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第5章 スーパーナース登場(4)

 次の日になり、山田先生がモスグリーンのユニホームを着て

「すごいジュースだね」

 棚にオレンジ、リンゴ、ピーチ等のジュースが並んでいた。

「甘いのを飲まないと、空腹感が満たせないので」

「そんなに腹が減るなら、重湯を出しますか」

「エッ、いいのですか」

「検査が良ければね。白血球が増えすぎています。呼吸は苦しくないですか」

「大丈夫です」

「腹と胸をCTで診ます」

 その後、先生は看護師に指示する。

「※グロブリンを2本にして、栄養剤は止め。※クラビットを投与して、白血球が60000だから、膀胱炎ではそこまで増えない」

※グロブリン:血液製剤で、ウイルスからの攻撃を免疫細胞と共に防衛する。ガンに掛かり、免疫力低下している患者に有効。

※クラビット:抗生物質で、感染時に細菌のDNA複製を阻止し、殺菌作用がある。泌尿器系に効果。

  

 なるほどね、6万も白血球があるのか。コロナ並みとのことだが、オレの現状を診てあり得ないと先生は思ったようだ。山田先生の態度がぎこちなかった。もしかして、夏目雅子の病気じゃないだろうな。

 そう、あの日本美人だった彼女を苦しめた病名は白血病だ。エッ、だったら、ヤバいんじゃないか。熱が収まらなかったら、決まりかもしれないぞ。

 すぐに点滴が交換された。そして1時間後に、CT室から要請が入る。車椅子が準備され、乗り移ろうとするが簡単にいかない。

 足がふらつき、高熱の影響が残っていた。ちょっと動いただけで息が切れ、仕舞には吐き気が襲う。吐き用の器具を持って地下1階へ。

 CT室で検査技師の手を借りて、マシンの中で横になる。都合5回息を吸って、止めてを繰り返す。たった15秒間、息を止めるのが苦しくて閉口した。途中検査技師に

「このマシン2億するかい」

 と言ったら、彼は

「そこまで高くありません」

 そうか、半値の1億くらいか。なんて考えていた。マシンから降りるときに、若い医師が無断で腹を触り

「腹が引っ込んだな」

 と滑った転んだを言ってきた。なんだ、こいつは手術のときの研修医か。親父以上の世代にタメ口とは大物だ。担当医でもないのに断りもせず、身体に触るとはね。

 嫌味を込めて、馬鹿丁寧に答えた。あのアホ研修医は気付かないだろうな。まだ半人前なのだから、礼儀知らずのお子ちゃま医師では、まともになるのは難しい。

 オレが言うことでもないし、これもワーストナースと同じで勘違いしている。自分で気付かないとアカン。帰り際に、見たことがある健康新聞があったので1部もらう。

 病室に帰るとき、4階に健診センターがあり、人間ドッグと健康診断をやっているとのこと。横浜市の健康診断も取り扱うので、次回からはここでやろう。ベッドに一苦労して、やっと戻った。

 落ち着いてから健康新聞を読んだら、何と○○○病院と同じ経営団体であった。これで思いついたことがある。

 いつもレントゲン室や検査室に、患者が少ないのが同じであった。コロナ騒ぎで、待ち合わせをしないようにしている可能性もあるが。午後に先生が来て

「CT検査では胸部腹部共に異常はなしです。念のため、点滴の心臓カテーテルは抜きます。これが原因だと、すぐに全身を細菌が回りますから」

山田丁髷医師は手際よく、撤去作業を行う。カテーテルを抜くとき痛かったが、何とか声をあげずにしのぐ。心臓カテーテルがなくなり、今後の点滴は腕から実施するのだが、オレの腕の悲惨な運命が待ち構えているなんて夢にも思っていない。

腎盂炎じんうえんかもしれないね」

 と言って山田医師は出ていく。なんか取って付けたような言い方で、少し嘘っぽく聞こえた。アッと、重湯をいつ出してくれるのか、聞くのを忘れる。

 後でナースに聞いてくれと頼んだ。返ってきた返事は

「夜ご飯の指示にはありませんでした」

 なるほど、直接先生には聞かないのね。先生が忘れているから、聞いてくれと言ったつもりだったが。若いナースにはそこまで無理か。1日我慢して、明日の診察のときに聞こう。

