クラフト(製作)&バトルの異能力対戦。〈プロローグ〉
世界には霊能力や占いなど化学で推し量ることのできない「異能」が存在する。だがそれらの異能も事実の証明をすることは難しく、虚構であると認識する人も多いだろう。
ある時、生物学者の蒲生清作(当時35歳)という人物が自身のある異能を公表する。
その異能の正体は「無」からあらゆるものを作り出す。「クラフト」という能力であると説明した。
彼は研究結果の公開の場で自身の能力を実演する。
「例えば、私が今どうしてもボールペンが必要だとする。
なのにボールペンがない..さぁどうしましょう。」
そういいながら彼は大衆の面前で手のひらを上向きにかざす。すると、青白い光がはなたれ、その光がある形を形成していく。
その光が解かれると
「!?」
彼は手にボールペンを持っている。
「何が研究だ。ただのマジックではないか。」
それを見た人達は不思議な光に戸惑いを見せたもののただのマジックだと鼻で笑う。
「そう思われるのも仕方ないでしょう。
では、次は皆さんのリクエストに応えます。」
「ふっ何を馬鹿な。ではこの椅子をもう一脚出してみろ。」
その場にいた別の科学者の1人が室内にあった椅子を指差す。
「なるほど、いいでしょう。」
彼は空いているスペースに手をかざす。
すると同様に青白い光が現れ、形作るように動く。
光が解かれるとそこにはリクエスト通りの椅子がもう一脚現れる。
「なに!?」
「!!」
「それなら車!車ならどうだ!」
「大きいものは大変なんだが..まぁいいでしょう。」
「皆さん少し離れてくれるかな」
「精製..」
そう彼がつぶやくと、先程同様青白い光が彼のかざした手のひらから現れる。それは先程の光よりも大きくまばゆい光を放っている。
そして、その光が消えると..
目の間には一台の乗用車が現れる。
そこから会場は騒然とした。
「どういうことだ!説明してくれ!」「タネはなんだ!」
科学者たちは彼に詰め寄るように質問する。
そしてこれらに応えた彼は言った。
「これが人類の新しい力、精製〈クラフト)だ!」
「私が特別ではない!これは超能力ではなく技術だ!」
それから彼は一躍時の人となった、彼はメディアで自身の力の正体、会得方法を語り、有名大学教授や科学者達が、研究の為の対話を望み、彼は惜しみなく協力した。
彼はその能力を、「精製」又は「クラフト」と呼び、それは人間の内に秘めたる力(精製力)を使い、無から物質を作り出す「技術」とした。
この能力を得るための方法は大きく3つだと語った。
①精製力を感じその力に慣れること
②作り出すものの素材・構造・構築物質・性質を熟知すること
③作り出すものの質感、重さ、温度などを知り、強いイメージを持つことができること
そして、作り出すものの理解が深ければ深いほど、強固且つ精錬された物質を創造することができ、一定以上の理解がなければそのもの自体を生成することはできない。
彼はこの能力について、容易に取得できるものではないが、ある一つのものについて時間をかけ、理解を突き詰め、触れ合い、それを熟練させれば誰でも取得できると語った。
彼は彼自身が特異であるとするならば、その知識や理解の幅であり、1人が2つ以上の物質の生成することは困難であるとした。
また、作り出すものの大きさ・重さは精製力の量に起因し、精製力の量は生まれつき個人差があると語り、一般には車などの大型の物の精製は困難だそうだ。
彼の発信を受け、この「クラフト」の技術は急速に広まった。多くの者が技術の会得を望み、また自分の子供にも、会得したい物の知識を幼少の頃より覚えさせた。
精製教育・精製時代の始まり、「精製革命の日」である。
それもまた必然だ。なぜならば、「クラフト」を会得すれば、無から有を作り出せるのだ、いくらでも商売ができ、物があふれ、裕福な生活を送れるだろう。
