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後日談 初デート(1)

アフターストーリーです。

全六話になります。



「ハルさん、今度の連休、遊びに行きませんか?」

「……へ?」


 彼――壮士君が僕にそう言ったのは、四月の終わり。桜も散り切って気温が上がり始めた頃のこと。場所は彼の部屋で、部屋に置かれたテレビには最近流行りの大河ドラマのエンディングが流れている。


「……遊び?」

「はい」


 二人並んで、テレビを見て。

 話が終わって、今週も面白かったと背伸びをして。これは、さてこれからどうしようかな思ったときのことだ。

 

 ――連休。

 そして遊びに?


「……えっと、どこに?」

「それは、ハルさんと相談して決められたらと。案としては先日行ったショッピングモールの映画館はどうでしょう?」

「……えっと」


 それは、もちろん構わないけれど。

 突然のことで少し驚いたけど、誘ってもらえるのはもちろん嬉しい。


 壮士君と過ごす時間は僕にとってなによりも大切なものだし、それに映画といえば前から見たいと思っていた作品の上映がそろそろ始まっていて、ちょうどいいなとも思うし。


 ……でも。


「……嬉しいよ? 嬉しいけど……でもいいの? 最近忙しそうにしてたのに」


 ここ一か月の、彼の姿を思い出す。

 大学四年生。就活の時期。卒論とかその他色々もあって、彼は睡眠時間をギリギリ削らないくらいには忙しなく走り回っていた。


 実を言うと、こうして二人でテレビを見ているのも数日ぶりだ。食事は一緒にしてるけれど、その後はすぐ解散、みたいな。

 彼はいつも申し訳なさそうな顔をしていたけれど。それ位には彼のするべきことは山積みのようで――。


「忙しいから、少し息抜きがしたいんです。疲れがたまっている自覚もありますし、よければ付き合ってもらえませんか?」

「――そっか。それなら、喜んで」


 息抜きか。それは大事だ。

 人間はそれを忘れると簡単に壊れてしまう。社会に出ると体やメンタルを壊して休職や退職していく人はたまにいるものだし。


 ……そしてそんな息抜きが、僕と遊びに行くことだというのなら。

 それはとても嬉しいことだ。そう思う。


「せっかく行くんですし、買い物もしたいなと」

「そう? じゃあ一緒に見て回ろうか」

「……ハルさんは、何かしたいことはないですか?」

「僕? んー、そういえば、その近くで綺麗に花が咲いてるとか……」


 だから、早速約束を交わす。

 ああできたらいいなとか、こんなことがしたいとか。そういうことを二人で話し合う。


 どんな映画を見たいとか、あの店に行こうとか。

 近くの公園でゆっくりしたいとか。それならそこでご飯も食べようとか、お弁当を作っていくねとか。ちょっとしたピクニックですねって。


 彼に疲れを取って欲しくて、楽しんでもらいたくて。

 頑張っている彼を、こ……恋人として、支えたいな、なんて思っちゃったりもして。


「……では、そういうことで」

「うん、楽しみだね」


 しばらくして、無事に予定が決まって。

 なんだかふわふわとした気持ちのまま、部屋へと戻る。

 

 楽しみだなあと思いながらシャワーを浴びて、髪を乾かして。

 身支度をして、次の日の仕事に備えて早めにベッドの中に入って。


「……」


 ――おやすみ、と。心の中で彼に挨拶をして目を瞑る。

 そして次の連休かぁ、もうすぐだなぁと、先程の約束を思い返して。


「……………………………………あれ?」


 ふと、思う。

 本当に、ふと。それまで思ってもいなかったことを。


「……え?」


 約束。息抜き。二人での外出。

 一緒に映画を見て、買い物をして。近くの公園でピクニックをして。


 それって――


「……………………??」


 ――デート、なのでは?



 ◆



 デート。デートである。

 仲のいい男女。恋仲の二人が一緒に遊ぶのだからきっとそうだ。そうに違いない気がする。多分そう。


「……でーと……デート?」


 寝るつもりで体に掛けていた布団をはねのけて、体を起こした。

 ベッドの上、一度寝転んで少し乱れた金髪が頬を擽るのを感じながら、思いにふける。


「……デート、だよね?」


 えっと、えっと、と。胸の前で手を意味もなく動かす。

 どうしようかと思って、でも分からない。少し混乱している。だってデートなんて初めてだ。


 二人で外出したことはあるし、旅行もしたことはある。

 でもあれは恋人になる前だし……ついでに恋愛感情を自覚する前でもあって。


 付き合い始めた後は……デート、と呼べるものはなかった。

 近所のスーパーに一緒に買い物に行ったし、今日も部屋で一緒にドラマを見たし。まあそれだって場合によってはお家デートとかそういうものなのかもしれないけど、でも。


 ……ちゃんとしたデートは、まだしてなくて。

 だって壮士君も忙しそうにしてたし、将来がかかってるし。


「……デート」


 でも、ついにその機会が訪れた……?

 映画と、ピクニックと。ショッピングモールと。そんな風な予定だって立っているし。


 休日の一日。

 きっと、楽しいだろうなと信じられるようで。


「はわわわ……」


 色んな感情が、胸の中で入り混じっていた。

 これまでに創作物で見てきたデートが頭の中をよぎって。画面の向こうのモノだったそれが自分にもやってくるんだと少し不思議にもなって。


 楽しみな気持ちと、混乱とがあった。

 あと幸福感と、それに……。


 ……それに。


「……」


 ……少しの不安も。


「……あ、そうだ……ど、どうしよう」


 ――不安。

 そうだ、どうすれば。そう思う。


 だって僕はデートのことなんて何も知らない。

 作法というか……上手くできるか分からないというか。


 服装とか、普段のじゃダメだよね?

 やっぱり綺麗なものがいいと思う。ついでに僕に似合っているもの。


 ……でも。

 じゃあ具体的にそれがクローゼットの中のどの服かと言うと。


「……うぅ」


 ……分からなくなってくる。

 綺麗で体格に合っているからと、スーツで行くのが間違っていることくらい僕にもわかる。


「……ど、どうすれば」


 ゴロゴロとベッドの上で転がり回る。

 頭の中グルグルと回っていて、正解が分からない。そもそも服だけじゃないし、他にも色々分からない点があって。


 ……どうしよう?


「……うぅぅぅうううぅうぅ」


 喜びと不安が入り混じっていて。

 僕自身よく分からないままに、唸り続ける。


「……」


 ……今日は、少し眠れそうになかった。

 

 

  

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[一言] アフターストーリーありがとうございます。嬉しいです。
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