潜入水神会編①〈潜入開始〉
それから数日後、3人は屋上で話し合っていた。
「ユウ、どうだったー?」
白金は烈島に調査を依頼していた水神会の概要を尋ねる。
「いろいろ調べました!えーっとですね」
裂島は携帯を見ながら答える
「まずご存知の通り水神会は大川駅から南に約2.5kmのところにあります。
周辺は市街化地域ではなく、住宅はほとんどありません。農地と工場と多いエリアです。
水神会も表向きには水島興業という建設業を名乗っていますが、地元の人には水神会の事務所だと知られている様です。
水神会の敷地は約1500㎡、建物が3軒立っているようですが、敷地周りには有刺鉄線付きの塀が囲んでいて詳細不明です。
「事務所っぽくはないわね」
「まー、会長水時の所有地を事務所兼住居として使ってる様な感じだね」
「水時とか他の幹部はどんなやつなの?」
「はい、会長の水時は川野村事件の少し前、当時の会長の息子が引き継いでますので、まだ若い男ですね。性格は残虐非道、息子が水神会会長を継がなければ、川野村事件は起きなかったかもしれませんね。
現在の水神会には会長水時の他に幹部が3名残っているとのことですが詳細不明です。
組織の人数は約40人、ほぼ全員が軍事的な精製術を扱います。
またその40人の他に
〈アリ〉と呼ばれている支配によって犯罪行為に加担されている人が20人程いる様です。水野とかいう人の弟もこのアリの1人でしょうね。
知らずに水島興業のバイトや契約社員として契約するとアリとして犯罪行為を強要させられる様です。」
「なるほど、調査ご苦労さん」
「いえ!」
白金が烈島に微笑むと、裂島はにやけて返事をする
「水神会を潰すしかねーな」
「えっ..」
「え?..」
白金の言葉に2人は呆然とする。
「それは難しいんじゃ..」
「だって水野の弟を助けるっていっても今の話じゃアリって呼ばれる人達は監禁されてる訳じゃないんだろ?」
「はい。」
「恐怖や弱みを握られて支配されてるなら、水神会自体を無くさないと、解決にならなくないか?」
「まぁ、そうですが..」
「あんたまさか4、50人のヴァイオのいる事務所に突撃するつもり?」
「無理かなぁー?」
「むりむりむり!捕まって殺されるだけよ!」
「流石に無理かと..」
「まあ、でも全員を相手にしなくても水時と幹部を倒しちまえば事実上解散だよな?」
「そうだけど、それが難しいって言ってんでしょ」
「それなら潜入でもしてみますか?」
「潜入?」
「水神会の組員として潜入して、幹部が1人になる時があるか、襲撃のタイミングなどを見極めるんです。」
「それありだね」
烈島の意見に同調する白金に対し、志野川はあきれ顔で言う
「本当に言ってる?」
「大真面目!」
「潜入ってワクワクするなー!」
そんな呑気なことを言いながら、作戦を立てる2人と呆然と話を聞く志野川であったが、〈潜入して機会を伺う〉という作戦の元、行動に移すことになった。
約1週間後、学校は夏休みに入り、そんな休日の昼、3人は水神会の門の前に来ていた。
そう潜入開始の日である。
「レントさん、下っ端として入るんですから、おとなしくしててくださいね。」
「それくらいわかってるって」
白金はドンドンと門を叩く
「水神会さーん、俺たち雇ってくれませんかー?」
門を叩くが、人が出てくる気配がない
「おーい出てこ..」
と、強く門を叩こうとしたところ、門が開き、中から組員と思われる2名が出てくる。
手には警棒の様な棒を持っている
「なんだ?おまえら、うちになんか用か?」
「俺たち水神会にはいりたくて来ました!精製術には自信があります!」
裂島が組員に対して言う。
「ここはガキが来るところじゃねーんだよ」
組員は睨み、3人威圧する。
「ただのガキじゃないところ見せましょーか?」