しかし、時代の変革に伴い多くの弊害や問題が起こった。
クラフトを会得した者が徐々に増えてきて、物流市場の均衡が破られ、多くの企業が倒産、また、金品や紙幣のクラフトや危険物のクラフト、詐欺が横行し、物があふれ産廃処理が追い付かなくなった。
また、精製の有無や精製力の量、精製するものによってカースト化が起き、虐め問題なども増えた。
それらを受け、精製を悪とする者が集い、反精製連合会(略して反精連」なるものが出現した。
反精連は最初こそ、精製の禁止を訴え演説や講演会を行う団体であったが、徐々に過激化し、時に武力をもって精製を抑制するべきとした。その勢力はみるみる増幅し、反精連による事件が多発した。
今では危険思想の反社会的勢力として指定されている。
蒲生清作によるクラフト革命から8年後、クラフトの能力を会得した者も増えた頃、日本政府は「特殊精製管理取締法」を制定した。
この法律は精製による物流や生活の秩序を保つための法律である。
この法律では新たな国家資格の「特殊精製技能術士」の資格を取得した者かつ、特殊商業の認可を受けた者にしか、すべての事業や業務・商売などで「精製」を使用することは禁じられた。
精製の使用は自らの自宅や所有地などの専有箇所を除く道路、公園、施設等の公共の場では禁止され、これに違反した者は厳しく処罰されることとなった。
クラフトの認可を受けた企業の税率の改変等も行われ、流通等の均衡は徐々に落ち着き、産廃処理や違法な精製の問題は改善された。
しかし、まだまだ問題は多くある。
政府は、国家資格により精製士という特殊な職業が生まれたことに武力を以って反発する反精連や、精製能力を武力に応用し犯罪を行う者「ヴァイオ(violation crafterの略)」への対策として、
「特別精製自衛隊」を立ち上げ、軍事的精製能力を用いて、これらを取り締まった。
こうして急速に移り行く精製社会。精製士資格の受験希望者は溢れるほどいたが、難易度の高い国家資格に挫折し淘汰されていった。
時は立ち、この物語は、クラフター第二世代と呼ばれる、精製教育を受けた子供たちが成長し、精製士として活躍する物語である。
精製革命から55年の月日が流れたある日、高校1年生(15歳)の白金レントは制服姿ポケットに手を突っ込み歩いていた。
彼が歩く街並みには一般の店と「クラフト」と書かれた店が混在している。
しかし、ほとんどのお店は一般のお店で「クラフト」と書かれた店舗は約1~2割程度である。
法改正によって一般のお店とクラフト許可の店の均衡が保たれているのである。
白金は学校へ向かうため歩いていた。すでに時間は登校時間を過ぎている。
そうして歩いていると何やら少し先が騒がしい。
何かと覗いてみるとある銀行を注目するように、少し離れた場所から人々が様子をうかがっている。
「おっちゃん、なんかあったん?」
白金は向かいの八百屋の店主に尋ねる。
「ヴァイオが銀行で騒いでるそうだよ。金を要求してるんだとさ。」
「今、フォースの到着を待っているんだよ」
白金はそれを聞くと、にやりとえみをこぼし銀行に向かって駆け出す。
「おいっ君! 危ない」
白金はそのまま銀行の自動扉を蹴破り、中へ突入する。
「何だ!?」
強盗犯は驚いて振り返り、銃を向ける。
「ヴァイオはっけーん」
白金は不敵な笑みを浮かべながら、強盗犯に向かって歩いていく
「てめぇ!来るんじゃねぇ」
強盗犯は焦ってそういうと、目の前に迫る少年に向け、躊躇することなく銃の引き金を引いた。
バーンと銀行内に銃声が鳴り響く。
職員や銀行内の客は恐怖で頭を伏せた。
白金はすぐ隣にあった柱に身を隠し弾丸をよけていた。
「出てきやがれ!」
強盗犯は錯乱しながら拳銃を柱に向かって連射する。
1発、2発、3発と..
