潜入水神会編②「密談」
それから数日後、休憩の際に、白金と烈島はひっそりと情報を共有していた。
住み込みと言えど、休憩の時間はあり、各々が食事をとったり、談笑したりしている。
「お疲れ様です。そっちはどうですか?」
「どうもこうもそっちと一緒よ、幹部の1人になる時間を探るって言ってもあいつらずっとこの正堂にいやがる。引きこもってないでちょっとは外出て仕事してくれればチャンスがあるのによ」
「まあ、フォースに目を付けられてる組織ですから、外での仕事はアリや末端の人間にやらせてるんでしょう。にしても、自室にいるだけじゃなく定期的に仕事の様子を見にきますからね、暇かよって思いますよね。」
「桐島はどんなやつかわかった?」
「性格は見ての通りですね。普段は殆ど話しませんし、人間味を感じません。
組織内の役割は主にアリの指示と管理の様ですね。指示と言ってもほぼ恐喝まがいのことばかりみたいですが、 角田はどうです?」
「角田も見ての通りかな、組織の顔役ってところだ、何処かの組織か企業の訪問時の応対とか、アリの引き込みをやってるみたいだな」
「角田が感じよく引き込んで、桐崎が支配する。正に飴と鞭ですね。」
現状、白金達の作戦の問題点は、幹部連中が1人になることは殆どなく、周りに組員が常にいるということだが、その他にもう一つ大きな問題があった
それは離れに連れて行かれた志野川と連絡が取れないことだ。
すると2人の近くに組員の飯塚が腰掛け休憩を始めた。
「あ、飯塚さん、ちょっと聞きたいんですけどいいですか?」
「ん、どうした?」
飯塚は組織内では経験が長いが、基本的には組織の任務には付かず、この正堂で幹部の世話をする世話役であった。
「僕たちと一緒に入ったやつなんですけど、姿を見かけないし、連絡も取れないんですが」
「あーあの女の子ね。彼女は姉御の直属だからねー」
「姉御って?」
飯塚は周りを気にしながら小声で答える。
「前会長の側妻だよ。今も幹部の1人ではあるんだけど、基本組織のことには関係してないし、ただ離れで優雅に暮らしてるんだと」
「じゃあ離れの配属になった人は何してるんですか?」
「どうも前会長以外の男は嫌いみたいでね、男子禁制だからわからないんだよ、何でも女の子は大好きで、特に自分の部下は束縛して管理下に置くと聞くけど
まぁ、実際にはわからないね。僕も姉御付きの人達は、庭作業の時くらいしか見かけないし」
「庭作業?」
「まだやったことない?本堂周りの庭園は庭師を雇ってるんだけど、正堂と離れの周りの庭は雑務の人達がやってるんだよ。正堂周りだけでもすごい広さだからみんな嫌がってるよ」
「その時は離れに近づいてもいいんですか?」
「庭の清掃の時と、伝達事項のある時だけだね、清掃の時も離れを覗いてたりしたらアウトだけど。」
「そういえば、白井(白金)は明後日の土曜日、庭作業やらせるって角田さんが言ってたよ」
「そうすか..」
「そういえば飯塚さん、今日の朝の会議、兄貴達いなかったですね。朝飯の時はいましたけど、なんでですか?」
烈島が飯塚に尋ねる。
この組織では朝、炊事当番が朝食を作り、朝食を取った後、毎朝8:30に朝の会議が行われる。会議といっても基本は形式的なもので、報告と1日の始まりを告げる朝礼の様なものだ。いつもであれば飯塚が司会役として取り仕切り、角田と桐崎に対して報告を行うが、今日は飯塚の取り仕切りのみで会議は終了した。
「今日は木曜日だからな、報礼の儀だ」
「ほうれいのぎ?」
「いわゆる水時会長への報告と上納の日だ、兄貴達は木曜日の朝、本堂に行ってる」
「なるほど、そうなんですね。」
「もうこんな時間か、おまえらも早めに済ませろよ!」
そういうと、飯塚はその場を去っていった。
白金はニヤリと微笑むと烈島を見て言う。
「ユウ、作戦..決めたぜ、実行は1週間後だ!」
「あ、え..はい」
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