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第4章 腸閉塞手術(1)4,5,6日目

 明けて、四日目の腸閉塞内視鏡手術である。朝方新しい患者が入院した。話をカーテン越しに聞いていると、寿司屋さんでこの病院の常連のようだ。どうやらオレと同病らしかった。担当医師は同じで、丁髷の山田先生である。

 手術予定時間が来ても呼ばれず、一時間遅れて手術室へ運ばれる。今度は車椅子でなく、ストレッチャーと呼ばれる移動ベッドであった。

 手術室へ入って、人がたくさんいるのには驚いた。医師クラスは2人、看護師は4.5人、技師あるいはインターンらしいのが3.4人いる。

 手術台に横に寝かされ、麻酔用の点滴をセットされ山田先生に

「眠くなりますよ」

 と言われたら、アッという間に落ちていた。気が付いたら手術の真っ最中である。内視鏡が大腸内を侵入していた。腸閉塞の場所を探り当てると、閉塞箇所の修復に入る。

 山田先生が言うには閉塞箇所にステンドをはねて、開通させるとのこと。オレは意識朦朧で、痛みが走ると目が覚める。また朦朧するの繰り返しであった。

 どのくらい時間が経ったのかもわからず、何度もチャレンジして失敗の連続だったが、とうとう閉塞は解消された。先生が

「よく頑張ったね」

 と言ってくれた。このときの先生の顔は神々(こうごう)しく見えた。良かったと思いながら、この先が本当の手術である。2時間弱の手術が終わり、ストレッチャーで病室へ戻り、紙オムツを装着させられた。

 それから1,2時間毎にトイレ通いとなる。ガス(おなら)の音が物凄くてビックリした。音消しのため流水音を出して用を足すが、中身はほとんどは水である。

 1週間も固形物を食べていないのだから、こんなものかと思った。一晩に5回トイレに行くが、お通じは先細りしまいには出なくなる。

 オシッコは順調なのだが、嫌な予感がする。イカン、イカン。気持ちがネガティブになれば、その通りの現実が待ち構えているだろう。

 お腹の痛さは相変わらずで、痛み止めのソセゴンを続けていた。一時は腹の膨張が幾分減ったかに見えたが、元に戻ってしまう。

 午前中に先生が回診に来て手術は成功したことと、要らないものを排出すれば、腹はペッタンコになると話す。オレは早くそうなればイイナと、漠然と思っていた。

 この日に窓側の斜め前の住人が退院する。髪を茶色に染めた若いナースが請求書を持って来た。

「お会計は9万円余りです」

 住人はビックリした声で

「エッ、そんなにするの。今、持ち合わせがないよ」

 ナースは

「入院保証金5万円を預けているので、差額の4万円余りです」

 住人は声が出ない。

「……」

 ナースは気まずそうに

「わたし、難しいことはわからないので、受付の方で相談してください」

 と言い残すと、逃げるように去って行く。大部屋にいる残りの3人には筒抜けである。彼女は自分の間違い二つに、気付いているだろうか。

 答えはNOであろう。金銭はプライベートに属することなので、他人に聞こえるところで話さない。少なくとも、金額は言わないのである。

 次に患者の身になって話をすること。ナースは伝えることだけ言ったら、わからないと親身に欠けていた。住人は嫌な思いをしたことだろう。

 ナースに事務的仕事をさせると、こう成りがちかもしれない。制服姿の受付や金銭を担当している事務職が実施している病院もある。

 オレの方はガスも細くなっていく。痛みは少しずつ増えていくような、ネガティブ思考に落ちていきそうだった。


 4日目の夜が明け、5日目の朝が来た。空いた窓側のベッドに、新住人の到来である。来たときから賑やかで声が大きく、何しろお喋りである。

 年齢はアラカン(アラウンド還暦)で最初は独り者かと思ったら、息子さんがいるとナースに言っていた。クシャミも賑やかで、いつもドキッとするオヤジ級である。

 アレルギー性鼻炎持ちのオレにはあんなオヤジクシャミをすると、すぐにエネルギーが消耗してしまう。だからクシャミも、省エネでしないと身体が続かない。

 デカいクシャミができる人はほぼ単発である。最近は女性も、オヤジクシャミをする時代になった。良い悪いは別にして、これが時代の流れであろう。

 この日の夕方、隣の住人の手術であった。行きは車椅子であったが、帰りはストレッチャーである。全身麻酔で昏睡していた。

 この夜は彼のうなされ声が病室を静かに巡る。明日は我が身の思いで聞いていた。眠りから覚めなくても、痛みは寝言で発するのだろうか。

 頻繁にナースが訪れて、数々の処理をこなしている。夜勤のナースはベテランが多く見受けられ、テキパキと作業を片付けていた。看護師の我が娘もこうならイイナ。 


 翌日の入院6日目になると、山田先生が回診する。手術を終えた隣人に、大腸ガン第2ステージであると話が聞こえた。オレと同病か。手術すると、ああいう風になるのだなと理解した。オレはステージ2か3と言われており、大変参考になる。

 この後、オレの診察であったが、先生はあまりいい顔をしなかった。お通じが出にくいのは閉塞部分の圧迫が強く、ステンドが機能していないようだ。

 明日もこのままなら、大腸の閉塞場所に管を通して開通させ、お通じを排出するとのこと。嫌な予感ほど当たるとは、よく言ったものだ。 

 大事になりそうな雲行きであった。腹はパンパンに膨らみ、もうセソゴンなしでは眠ることもできない。遂に薬物依存症寸前である。

 マア、痛みがなければ点滴などしないのだが。隣の住人はかなり痛がっていた。大腸ガン手術後はオレの姿なのだから、よく観察しよう。と思いつつ、こちらも具合が最悪であった。フッとした睡魔に襲われ、簡単に眠りにつく。


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