最初の一発を含め6発目を打ち終わると、白金は柱から飛び出す。
白金は知っていたのだ、犯人が持つリボルバー式拳銃が6発まで装填可能であることを
犯人はそれを見てニヤリと笑みを浮かべる。
「残念だったなぁ!俺は拳銃と弾丸のクラフターだ!弾なんざ無限に精製できるんだよ!!」
犯人が銃の引き金を引く、白金の周辺には身を隠すものがない
バーンと、銀行内に銃声が響く..。
銃弾は白金に向け放たれ、直撃した..と思われた瞬間
白金の手からに青白い光が光った瞬間、白金の手の前に40~50cmの正方形の鉄板が現れ、銃弾を受け止めている。
「精製..アイアンプレート」
銃弾を防ぐとそのまま犯人までの距離を詰め、犯人の拳銃を持つ腕を蹴り上げる。
拳銃は犯人の腕から離れ、地面を滑る。
「俺は鉄のクラフター、拳銃は装飾部を除けばほぼ鉄の塊だ..俺の劣化能力だなぁ」
そういうと白金の手に拳銃が精製され、犯人につきつける。
「また拳銃を精製しようとするなら撃つ」
犯人は額から汗を流しながら、嘲る様に言う
「鉄は作れても弾丸の火薬は作れないだろ?」
白金はフッと笑った。
「狩猟に使われる銃の多くは空気銃だ、獣がいけるなら人間も殺れるぜ?」
それを聞いた犯人は膝から崩れ落ちうつむいた。
「くそ..くそ」と小さくつぶやいていた。
それから約10分後、銀行に特殊精製自衛隊の隊員数名が到着する。
「現場に到着、既に民間人は解放されているようだ。」
金髪の男が無線機に話す。
「たいちょー犯人いたっすー」
フランクな口調の男が金髪の男に向かって報告する。その指さす先には先程の強盗犯が拘束されたれた状態でうつむいている。
「おいおまえ、何があった?」
「制服のガキが..鉄のクラフター..ふざけやがって」
金髪の男はそれを聞くと神妙な顔でつぶやく
「またか..」
彼の管轄地域では同様のケースが数件報告されていたからである。
白金は学校に到着すると、自分の教室に向かって廊下を歩く、既に1限目の授業始まっているようだ
「おくれてすいませーん」
そういって扉を開けると、授業をしていた担任の吉田がこちらに向かってくる。
「もう授業始まっているわよ?何してたの!」
「いや、銀行強盗から銀行を救ってました。」
「何をばかなことを言ってるの!早く席に着きなさい!」
そういうと白金の頭を小突いた。
「いてーな!マジだって」
「このババアが..」そうつぶやくと自分の席に着く。
隣の席の裂島ユウが白金に尋ねる
「何かあったんですか?」
この裂島は白金と同じく、幼少の頃より精製術を会得している。
白金とは同い年ではあるが、白金の技術・強さに憧れ尊敬している。その為、烈島は白金に対し敬語を使っていた。
ちなみに、この時代、精製術は資格を取得し、かつ使用の許可がなければ使用が許されず、使用すると精製違反者として厳しく罰せられるため、街中で使用されることはほとんどなく、皆、資格獲得を目指し精製術を会得するが、高難度の資格試験に挫折し、結局、精製を使う機会がないというのが現状だった。
資格の受験は16歳以上の年齢制限があり、白金や裂島は資格未取得者である。
白金や裂島の様に日常生活で精製を使用するのは浮いた存在であり、ヴァイオか異常者くらいのものだ。
特に精製能力を武力に用いることは精製違反の中でも重罪で、未成年者であっても見つかれば、特殊少年院(精製違反者が主)への送還は避けられない。
「銀行でヴァイオが暴れてたから、捕まえただけなのによぉ」
「さすがっす。レントさん」
「ユウ、今日もまた放課後スパーしようぜ!」
「裏山ですね!」
彼らはスパーと名付けた、精製を用いた模擬戦を度々行なっていた。
「ちょっとあんたらいい加減にしたら?」
前の席に座る、志野川チアヤが2人に向かって言う。
志野川は白金と幼馴染であり、姉弟の様な関係である。というのも白金が幼少の頃、両親のいない白金を引き取ったのが志野川の両親である。
(現在は志野川家を離れ、一人で住んでいる。)
「うるせーなチアヤ、ユウのところの裏山だから大丈夫だ」
裂島は地主の子で、自宅の裏に裏山を持っている。
自分の敷地内で精製術を使用するのは問題ないため合法であるが、同意とはいえ、人に向けて軍事的使用をするのはグレーだ。
その日の放課後、裂島の家の裏で白金と裂島は模擬戦を行っていた。