 熱は下がると、解熱剤の効力が消える4、5時間後に発熱した。その度に震えが来て毛布を二枚重ねにし、解熱剤の点滴をセットする。

 39.6度まで上昇すると、頭は朦朧となった。ふらつく頭脳で

『オレは何をしているのだろう。そろそろ、天使が迎えに来るのか。ミカエルのやつ、遅いな』

 辻褄の合わない考えが飛び込んでくる。うつらうつらしていると、汗を掻き出す。薬が効きだし、熱が下がり始めたのだ。これを都合3回繰り返した。

『アア、これは白血病になったな。あと何日もつだろうか。平熱のときに遺書を書くか』

 こんなことを思い立ち、不思議と死への恐怖がなかった。アルコール性依存症で入院するとき、覚悟を決めたせいかもしれない。それにあちらの世界へ、永久移住した知り合いが増えたからね。

 遺書の書き出しは

『こんにちわ。

お元気と思います。私は相変わらずですと言いたいのですが、残念ながらですよ。

本日のこの文章は私のラストメールです。実はすでに私は天使見返る、いや転換ミスです、ミカエルが迎えに来ました。

だから、もう私はいません。でもあなたの中に、いつまでもいますよ。あなたが私を思い出してくれればね。

会いたくなったら、思い出してください。ハイヤーパワーが効いて、あなたの心にカッコいい私が現れますよ。

アイビールックの私があなたの相談に乗ります。見返りはいりません。無償の友情なのでご心配なく。役にたったら、マッカランか八海山で献杯してくれれば結構です。

86歳まで生きる予定でしたが、予定は未定であって、うまく行かないのが人生ですね。でも、私の人生は波乱万丈で、楽しく過ごせてマアマアだったと思います。

ラスト4年の追い込みは良かったですね。アルコール依存症サマサマですよ。この病気にかかって、本来の人間の在り方がわかりました。自助グループのお陰です。謙虚や良心、誠実や感謝の気持ち、無償の愛を習いました。

日本人が世界に評価されているモラルの高さです。酒飲みの頃、私は酷い人間でしたね。自分のために地球は回っていると、考える自己チュー鼠そのものです。

それを気が付かせてくれた、自助グループの仲間には感謝しきれません。

ボランティアに目覚めたのも、ジャズや小説を習うようになったのも、自助グループでのミーティングからですね。

先輩仲間がスピーチで、動かない後悔にはウンザリした。今日からはまず行動して、それでダメならサッパリする後悔を味わいたい、と言いました。

何もしない後悔はもうしないと、宣言したのです。私はこれに感銘し

『迷ったらGO!』

と名付け、自分のモットーの一つにしたのですよ。ここから何事にも、積極的に動くようになりました。我ながら、凄いイメージチェンジです。

そうです、楽観的ポジティブの考え方を習得しました。悲観的ネガティブばかりだった私がですよ。

死ぬか生きるかの病気を体験すると、人間は変わります。いや、変わらないと長生きできないから、変わらざるを得ないのですね』

 ここで4度目の発熱が出て、書けなくなったのである。書くと言うより、携帯に打ち込んでいるのだが。寝る前の検温で38.6度あり、8度以上は看護師の判断で解熱剤の点滴ができる。すぐさまナースはロピオンを点滴した。いつもと違う点滴スピードなので、遅いと言ったら

「遅く点滴すれば、解熱が長く続くでしょ」

 ウーン、そうはいかない病気の世界。たぶん効き目が落ちて、平熱まで下がらないのじゃないかな。そうしたら寝ている間に、ナースが点滴のスピードを調整したようだ。気配で器具をいじっているのがわかった。オレの言い分が正しかったのかな。遺書の続きは明日で完成させようか。

白血病は怖い病気です。ガン闘病中にかかれば、まず助からないでしょう。ダブルの難病になるのか、この先不安がいっぱいの成行きです。

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