白金はそう言うと目の前の地面に手をかざし、精製を開始する。
徐々に精製され、形どったのは組員に向けられた巨大な大砲だった
「てめーなんのつもりだ!」
巨大な精製物に驚いた組員は焦りながら武器を構える。
「まぁ待て、おまえら」
すると、門からヌッと現れた大男が、組員の武器を掴む。
「素晴らしい精製術だ、君たちうちに入りにきたの?女の子もいる様だけど..」
「はい!私達は小さい頃から水神会さんに憧れていました!」
水神会さんには数名、給仕などを行う女性の方もいると聞いたので..」
「・・・
ふむ、まぁ良い、入って中で話そう。」
「はい!」
白金と烈島はニヤリと顔を見合う。
3人の予想は当たっていた、縮小傾向にある水神会が優れた精製術師を追い返す訳がないと
3人は大男の後ろについていく
すれ違う組員が「アニキ、お疲れ様です!」と、挨拶する。
どうやら、幹部の1人のようだ
巨大な体に茶色く焼けた肌、短髪でいかにも手強そうな図体だが、意外に人あたりは良さそうで、3人にも微笑みかけながら話しかける。
「何処で精製術は習ったの?」
「死んだ父親に教えられました!」
「ふーんそうなんだ、うちに入りたいなんて珍しいねぇ」
「俺たちを面倒みてくれてた親戚の兄さんがよく水神会さんの話をしてくれていたので!」
3人は事前に決めていた設定を淡々と話す。この男の名前は角田と言うらしい、
3人は名前を白井(白金)、裂野(裂島)、志野田(志野川)と偽った
中庭のようなところに来ると立ち止まり、角田は言った
「うちは精製術を使って色々な仕事をしていてね、まずは君たちの力を見せてくれないか?」
「ここで精製を?」
「うん見せてくれる?」
3人は顔を見合うと精製を始める。
3人の周りや手元を青い光が覆う。
白金は剣と大きな盾を、志野川は手元に5本の投げナイフ、烈島は設置型の爆弾と起爆装置を精製した。
角田は驚いた様な表情で言う。
「君たちすごいね。」
「君はさっき大砲を作ったけど、能力は鉄?」
「そうです。」
「ふむふむなるほど、わかった!」
そう言うと角田は、作られた精製物を両手で抱えて3人を建物内に案内する。
おそらく応接室なのだろう、部屋の中のソファに3人は座る。
「ちょっと待っていてくれ」
そう言うと角田は部屋を出ていく、部屋の隅には1人の組員が立っている。
少しすると角田が1人の男を連れてくる。
「この子たちだ!」
「こいつら..?」
角田が連れてきた男は角田と対照的に背は小さく、眼鏡をかけ、人相の悪い男だった。
「君たち待たせたね!今日から住み込みで働いてもらうことになったから」
「あ、いいんですか?」
「と言ってもまずはこの家で雑用からやってもらうから
白井(白金)は僕の直属、裂野(烈島)は彼、桐崎って言うんだけど、彼の直属だから!」
角田が連れてきた桐崎という男は、無言でこちらを見ている。
「よろしくお願いします!」
「あの私は..?」
「ああ、志野田は、うちの姉御のところだね
おい、飯塚、彼女を姉御のところに案内して」
室内にいた組員に角田が依頼する。
「あ、はい、離れですね..承知しました。」
組員が少し嫌がるそぶりを見せたのが気がかりである。
3人はそれぞれ雑用仕事や生活をする場所へ案内される。
白金と烈島は所属は違うと言えど建物は同じの様だ、殆どの組員は敷地内にある、この一番大きい建物〈正堂〉に居住している様で、ここには角田と桐崎の居室もある。
志野川は姉御と呼ばれる、もう1人の幹部であろう人物の元へと連れて行かれた。その場所は「離れ」と呼ばれていた、おそらく窓から見える奥の建物が離れと思われる。
こうして3人は組織の仕事を行いつつ、情報を集め、襲撃の機会を伺うのであった。
読んでいただいてありがとうございます。
実際に書いてみるとなかなか大変ですね。
頑張りますので宜しくお願いします!