白金が手を裂島に向けると柱状の鉄が2本精製され裂島に向かって突撃する。
大きな地響きとともに白い煙が立ち込める。
「さすがっす、もう精製力からっぽです」
煙の中から参った様子の裂島が歩いてくる。
「おつかれー」
近くに座っていた志野川はボロボロの2人を見てやれやれと溜息をついている
白金と裂島は志野川の近くに座る。
「俺らも今年で16だ、俺は精製術士受けるぜ、おまえらは?」
「もち受けます。」
「私も受けるけど、あんた達、筆記試験受かるの?」
白金と裂島ぎくりと顔を見合わす。
「まぁなんとかなるだろ」
「それよりレントさん資格とってやりたいことあるんですか?」
「俺はフォースに入って、フォースが追ってるあるやつを捕まえる」
「手配中のヴァイオっすか?」
「まぁそんなところかな」
志野川はそんな会話を聞きながら眉間にシワを寄せる
数日が経った日の朝、白金は昼休に学校の廊下を1人で歩いている。
すると1人の女子生徒に声を書けられる
「白金レントくんだよね?いまちょっといいかな?」
白金には誰か見覚えがない生徒だった。
「誰だっけ?」
「あーごめん、あたし2年の水野アイカ」
「ちょっと君に頼みがあるんだけど」
「俺に頼み?なにを」
それに対して引きつった笑顔で水野が言う
「君って敬語とかの概念ないんだね..笑」
「もう昼休終わっちゃうから放課後少し付き合ってよ」
「えー..」
「じゃあ正門のところで待ってるからー!」
そう言うと水野はその場を去った
白金は訳がわからず呆然とその後ろ姿を見ていた
授業が終わりみんなが下校する中、志野川は窓から校門を見る、白金が女子生徒についていくのを見て不思議に思った
白金は水野の後ろを不満そうな顔で河川敷を歩く
「で、頼みって、、なんすか」
「あ、概念」
「ちっ」
「この間の駅前の銀行強盗を捕まえた少年って君でしょう?」
白金はぎくりと水野を見る
「なぜ、それを…」
「なんでって君たち、畑良町じゃバカラ山の少年って有名だし笑」
「…」
烈島の家の裏山は畑良山と言う名の山だったが、畑良山は彼らの精製術の使用によって部分的に木などが無くなった場所があったり、白金の精製した鉄の柱が山から生えていたりと異様な山となっており、そして地元の人たちは3人の悪ガキによるものだと知っていた。
その為、地元の大人達は愛称を込める意味も含めて「バカラ山」と呼んでいた。
「隣の大川駅にさ…水神会の事務所があるの知ってる?」
「ああ、川野村事件の…」
「そう、水神会の事務所建設を拒んだ川野村が、水のクラフターの会長 水時によって一夜にして湖の底に沈んだ事件…」
水神会は反精連に加盟していながら精製術を使うヴァイオ組織という矛盾した組織である。
彼らが起こした事件の後、フォースによる逮捕、弾圧を受け、規模を縮小したが、会長 水時と数人の幹部はフォースの追跡を逃れ大川駅でまた勢力を拡大化しているという
「それがどうした...すか」
「もういいよタメ口で笑
うちの弟がさバイトだって言われて水神会に入っちゃったの…
抜けれないって、このままだと悪事に加担させられるって…」
少し取り乱した様に水野が言う
「…俺にそれを助けろって?」
「ごめん、いきなりのお願いでおかしいのはわかってる
けど、うちは今まで兄弟2人で過ごしてきたから誰にも頼めなくて…
君たちは畑良町じゃ手がつけられない子達って有名だけど、精製術の天才だって」
「親は?」
「親はいない…お父さんに育てられたけど3年前に病気で」
「…悪いけど、俺には助ける義理も理由もない」
「…そうだよね、ごめん」
白金はそういうとうつむく水野を背にその場から離れる。
河川敷の土手を登ると真っ赤な夕日が白金を照らす
「やるんすか?」
木陰から烈島と志野川が出てくる
「おまえらなんでいんだよ」
「同情でもした?」
志野川が白金に聞く
「そんなんじゃねーよ」
「あなたがいくなら私もいくから」
「俺もいくっす」
白金はやれやれといった具合に頭を掻く
「…知らねーぞ」
読んでいただきありがとうございます!
一作目でわからないことも多いのでアドバイスなどいただけると助かります。
世界観の説明で少し堅苦しくなってしまったかもしれません...。
次話も読んでいただければと思います!