ご存知の通り、わたしには親もおりませんが、歳の離れた姉がおります、
うまくいくかはわかりませんが、もう一度姉と姉妹で一緒に暮らしたいと考えております。」
無言が続き、花井は怯えた顔で俯いている。
するとウィスタリアはにこりと笑うといった。
「んふ、そういうことならわかったわ
もう会えなくなるのは寂しいけど、頑張って頂戴」
「よろしいんですか…?」
安堵と驚きを浮かべた顔で花井はいった
「ええ、また何かあればいつでも相談しなさい」
「ありがとうございます!」
花井は満面の笑みで部屋を後にする。
「本当にお世話になりました!」
「志野田ちゃんおまたせ、さぁいきましょう。」
「どちらに?」
「んふ、ちょっと買い物よ」
その後、志野川は護衛役としてウィスタリアについて1日を過ごした。
何か組の仕事を行うかに思われたが、予想に反し、ウィスタリアの言う通り、ただのプライベートの買い物に付き合う1日であった。
志野川はウィスタリアや離れに棲む女性組員達に違和感を感じていた、ウィスタリアも女性組員達も組の仕事には一切関わっていない。
ウィスタリアとその部下達は何のために組に所属しているのか、そして今朝の組員の脱退…
志野川は帰り道の車内でウィスタリアに尋ねる
「ウィスタリア様、一つ伺ってもよろしいですか?」
「んふ、何かしら」
「今朝の様なことはよくあるんですか?」
「今朝?ああ、花井ちゃんのね、
脱退ならたまにあるわね」
「あんなに簡単に…意外でした。」
「んふ、うちにいる子達はいろんな事情があるからねぇ
志野田ちゃんはどうしてうちに?」
不意の質問に一瞬途惑う志野川だったが、すぐに合わせていた理由を話す
「良くしてくれた人が水神会の話を良くしていましたので、興味があって…」
「んふ、そうなのね」
ウィスタリアはそう言いながら横目で志野川の顔を見ていた…
見ていただきありがとうございます。
初投稿なので正直な感想やアドバイスなどいただければ助かります。